古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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short mission 1 〜受難の白銀亭〜

多忙な自警団員

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side-デュエル 1

 今日も今日とて、多忙を極める白銀亭のティータイム。
 なんでも最近発売したミルフィーユが大当たりしてのことなんだそうだ。しかも何故か、件のミルフィーユは愛好者の間で『悪魔のスイーツ』もしくは『悪魔のミルフィーユ』という通称で呼ばれている。由来は何かわからないが、えらくキャッチーな通称がついたものだ。おかげで幾度か観光客向けの雑誌や地元紙の取材が入り、その度に女将さんが対応に追われていた。開発者のラスファはその手の取材に全く応じたがらないのだが、女将さんはちゃっかりと彼こみで売り込んでいるのだからヒヤヒヤさせられる。おかげでここしばらく、俺たちは白銀亭にカンヅメ状態になっていた。

 やがて混雑が過ぎ去り若干ぐったりした俺たちの前に、同じくややお疲れ気味のラインハルトが現れた。
「やあ…巷で人気の『悪魔のミルフィーユ』は、まだあるのか?」
「ああ…悪いが今日の分は完売したんだ。他のケーキならまだ少しあるが、それでも構わないか?」
「なら、お任せで」
 生真面目を絵に書いて色を塗ったようなラインハルトも、実は甘いものに目がない。うちで人気のケーキは大抵チェックしているというのだから、相当なものだ。女みたいだと言ったら本気で怒られたので、以来口には出せないが。

 まだちらほらと客が残っている店内で、ラインハルトの姿は随分と浮いて見えた。それもそのはず、彼は職務に忠実で常に鎧を纏っているのだ。かく言う俺も、純白の鎧姿以外を見たことがない。何より気になったのが、精彩を欠いた表情だ。いつもの彼ならもう少し、まっすぐに前を向いているはずなのだが。
「浮かない顔だな。何かあったのか?」
 ケーキの皿と香茶を運びがてら、俺は彼に聞いてみた。彼らしくないため息で、香茶の湯気が揺れる。
「厄介な事件が立て続けに起きていてな。ちょっと相談に乗ってくれるか?」
 他でもない彼の頼みだ、俺は頷くと厨房にいるラスファを呼んだ。


「実は…」
そう彼が言いかけた時だった。
「邪魔するよ」
「はいはい、いらっしゃいませ~!」
  ラインハルトの死角にあたる扉から、影から生えたように陰気な老婆が現れた。あたふたと女将が応対するが、老婆はそれを無視して店の中に陣取った。
「この宿屋は、呪われておる!」
 いきなり声をあげた老婆。それを聞いた女将が気色ばむ。
「いきなり何だい、ウチの店を侮辱する気かい?!」
「ここの宿屋は呪われておる!」
「二度言った!?」
 もはや、収拾がつきそうもない。俺は女将に加勢するべく、席を立った。ラスファも無言で俺に続こうとする。そこにアーチが帰ってきた。
「おーい、ちょっと聞いたんだけどよ…」
 いつもの締まりのない笑みで、奴がそう言ったその瞬間だった。
「呪われておるうううううっ!」
 ひときわ高い声で老婆が絶叫する。途端に背筋に嫌な冷たさが這い上った。

  老婆はアーチを指すと、きっぱりと言い切る。
「お主は女難!」
  次はラスファを指して水難を宣言し、続いて俺には酒難を宣告する。
「ここの店の者皆、不運に見舞われるぞ! さあこの聖水を飲むがいい! 占いを覆す、唯一の救いじゃ! 今ならたったの、銀貨一枚! 特別に分けてやるぞ! どうじゃ?」 
  誰一人として、その声に従う者はいない。だが老婆は怒るどころか、歪んだ笑みを浮かべて告げた。
「なら三日後。三日後にまたここに来ようぞ! それまで楽しみに待っているが良い!」
それだけ言うと、老婆は戸口に消えてしまった。一体、何だったんだろうか?

「「ああああぁぁあッ?!」」
 珍しく、アーチとラインハルトの声がハモった。
そしてそれが、事の発端となったのだった。
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