上 下
74 / 405
mission 2 孤高の花嫁

パーティを抜け出そう!

しおりを挟む
Side-アーシェ 1

 パーティ会場はお城の大広間なんて、こんなシチュエーション初めて! ロマンチックな調度と上品なお花で飾られてテーブルには、立食式のご馳走が並べられている。あたりに流れるのは優雅な学士の生演奏、笑いさざめく紳士淑女たちは踊るような足取りで行き交っていた。
 そうなのよね、こう言う席のお約束って、パートナーっていうか…エスコート役が必要なのよね。
 
 ちなみに兄貴とデュエルは、フランシスの親類に当たる太ましいお嬢様姉妹に拉致られちゃった。しかも、いきなり準備してるとこに乗り込んできて、頭のてっぺんからつま先までジロジロ値踏みするように見られた挙句にすっごいいい笑顔で『合格!』だって! 何様なんだか…あ、お嬢様か。
 ラグちゃんはアーちんにエスコートされて舞い上がっちゃってたから、邪魔するのも悪かったし。
 あーあ、遠い夢って案外つまらないもんなんだなあ…。

 あたしはそばの鏡で、自分の姿を眺めてため息をついた。あたしって、いちおう十六なんだよ? なのに、いつまでもこんなつるぺたのちんちくりんなんだもの…。『いつかは、メリハリのあるわがままボディになってやるんだから! 』って呪文みたいに唱えながら、ジョッキ一杯のミルクを一気飲みするのがあたしの毎朝の習慣だったけど…いつかって、いつになるんだろ?

  その時、鏡に映ったあたしの後ろにひょいと男の子が映り込んだ。あんまりいきなりだったから、小さく悲鳴をあげて飛びのく。
 そこには、ちょっと聞かん気が強そうな金髪に青い目の男の子が立っていた。年の頃は十代前半ってところで、背丈はあたしと変わらない。緊張しているのか、ちょっと赤くなりながらあたしに赤いバラを突きつけてる。…って、誰?

 「お、オレ…クリストファ。ブリジット姐からあんたのエスコート役を任された。…クリスでいいよ」
「ブリジット姐さんから? ってことは、フランシスの親類の子?」
 バラを受け取りながらのあたしの問いに、彼…クリスは小さく頷いた。
「ここの領主は、おれの伯父さん。それと、結婚が決まったのは、おれの兄さん」
「そうなんだ、おめでとう! …って、言っていいのかな? そういえば、花嫁さんにまだご挨拶してないや、あたし。あの…元気そう?」

 あたしはさっき聞いた話を思い出した。確かにおめでたい席だけど、直前に家族をみんな亡くしてるんだもん、元気でいられるはずないじゃない! 思った通り、クリスは顔を曇らせた。そう…そうだよね。なのに、なんでこんな急に婚礼だのパーティだのって浮かれてるんだろ? 彼女自身にとっては、そんな気になれるわけないじゃないの!
 あたしは自分の頬を平手で叩いて気合いを入れる。
「よし! できるかどうかわからないけどあたし、花嫁さんを励ましてくる!そりゃあたしは兄貴たちと違って冒険者として半人前だけど、それでも何かできることはあるはずよね? どこにいるか知ってる?」
 あたしの奇行と提案に、クリスは面食らったように目をぱちくりさせた。でもそれは一瞬のこと、すぐにやんちゃそうな顔で頷くと、そっと二人してパーティ会場を抜け出した。うーん、冷静に考えたらこれって、まんま抜け駆けの構図に近い気がするのは気のせいかな? 兄貴に見つかったら怒られそうだけど、今は怒られる心配なんかしてられないよね! それにせめて事前に冒険者として花嫁さんの顔なり人となりを知っておきたいってのもあるし。


 クリスに案内された部屋は、会場と違って随分と静かだった。そっととの隙間から見ると、部屋の片隅で膝を抱えてじっとふさぎこんでいるように見える。うん、やっぱこれは放っといてはいられないや! あたしはここにくる途中で召喚札と杖を取って来ておいた。ここはあたし自慢の召喚獣の出番だよ! 
「おいでませませ『ついんずぱんさあ』! ついでに『ティコ・チャコ』!」
 召喚にも慣れて来たので、召喚の儀式を簡略化しておいてよかった。言っとくけどこれは、コマンド・ワードっていう略式呪文の設定をした結果ね。緊張感ないのは認めるけど、いちいち戦闘時なんかに大掛かりな詠唱とかやっていられないもん。まあ、これは実践を奨励してる教授からの教えが大きいのよね…。
 いつもの召喚と同じように、淡い光が魔法陣を描く。そしてそこには、猫に似た二匹の小さなヒョウとイタチとネズミの中間って感じの小動物が二匹現れた。両方とももっふもふだから、癒し効果は抜群!
 猫サイズのヒョウは、精霊というよりも大地母神の御使いっぽいって召喚札をくれた先輩から聞いた。これまでたくさんの先輩が召喚を試したって聞いたけど、まともに成功したのはあたしだけだったって先輩は凹んでた。こういう召喚系って術者と召喚獣の相性が物を言うから、こういうことはよくあるんだけどね。
 でもこっちの小動物は、いまだによくわかんない。学校の実習で入った遺跡で見つけて、いつの間にか荷物に入ってこられたの。正確に言うと、可愛かったしお腹空かせてたからビスケットあげたら懐かれちゃったってだけだけどね。とりあえず召喚獣として連れてるんだけど、すっごい食いしん坊! でもやたら賢くて便利で可愛いから、まあいいかって結論に落ち着いたんだよね。
 さあ、頑張って行ってみようか!
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:7,506

帰還した元勇者はVRMMOで無双する。〜目指すはVTuber義妹を推して推しまくる生活~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,394pt お気に入り:591

「きゅんと、恋」短編集 ~ 現代・アオハルと恋愛 ~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:0

アオハル〜学校はスクールカーストが全て?いやちがう〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

可愛ければどうでも良くなってしまった件。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

アオハル24時間

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

告白1秒前

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...