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short mission 1 〜受難の白銀亭〜
困った日常
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side-デュエル 2
それぞれの災厄は微々たる物でも、束になると非常にタチが悪い。
まして今回の宿屋での様子を見ていると、巻き添えを食う客もちらほら出ている。アーチの話だと、三日後に売りつけに来る『水』とやらで荒稼ぎしていると言うが…犯人の目星すらつかないのが現状最も痛いところだった。
「デュ…デュエル! 頼むから…背中にはりついた虫、取ってくれ…!」
震える声に振り向くと、不気味でデカい蛾が張り付いた背中を見せるラインハルトの姿があった。
そういえばこういうゲテモノ苦手だったな、と思い出しつつ払ってやると彼は息を吐きながら椅子にへたり込んだ。
「アレからずっと不気味な虫に付きまとわれて困っていた…!」
ああ…巻き込まれ案件、女将に続いてその二だ。
俺はずっと…あの老婆は元々、俺たち冒険者を標的にしていたのだと思っていた。こういう稼業ではどこから怨みを買うかわからない。現に前回の事件では、闇ギルドとやらに目をつけられてしまった可能性がある。てっきりそう思っていたのだが…。
だが、女将や彼も…ここに居合わせた面々が平等に標的になってしまった。闇ギルドからの嫌がらせと思いきや、全くの無関係とは肩透かしも良いところだ。
あの直後、珍しくラインハルトとアーチが連れ立って件の老婆を追いかけたが…どこに行ったのかそれ以来、行方は杳として知れなかった。アレだけ特徴的な姿…ずんぐりとした体型で乱杭歯、鼻先には大きなコブがあり薄汚いローブ姿だというのに。ぶっちゃけ言ってしまえば、絵本の中から抜き出て来た魔女という風体なのだ。それで見つからないというのは異常でしかない。特にこの街の場合、観光大使のショーから休憩している悪役魔女として観光客たちに囲まれるに決まっているのに。
「はいはーい、床ふけたよ!」
帰って来た早々に床を拭いていたアーシェが、友人たちの元に戻っていく。彼女たちは例の『悪魔のミルフィーユ』を食べに来たんだそうだが、ラスファがずぶ濡れで帰って来たせいで濡れた床を拭く手伝いをさせられていた。何しろ道々で水をかけられた上に川に放り込まれたと言っていたのだから大変だ。うっかり外出などできそうもない。
ちなみに当のラスファは女将に怒られながら風呂に行っている。まさかずぶ濡れのままで厨房に立てるはずもない。
「モップこちらです。ありがとうございました!」
ラグがモップを集めて、アーシェは木桶を運ぶ。
「じゃあ、木桶の水捨てるねー…きゃ!」
足を滑らせたアーシェ。その手からバケツがすっぽ抜け…奥の扉に向けて飛んで行く。
その瞬間、その扉が開いた。
どぼ。
「「「「…………」」」」
まさに、水難。
その木桶は、風呂上がりのラスファに向けて直撃した。
床に広がる泥水、転がる木桶。そして彼の頭上には雑巾が乗っかっている。
「みっ…水も滴るいい男よ、兄貴♪」
「…他に言うべき事はないのか?」
…ダメだ、こっちもこっちで早くなんとかしないと! 腹筋が死ぬ!
「帰ったぞー!」
夕方近くになって、アーチがひょっこりと帰って来た。
すっかり面白いことになっているラスファとは別で、それなりに深刻な状態らしいアーチは周囲を気にしつつ戻ってきた。何しろ刃物沙汰に修羅場が日常風景に溶け込んだスリリングさだ。
「期待してるところ悪いが、大して収穫なかったぜ」
サササッと、某害虫を思わせるような動きで戻ってくるアーチ。…こっちも十分面白いことになっていた。
酒が絡まない限り特になんら影響のない俺と違って、この二人は果たして身が持つのか怪しいところだった。
それぞれの災厄は微々たる物でも、束になると非常にタチが悪い。
まして今回の宿屋での様子を見ていると、巻き添えを食う客もちらほら出ている。アーチの話だと、三日後に売りつけに来る『水』とやらで荒稼ぎしていると言うが…犯人の目星すらつかないのが現状最も痛いところだった。
「デュ…デュエル! 頼むから…背中にはりついた虫、取ってくれ…!」
震える声に振り向くと、不気味でデカい蛾が張り付いた背中を見せるラインハルトの姿があった。
そういえばこういうゲテモノ苦手だったな、と思い出しつつ払ってやると彼は息を吐きながら椅子にへたり込んだ。
「アレからずっと不気味な虫に付きまとわれて困っていた…!」
ああ…巻き込まれ案件、女将に続いてその二だ。
俺はずっと…あの老婆は元々、俺たち冒険者を標的にしていたのだと思っていた。こういう稼業ではどこから怨みを買うかわからない。現に前回の事件では、闇ギルドとやらに目をつけられてしまった可能性がある。てっきりそう思っていたのだが…。
だが、女将や彼も…ここに居合わせた面々が平等に標的になってしまった。闇ギルドからの嫌がらせと思いきや、全くの無関係とは肩透かしも良いところだ。
あの直後、珍しくラインハルトとアーチが連れ立って件の老婆を追いかけたが…どこに行ったのかそれ以来、行方は杳として知れなかった。アレだけ特徴的な姿…ずんぐりとした体型で乱杭歯、鼻先には大きなコブがあり薄汚いローブ姿だというのに。ぶっちゃけ言ってしまえば、絵本の中から抜き出て来た魔女という風体なのだ。それで見つからないというのは異常でしかない。特にこの街の場合、観光大使のショーから休憩している悪役魔女として観光客たちに囲まれるに決まっているのに。
「はいはーい、床ふけたよ!」
帰って来た早々に床を拭いていたアーシェが、友人たちの元に戻っていく。彼女たちは例の『悪魔のミルフィーユ』を食べに来たんだそうだが、ラスファがずぶ濡れで帰って来たせいで濡れた床を拭く手伝いをさせられていた。何しろ道々で水をかけられた上に川に放り込まれたと言っていたのだから大変だ。うっかり外出などできそうもない。
ちなみに当のラスファは女将に怒られながら風呂に行っている。まさかずぶ濡れのままで厨房に立てるはずもない。
「モップこちらです。ありがとうございました!」
ラグがモップを集めて、アーシェは木桶を運ぶ。
「じゃあ、木桶の水捨てるねー…きゃ!」
足を滑らせたアーシェ。その手からバケツがすっぽ抜け…奥の扉に向けて飛んで行く。
その瞬間、その扉が開いた。
どぼ。
「「「「…………」」」」
まさに、水難。
その木桶は、風呂上がりのラスファに向けて直撃した。
床に広がる泥水、転がる木桶。そして彼の頭上には雑巾が乗っかっている。
「みっ…水も滴るいい男よ、兄貴♪」
「…他に言うべき事はないのか?」
…ダメだ、こっちもこっちで早くなんとかしないと! 腹筋が死ぬ!
「帰ったぞー!」
夕方近くになって、アーチがひょっこりと帰って来た。
すっかり面白いことになっているラスファとは別で、それなりに深刻な状態らしいアーチは周囲を気にしつつ戻ってきた。何しろ刃物沙汰に修羅場が日常風景に溶け込んだスリリングさだ。
「期待してるところ悪いが、大して収穫なかったぜ」
サササッと、某害虫を思わせるような動きで戻ってくるアーチ。…こっちも十分面白いことになっていた。
酒が絡まない限り特になんら影響のない俺と違って、この二人は果たして身が持つのか怪しいところだった。
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