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mission 2 孤高の花嫁
導かれた真相
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Side-デュエル 15
フランシスの懐からこぼれ落ちた小箱。その中に収まっていたものは…。
「つけ髭?」
どこかで見たような、特徴的な形。これは…。
「あら、これフレデリック卿のおひげにそっくりですわね」
「あ、ほんとだ。フランシス、実はお髭に憧れある人?」
アーシェがニヨニヨしながら振り返る。当のフランシスは、力なく首を振った。
「そんなわけないじゃん。ばあや達から逃げ回って、おじさんの部屋のクローゼットに逃げ込んだんだ。そしたら、うっかり落として踏み壊しちゃってさ。どうにも気まずくて、そのまま持ち出してきたんだ。直すまで黙っててくれないか?」
「…お子様かお前は」
小箱の中から出てきたつけ髭をじっと見つめるラスファ。しばらく無言だったが、ややあってフランシスに問いを投げた。
「フランシス…。フレデリック卿はアドルフ卿の実兄。それは間違いないよな?」
「え? それって今更だよ?」
何かを思いついた様子の彼に、フランシスは力なく笑う。俺たちは無言のままで、やり取りを見守った。こういう状態の彼には、何事かの考えがあるはずだから。
「もう一つ確認だ。これは、アドルフ卿のクローゼットにあったものだったな」
「うん、だからさっきそう言ったよ?」
疲れた顔で答えを返すフランシス。その彼に、彼は最後の質問を突きつける。
「…最後に。お前から見て、父親と叔父の兄弟は似ていると思うか?」
それに対する答えは、想像以上に衝撃的なものだった。
「ああ、そっくりなはずだよ。だって叔父さんとは双子の兄弟なんだから」
「「双子!!!」」
俺とラスファが、同時に声を上げた。
「たださ。この辺じゃ双子はあまり縁起良くないって言い伝えがあるから、普段からあえて双子に見えないようにしてるんだとおばあさまから聞いたことがあるよ」
まさか、まさかとは思うが…
「トレードマークの髭をつけて、弟が兄になりすます、ということか? そのためのつけ髭…?」
「いや、それだけじゃない」
俺の呟きに、ラスファが異を唱えた。
「兄を殺して衣装を換え、髭さえ剃れば当主の座は自分のものとなる。『弟』である自分が死んだと偽装した上で、付け髭を使って兄を演じきれば完璧だ。それまで自分が犯した罪も、亡骸とともに葬ればいい」
そこまで語ったラスファに、俺は同意した。そっくりな双子なら、十分可能な話だ。
「そうか! すでに屋敷にはアドルフ今日の息がかかった使用人が潜り込んでいる。そいつらを使って口裏を合わせれば不可能じゃない!」
内側から領主の座を乗っ取る。さぞかし長い時間をかけて企み準備してきてことだろう。兄弟仲はともかくとして、かなり昔から不満を抱いていたことは間違いない。何しろ…同じ兄弟で同じ顔、ただ生まれる順がわずかに違っただけのことで権力の差が発生しているのだから。
「そういうことだ」
「そんな、まさか! 身内…兄弟同士で殺し合いなんて!」
悲鳴のような声を上げるラグに、彼は声のトーンを落とす。
「最初に言ったろ? お家騒動には骨肉の争いがつきものだと。冒険者として今まで関わってきたお家騒動では、さらに凄惨な身内や兄弟の争いを目の当たりにしてきた。現に幾度か領主の極端な二面性について言及されている。兄の評判を落とし、同時に自分が兄を演じる練習も兼ねてのことだろう」
ラスファの推論は、フランシスにとっても衝撃だったようだ。
「そんな…父上が狙われているなんて…」
「…フランシスをこの件に関わらせたのも、散々恥をかかせて『二度と実家に関わりたくない』と思わせ、かつての兄を知る者を一人でも遠ざけるためと考えると納得がいく」
数歩よろめくと出口に向かって進みかけた彼の襟首を鷲掴みにして、ラスファは引き止める。
「知らせ…すぐに知らせを…!」
「慌てるな。少なくとも結婚式まで手は出さないはず」
「なんでそう言い切れるのよ?」
突っかかる妹に、彼はさらに説明する。
「花嫁の家族を殺してまで強行しようとする結婚式だぞ? 一刻も早く王族との繋がりを持って家柄に箔をつけることには、相当な執念を燃やしているはず。だが流石に『領主の弟』が死んだとあっては、貴族としての体面のためにも立派な葬儀を出す必要が生じて当然、式は延期だ。それは本意ではないだろう?」
「そうだ…式の日取りを調べなくてはな」
立ち上がった俺に、フランシスが封筒を差し出す。
「それならここに、ボクが預かってきたよ。式は三日後、夕刻の鐘とともに始まるって!」
「「「三日後!?」」」
俺たちはあまりに急な話に声を失った。事前の根回しがあったせいか、随分と急な話だ。だが何かの考えがあるのか、なおもラスファは強気に出た。
「なら三日後…そこで全てに決着をつける。お前も来い、フランシス!」
「え…えええええボクも!?」
「当然だろ、『冒険者』なんだからな? あの『領主様の弟』に、ひと泡ふかせるチャンスだ。いつもの派手な衣装も用意しておいてくれ」
フランシスの懐からこぼれ落ちた小箱。その中に収まっていたものは…。
「つけ髭?」
どこかで見たような、特徴的な形。これは…。
「あら、これフレデリック卿のおひげにそっくりですわね」
「あ、ほんとだ。フランシス、実はお髭に憧れある人?」
アーシェがニヨニヨしながら振り返る。当のフランシスは、力なく首を振った。
「そんなわけないじゃん。ばあや達から逃げ回って、おじさんの部屋のクローゼットに逃げ込んだんだ。そしたら、うっかり落として踏み壊しちゃってさ。どうにも気まずくて、そのまま持ち出してきたんだ。直すまで黙っててくれないか?」
「…お子様かお前は」
小箱の中から出てきたつけ髭をじっと見つめるラスファ。しばらく無言だったが、ややあってフランシスに問いを投げた。
「フランシス…。フレデリック卿はアドルフ卿の実兄。それは間違いないよな?」
「え? それって今更だよ?」
何かを思いついた様子の彼に、フランシスは力なく笑う。俺たちは無言のままで、やり取りを見守った。こういう状態の彼には、何事かの考えがあるはずだから。
「もう一つ確認だ。これは、アドルフ卿のクローゼットにあったものだったな」
「うん、だからさっきそう言ったよ?」
疲れた顔で答えを返すフランシス。その彼に、彼は最後の質問を突きつける。
「…最後に。お前から見て、父親と叔父の兄弟は似ていると思うか?」
それに対する答えは、想像以上に衝撃的なものだった。
「ああ、そっくりなはずだよ。だって叔父さんとは双子の兄弟なんだから」
「「双子!!!」」
俺とラスファが、同時に声を上げた。
「たださ。この辺じゃ双子はあまり縁起良くないって言い伝えがあるから、普段からあえて双子に見えないようにしてるんだとおばあさまから聞いたことがあるよ」
まさか、まさかとは思うが…
「トレードマークの髭をつけて、弟が兄になりすます、ということか? そのためのつけ髭…?」
「いや、それだけじゃない」
俺の呟きに、ラスファが異を唱えた。
「兄を殺して衣装を換え、髭さえ剃れば当主の座は自分のものとなる。『弟』である自分が死んだと偽装した上で、付け髭を使って兄を演じきれば完璧だ。それまで自分が犯した罪も、亡骸とともに葬ればいい」
そこまで語ったラスファに、俺は同意した。そっくりな双子なら、十分可能な話だ。
「そうか! すでに屋敷にはアドルフ今日の息がかかった使用人が潜り込んでいる。そいつらを使って口裏を合わせれば不可能じゃない!」
内側から領主の座を乗っ取る。さぞかし長い時間をかけて企み準備してきてことだろう。兄弟仲はともかくとして、かなり昔から不満を抱いていたことは間違いない。何しろ…同じ兄弟で同じ顔、ただ生まれる順がわずかに違っただけのことで権力の差が発生しているのだから。
「そういうことだ」
「そんな、まさか! 身内…兄弟同士で殺し合いなんて!」
悲鳴のような声を上げるラグに、彼は声のトーンを落とす。
「最初に言ったろ? お家騒動には骨肉の争いがつきものだと。冒険者として今まで関わってきたお家騒動では、さらに凄惨な身内や兄弟の争いを目の当たりにしてきた。現に幾度か領主の極端な二面性について言及されている。兄の評判を落とし、同時に自分が兄を演じる練習も兼ねてのことだろう」
ラスファの推論は、フランシスにとっても衝撃だったようだ。
「そんな…父上が狙われているなんて…」
「…フランシスをこの件に関わらせたのも、散々恥をかかせて『二度と実家に関わりたくない』と思わせ、かつての兄を知る者を一人でも遠ざけるためと考えると納得がいく」
数歩よろめくと出口に向かって進みかけた彼の襟首を鷲掴みにして、ラスファは引き止める。
「知らせ…すぐに知らせを…!」
「慌てるな。少なくとも結婚式まで手は出さないはず」
「なんでそう言い切れるのよ?」
突っかかる妹に、彼はさらに説明する。
「花嫁の家族を殺してまで強行しようとする結婚式だぞ? 一刻も早く王族との繋がりを持って家柄に箔をつけることには、相当な執念を燃やしているはず。だが流石に『領主の弟』が死んだとあっては、貴族としての体面のためにも立派な葬儀を出す必要が生じて当然、式は延期だ。それは本意ではないだろう?」
「そうだ…式の日取りを調べなくてはな」
立ち上がった俺に、フランシスが封筒を差し出す。
「それならここに、ボクが預かってきたよ。式は三日後、夕刻の鐘とともに始まるって!」
「「「三日後!?」」」
俺たちはあまりに急な話に声を失った。事前の根回しがあったせいか、随分と急な話だ。だが何かの考えがあるのか、なおもラスファは強気に出た。
「なら三日後…そこで全てに決着をつける。お前も来い、フランシス!」
「え…えええええボクも!?」
「当然だろ、『冒険者』なんだからな? あの『領主様の弟』に、ひと泡ふかせるチャンスだ。いつもの派手な衣装も用意しておいてくれ」
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