古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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intermission 4 〜突然の訪問者〜

肉食少女、来襲!

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Side-デュエル 1

 白銀亭には、毎日様々な人間が訪れる。『人間』というのは少し、語弊があるな。中には獣人やドワーフ、エルフや古代の魔族の血を引いた半魔族という種族も少数ながら存在する。

「ちょっと聞くが、ここは獲物の持ち込みはできる店か?」

 だがその日に白銀亭を訪れた客は、飛び抜けて規格外だった。『それ』を見て、俺はぽかんとしながらかろうじて答える。ウサギや山鳥という、可愛らしい獲物ではない。
「いや、多分できると思う…が」
「なんだ? 不都合でもあるのか?」
 やってきたのは癖のない黒髪を長く伸ばした、線の細い印象の色白な少女。整った顔立ちではあるのだが妙に表情に乏しく旅装はボロボロで、長旅の後と思われた。
 ところで…何故巨大なイノシシを担いで戸口に立っているのだろうか?

「獲物の解体を頼みたかったのだが、二件ほど断られた。ここも無理だというなら、次の店に行くが…」
 その言葉に、奥から答える声があった。厨房からラスファが姿を見せている。まあ、彼なら問題ないだろう。
「ほほう? それは、私に対する挑戦か? …裏に井戸がある、そこまで運んでくれ。…デュエル、頼めるか?」
 彼女の言葉は、料理人としての彼に火をつけたらしい。それでもこの大きさは手に余ると判断したのか、彼は俺を指名して裏に促した。
 しかし、何者だ、彼女は?


 ここに来るまでに、すでに血抜きまで済ませていたらしい。数時間の格闘の末にイノシシは綺麗に切り分けられ、部位ごとに分けて並べられた。おかげで固まりの肉がゴロゴロとカウンターに積み上げられている。結構、壮観だ…。
「それで、これはどうすればいい?」
 久々の大物解体に少々お疲れ気味のラスファが、少女に尋ねる。彼女は少し考えるそぶりを見せると、 ややあって口を開いた。

「そうだな。モモ肉はステーキにして、バラ肉は野菜と炒める。あとはお任せで」
 …食う気満々かっ! その場にいた全員が、そうツッコみたかったことだろう。聞いたラスファですら、呆然として呟く。
「…挑戦か? 挑戦なのか? まさかコレ、全部じゃないだろうな?」
「余ったら、店で好きに使ってくれ。代金がわりだ」
 その答えに、女将が頭を抱えた。代金回収は望めそうもない。
「ドミニク…塩漬けの準備をしといてくれ…」
 その中でちょっぴり前向き意見とともに、ラスファがため息をついた。

 それからの彼女の勢いは凄かった。
 出された料理は即座に空になる。この細い体のどこに入るのか疑問で仕方ないくらいの量が次々と片付き、皿が累々と重なっていく。給仕としてサポートすべく皿を運ぶ俺も、呆れるくらいの量だ。見物していた他の冒険者たちの中から、拍手が湧く。
 その勢いが止まったのは、空に一番星が輝き始める頃だった。山盛りだったイノシシ肉は、三割ほど減っている。その量にゾッとした。
「ちょっとラスファ! もういいってよ!」
 厨房に出された女将のストップ宣言。その声に心底疲れ切った声が返って来る。
「ふう…勝った…!」
 …彼は何と戦っていたのだろうか?

「美味かった…三日三晩なにも食べていなかった分を差し引いても、美味い料理だった…!」
 満足しきったように初めて、少しだけ笑みを見せる少女。
「…三日三晩?」
「ああ。前の町を出てエルダードに来る途中で道に迷った。路銀は尽きるし、腹は減るし。勢いでイノシシを狩っても解体もできなかった」
 えー…勢いで狩りってできるものなのか?
「…それで、ここに持ち込みをしていたのか?」
 ラスファの問いに彼女は頷く。そこで、ふと彼女はラスファに目を向けた。じっ…と、目線が留まる。
「ここの料理…全部作ってたのか?」
「? …ああ」
 問い返す彼女に、今度はラスファが頷く。

 それを見て、彼女はにんまりと満面の笑みを向ける。そして、きっぱりとこう宣言した。

「気に入った! お前、私のヨメになれ!」

  …その一言で白銀亭に、激震が走った。
「…は?」
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