149 / 405
short mission 1 〜受難の白銀亭〜
多忙な自警団員
しおりを挟む
side-デュエル 1
今日も今日とて、多忙を極める白銀亭のティータイム。
なんでも最近発売したミルフィーユが大当たりしてのことなんだそうだ。しかも何故か、件のミルフィーユは愛好者の間で『悪魔のスイーツ』もしくは『悪魔のミルフィーユ』という通称で呼ばれている。由来は何かわからないが、えらくキャッチーな通称がついたものだ。おかげで幾度か観光客向けの雑誌や地元紙の取材が入り、その度に女将さんが対応に追われていた。開発者のラスファはその手の取材に全く応じたがらないのだが、女将さんはちゃっかりと彼こみで売り込んでいるのだからヒヤヒヤさせられる。おかげでここしばらく、俺たちは白銀亭にカンヅメ状態になっていた。
やがて混雑が過ぎ去り若干ぐったりした俺たちの前に、同じくややお疲れ気味のラインハルトが現れた。
「やあ…巷で人気の『悪魔のミルフィーユ』は、まだあるのか?」
「ああ…悪いが今日の分は完売したんだ。他のケーキならまだ少しあるが、それでも構わないか?」
「なら、お任せで」
生真面目を絵に書いて色を塗ったようなラインハルトも、実は甘いものに目がない。うちで人気のケーキは大抵チェックしているというのだから、相当なものだ。女みたいだと言ったら本気で怒られたので、以来口には出せないが。
まだちらほらと客が残っている店内で、ラインハルトの姿は随分と浮いて見えた。それもそのはず、彼は職務に忠実で常に鎧を纏っているのだ。かく言う俺も、純白の鎧姿以外を見たことがない。何より気になったのが、精彩を欠いた表情だ。いつもの彼ならもう少し、まっすぐに前を向いているはずなのだが。
「浮かない顔だな。何かあったのか?」
ケーキの皿と香茶を運びがてら、俺は彼に聞いてみた。彼らしくないため息で、香茶の湯気が揺れる。
「厄介な事件が立て続けに起きていてな。ちょっと相談に乗ってくれるか?」
他でもない彼の頼みだ、俺は頷くと厨房にいるラスファを呼んだ。
「実は…」
そう彼が言いかけた時だった。
「邪魔するよ」
「はいはい、いらっしゃいませ~!」
ラインハルトの死角にあたる扉から、影から生えたように陰気な老婆が現れた。あたふたと女将が応対するが、老婆はそれを無視して店の中に陣取った。
「この宿屋は、呪われておる!」
いきなり声をあげた老婆。それを聞いた女将が気色ばむ。
「いきなり何だい、ウチの店を侮辱する気かい?!」
「ここの宿屋は呪われておる!」
「二度言った!?」
もはや、収拾がつきそうもない。俺は女将に加勢するべく、席を立った。ラスファも無言で俺に続こうとする。そこにアーチが帰ってきた。
「おーい、ちょっと聞いたんだけどよ…」
いつもの締まりのない笑みで、奴がそう言ったその瞬間だった。
「呪われておるうううううっ!」
ひときわ高い声で老婆が絶叫する。途端に背筋に嫌な冷たさが這い上った。
老婆はアーチを指すと、きっぱりと言い切る。
「お主は女難!」
次はラスファを指して水難を宣言し、続いて俺には酒難を宣告する。
「ここの店の者皆、不運に見舞われるぞ! さあこの聖水を飲むがいい! 占いを覆す、唯一の救いじゃ! 今ならたったの、銀貨一枚! 特別に分けてやるぞ! どうじゃ?」
誰一人として、その声に従う者はいない。だが老婆は怒るどころか、歪んだ笑みを浮かべて告げた。
「なら三日後。三日後にまたここに来ようぞ! それまで楽しみに待っているが良い!」
それだけ言うと、老婆は戸口に消えてしまった。一体、何だったんだろうか?
「「ああああぁぁあッ?!」」
珍しく、アーチとラインハルトの声がハモった。
そしてそれが、事の発端となったのだった。
今日も今日とて、多忙を極める白銀亭のティータイム。
なんでも最近発売したミルフィーユが大当たりしてのことなんだそうだ。しかも何故か、件のミルフィーユは愛好者の間で『悪魔のスイーツ』もしくは『悪魔のミルフィーユ』という通称で呼ばれている。由来は何かわからないが、えらくキャッチーな通称がついたものだ。おかげで幾度か観光客向けの雑誌や地元紙の取材が入り、その度に女将さんが対応に追われていた。開発者のラスファはその手の取材に全く応じたがらないのだが、女将さんはちゃっかりと彼こみで売り込んでいるのだからヒヤヒヤさせられる。おかげでここしばらく、俺たちは白銀亭にカンヅメ状態になっていた。
やがて混雑が過ぎ去り若干ぐったりした俺たちの前に、同じくややお疲れ気味のラインハルトが現れた。
「やあ…巷で人気の『悪魔のミルフィーユ』は、まだあるのか?」
「ああ…悪いが今日の分は完売したんだ。他のケーキならまだ少しあるが、それでも構わないか?」
「なら、お任せで」
生真面目を絵に書いて色を塗ったようなラインハルトも、実は甘いものに目がない。うちで人気のケーキは大抵チェックしているというのだから、相当なものだ。女みたいだと言ったら本気で怒られたので、以来口には出せないが。
まだちらほらと客が残っている店内で、ラインハルトの姿は随分と浮いて見えた。それもそのはず、彼は職務に忠実で常に鎧を纏っているのだ。かく言う俺も、純白の鎧姿以外を見たことがない。何より気になったのが、精彩を欠いた表情だ。いつもの彼ならもう少し、まっすぐに前を向いているはずなのだが。
「浮かない顔だな。何かあったのか?」
ケーキの皿と香茶を運びがてら、俺は彼に聞いてみた。彼らしくないため息で、香茶の湯気が揺れる。
「厄介な事件が立て続けに起きていてな。ちょっと相談に乗ってくれるか?」
他でもない彼の頼みだ、俺は頷くと厨房にいるラスファを呼んだ。
「実は…」
そう彼が言いかけた時だった。
「邪魔するよ」
「はいはい、いらっしゃいませ~!」
ラインハルトの死角にあたる扉から、影から生えたように陰気な老婆が現れた。あたふたと女将が応対するが、老婆はそれを無視して店の中に陣取った。
「この宿屋は、呪われておる!」
いきなり声をあげた老婆。それを聞いた女将が気色ばむ。
「いきなり何だい、ウチの店を侮辱する気かい?!」
「ここの宿屋は呪われておる!」
「二度言った!?」
もはや、収拾がつきそうもない。俺は女将に加勢するべく、席を立った。ラスファも無言で俺に続こうとする。そこにアーチが帰ってきた。
「おーい、ちょっと聞いたんだけどよ…」
いつもの締まりのない笑みで、奴がそう言ったその瞬間だった。
「呪われておるうううううっ!」
ひときわ高い声で老婆が絶叫する。途端に背筋に嫌な冷たさが這い上った。
老婆はアーチを指すと、きっぱりと言い切る。
「お主は女難!」
次はラスファを指して水難を宣言し、続いて俺には酒難を宣告する。
「ここの店の者皆、不運に見舞われるぞ! さあこの聖水を飲むがいい! 占いを覆す、唯一の救いじゃ! 今ならたったの、銀貨一枚! 特別に分けてやるぞ! どうじゃ?」
誰一人として、その声に従う者はいない。だが老婆は怒るどころか、歪んだ笑みを浮かべて告げた。
「なら三日後。三日後にまたここに来ようぞ! それまで楽しみに待っているが良い!」
それだけ言うと、老婆は戸口に消えてしまった。一体、何だったんだろうか?
「「ああああぁぁあッ?!」」
珍しく、アーチとラインハルトの声がハモった。
そしてそれが、事の発端となったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる