古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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mission 3 祝祭の神様

オラクル祭の幕開け

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Side-デュエル 1

 人、人、人、人、人。
 右を見ても左を見ても、どっちの方向を見ても人の頭以外見えない。目の奥が痛くなるようなきらびやかな衣装に、獣人や妖精に扮した仮装。その誰もが年に一度の祝祭に目を輝かせて行き交っている。
 まだ前夜祭にもなっていないと言うのに、街中のテンションは上がりっぱなし。お陰で交通整理や酔っ払い同士の喧嘩の仲裁などの仕事が増える一方だ。

 全く、俺たちは不運にもほどがある。よりによって一年で最も観光客が多い、このオラクル祭の期間中に持ち回りの自警団の助っ人業務が回ってきたのだから。
 俺はオラクル祭の通例として身につけているクマ系獣人の耳の位置を直しながら『自警団』と書かれた腕章を苦々しく見つめた。交通整理の仕事をしていても、仮装はしなくてはならないのが少々うっとおしい。

 オラクル祭というのは、太古の昔に実在した一人の巫女に神々の託宣が下された事が発端となった由緒正しい祭りの事だ。その託宣によって神々が人間の守護をすると誓いを立てたと言われている。

 だが、その由来に対して現状は騒がしい祝祭ムードに塗りつぶされている。長い長い歴史の間に、厳粛な儀式はいつしかお祭り騒ぎに取って代わられていた。古代より続く神事は各神殿の中のみで粛々と続けられており、それ以外の人間たちはきらびやかな衣装で舞い踊り歌ってお祭り騒ぎに精を出す。当の神様たちがこの現状を見たら、なんと思う事だろうか?

 俺はデュエル。短い黒髪に黒目の専業戦士として、普段は冒険者をやっている。自分で言うのもなんだが、規格外の大男としてその辺ではちょっと有名になっているようだ。
 悩んだ末に仮装はクマ系の獣人の耳をつけているが、ハマりすぎていると仲間からは失笑を買ってしまったのは悲しい過去。実際俺の先祖には多数の獣人やドワーフ族がいたらしく、実はあまり仮装とも言えなかったりするのだが。

「おーい、そろそろ交代だ。詰所に戻って休憩してくれ!」
 人並みに溺れるようにして、白銀鎧をまとった小柄な少年が俺に声をかけた。同じ師匠についている兄弟弟子であるラインハルトだ。彼は至高神の神官騎士でもあり、自警団の構成員でもある。どこまでもまっすぐな気質で、日夜正義の体現のために奔走している俺の親友だ。

「おいおい、大丈夫かラインハルト?」
「ああ、問題ない。少しばかり人が多いだけのことだ」
 彼は人並みに押されてズレたエルフ耳を直すと、俺の隣にやって来た。生真面目な性格が仇になって、また休憩を取り損ねているんじゃないだろうか? それを聞いてみると、彼は目をそらしながら「も、問題ない…」と呟く。嘘がつけないのは彼の美点だが、今回ばかりはそれが役に立った。俺は彼の手を取ると詰所へと引っ張って行く。交代など、今はどうでもいい。
「顔色悪いぞ、ラインハルト! どうせまた新入りかアーチのやつあたりがサボってるんだろう?」
「そ、そんなこと…」
「いいから、茶の一杯も飲んで落ち着け!」
 俺の一言で、ラインハルトは黙って引っ張られる。全く、困ったモンだ。休むのも仕事のうちと、何度言ったら守るのだろうか? 倒れてしまっては元も子もないというのに。

 詰所では、ダンチョーが観光客のおばさん二人組の対応に追われていた。彼は俺より少し年上で元土木関連の仕事を兼任していたのだが、結婚を機に自警団の上役になったという経歴を持っている。ちなみに奥方は美人で、隙あらばデレデレに惚気てくるのが玉に瑕。なぜか本名で呼ばれることはなく常にダンチョーと呼ばれており、完全にその呼び名が定着してしまっている。背中には常にでかいスコップを背負っているが、それは彼なりの武器だという。土木関連の仕事を兼任しているので、最も手に馴染んだ武器なのだろう。

 性格は謹厳実直かつ朴訥な男で、こういう手合いにとことん弱い。ボサボサ頭をかき回しながら冷や汗をかいて気の毒なことこの上ない。
「ちょっと! 聞いてんのかい? あんたら自警団の誘導が悪かったせいで転んで怪我しちまったんだよ? 責任取ってくれるんだろうね?」
「ああ、そのちょっと…」
 おばさんたちの言い分は、完全に言いがかりだ。大方クレームをつけて何かタダにしてもらおうだとか、普段のストレスを晴らそうとか意地汚いことを考えてるのだろう。多くの観光客が訪れるこの街だ、中にはこんな手合いも少なくはない。

「どうなんだい?!」
 嫌な笑いを見せながらさらに詰め寄るおばさんたち。ラインハルトが助け舟を出そうとするが、生真面目な彼が出ては被害者が増えるばかりだ。仕方ない、ここは俺が出るとしようか。
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