古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

文字の大きさ
105 / 405
mission 2 孤高の花嫁

助ける理由

しおりを挟む
Side-アーシェ 9

 さっきまで、ここにはナディアさんがいたはずなのに。ナディアさんが磨いていたはずのグラスも、乱暴に押し入った衛視隊のせいで粉々に砕けている。なんて酷いことするんだろう?
 もともと自警団って、困ってる人を助けるためにつくられたものだよね? 衛視隊は、何のためにのさばってるの?

「すまない。これは、私のミスだ。詰めが甘かった…」
 苦さ混じりの兄貴の声を遮って、あたしは叫んだ。一気に頭が沸騰する。
「兄貴は、兄貴は強いからそんなことが言えるんだ! 無力なあたしの気持ちなんかわかんないよ!」

 もう、自分でも何を口走っているのかわからなくなった。完全に八つ当たりだとわかってるのに、止められない。あたしが、兄貴ぐらい強かったら。どうするべきか、とっさに決断出来てたら…! 
 頭の中は、後悔でいっぱいになっていた。もし逃せてたら、もし隠れられてたら。考えてもキリがない、そんなありもしない選択肢。正しい道はどこだったのか、いまだにわからないけど。

「助けられなかった人は、私にもいる。悔やんでも悔やみきれないほど、苦い思いだって…。目の前で、取り返しのつかない事態に陥ったことも一度や二度じゃない」

 その苦味を増した声音に、頭に上っていた血がゆっくりと落ちていくのがわかった。
 そうだ。兄貴は昔、今の女将さんや白銀亭のマスターと一緒に組んで冒険やってたんだっけ。兄貴だって、何も始めから強かったわけじゃない。今のあたしみたいに迷ったり悩んだり、助けようとしても助けられなかった人なんかもいたんだ…。

「だが、彼女は違う。まだ間に合う。取り返しがつかなくなったわけじゃないんだ。なら、間に合わせてみせる…!」
 繰り返してたまるか。あたしにはそう聞こえた気がした。そうだよ、決心がついたらあとは進むだけよね。やっと止まった涙を乱暴に袖口で拭う。
「嫌な相手と無理やり結婚だなんて、本来あってはならないことですわ。わたくしも実家で同じ目にあって来たのですから、痛いほど良くわかります」
 静かな、それでいて強い口調でラグちゃんが呟いた。あたしは彼女を振り返りながら、静かに立ち上がった。
「ラグちゃん…」
「わたくしの場合は、実家を飛び出した後で受け入れてくださった神殿の皆様や師匠、皆さんがいてくださった。だから今の自分があるんです。ナディアさんが困っていらっしゃるなら、またわたくしも力になりたいんです。ナディアさんにとっての希望になりたいんです!」

 そっか。ラグちゃんにとっては今回の事件、人ごとじゃないんだ。自分の境遇と似てるから、自分と同じように助けるのが当然と思ってる。あたしはそんなラグちゃんが誇らしく思えた。
「ナディアさんは、フランシスさんのお城に連れ戻されたようでした。今度は、誰にも会えないように見張りが強化されているそうですわ」

 あたしが倒れた後のことをしっかりと見ていてくれたラグちゃんに感謝! やっぱ、しっかりしてるわ…。
「思い知らせてやるさ、連中が誰を敵に回したのかを。アーシェに手を出した礼は、しっかりさせてもらう」
「ちょっと、兄貴…それ私情モロ出し。こっちの自警団のお世話にならないようにね?」
「安心しろ、八割殺しまでにとどめてやるから」
 はい、安心できる要素ゼロ! 半殺し超えてる…ってかそれ、死んだほうがマシなレベル! うっすらと冷気を漂わせながら語っても、説得力ないよ兄貴…。
「ま、まずはデュエルとアーちんに合流しないとね。それに…」
 あたしは背後で静かに泣き崩れるブルスさんにちらりと視線を投げた。その時に、こっちの話もしておかないと。

「忙しくなりそうですわね。まずはお城で待機のデュエルさんに話を通しましょう! 師匠もいらっしゃるでしょうし」

そのラグちゃんの予想は、外れた。
 いつの間にか外出してたアーちんは、その日の晩が明けても戻ってこなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...