155 / 405
mission 3 祝祭の神様
オラクル祭の幕開け
しおりを挟む
Side-デュエル 1
人、人、人、人、人。
右を見ても左を見ても、どっちの方向を見ても人の頭以外見えない。目の奥が痛くなるようなきらびやかな衣装に、獣人や妖精に扮した仮装。その誰もが年に一度の祝祭に目を輝かせて行き交っている。
まだ前夜祭にもなっていないと言うのに、街中のテンションは上がりっぱなし。お陰で交通整理や酔っ払い同士の喧嘩の仲裁などの仕事が増える一方だ。
全く、俺たちは不運にもほどがある。よりによって一年で最も観光客が多い、このオラクル祭の期間中に持ち回りの自警団の助っ人業務が回ってきたのだから。
俺はオラクル祭の通例として身につけているクマ系獣人の耳の位置を直しながら『自警団』と書かれた腕章を苦々しく見つめた。交通整理の仕事をしていても、仮装はしなくてはならないのが少々うっとおしい。
オラクル祭というのは、太古の昔に実在した一人の巫女に神々の託宣が下された事が発端となった由緒正しい祭りの事だ。その託宣によって神々が人間の守護をすると誓いを立てたと言われている。
だが、その由来に対して現状は騒がしい祝祭ムードに塗りつぶされている。長い長い歴史の間に、厳粛な儀式はいつしかお祭り騒ぎに取って代わられていた。古代より続く神事は各神殿の中のみで粛々と続けられており、それ以外の人間たちはきらびやかな衣装で舞い踊り歌ってお祭り騒ぎに精を出す。当の神様たちがこの現状を見たら、なんと思う事だろうか?
俺はデュエル。短い黒髪に黒目の専業戦士として、普段は冒険者をやっている。自分で言うのもなんだが、規格外の大男としてその辺ではちょっと有名になっているようだ。
悩んだ末に仮装はクマ系の獣人の耳をつけているが、ハマりすぎていると仲間からは失笑を買ってしまったのは悲しい過去。実際俺の先祖には多数の獣人やドワーフ族がいたらしく、実はあまり仮装とも言えなかったりするのだが。
「おーい、そろそろ交代だ。詰所に戻って休憩してくれ!」
人並みに溺れるようにして、白銀鎧をまとった小柄な少年が俺に声をかけた。同じ師匠についている兄弟弟子であるラインハルトだ。彼は至高神の神官騎士でもあり、自警団の構成員でもある。どこまでもまっすぐな気質で、日夜正義の体現のために奔走している俺の親友だ。
「おいおい、大丈夫かラインハルト?」
「ああ、問題ない。少しばかり人が多いだけのことだ」
彼は人並みに押されてズレたエルフ耳を直すと、俺の隣にやって来た。生真面目な性格が仇になって、また休憩を取り損ねているんじゃないだろうか? それを聞いてみると、彼は目をそらしながら「も、問題ない…」と呟く。嘘がつけないのは彼の美点だが、今回ばかりはそれが役に立った。俺は彼の手を取ると詰所へと引っ張って行く。交代など、今はどうでもいい。
「顔色悪いぞ、ラインハルト! どうせまた新入りかアーチのやつあたりがサボってるんだろう?」
「そ、そんなこと…」
「いいから、茶の一杯も飲んで落ち着け!」
俺の一言で、ラインハルトは黙って引っ張られる。全く、困ったモンだ。休むのも仕事のうちと、何度言ったら守るのだろうか? 倒れてしまっては元も子もないというのに。
詰所では、ダンチョーが観光客のおばさん二人組の対応に追われていた。彼は俺より少し年上で元土木関連の仕事を兼任していたのだが、結婚を機に自警団の上役になったという経歴を持っている。ちなみに奥方は美人で、隙あらばデレデレに惚気てくるのが玉に瑕。なぜか本名で呼ばれることはなく常にダンチョーと呼ばれており、完全にその呼び名が定着してしまっている。背中には常にでかいスコップを背負っているが、それは彼なりの武器だという。土木関連の仕事を兼任しているので、最も手に馴染んだ武器なのだろう。
性格は謹厳実直かつ朴訥な男で、こういう手合いにとことん弱い。ボサボサ頭をかき回しながら冷や汗をかいて気の毒なことこの上ない。
「ちょっと! 聞いてんのかい? あんたら自警団の誘導が悪かったせいで転んで怪我しちまったんだよ? 責任取ってくれるんだろうね?」
「ああ、そのちょっと…」
おばさんたちの言い分は、完全に言いがかりだ。大方クレームをつけて何かタダにしてもらおうだとか、普段のストレスを晴らそうとか意地汚いことを考えてるのだろう。多くの観光客が訪れるこの街だ、中にはこんな手合いも少なくはない。
「どうなんだい?!」
嫌な笑いを見せながらさらに詰め寄るおばさんたち。ラインハルトが助け舟を出そうとするが、生真面目な彼が出ては被害者が増えるばかりだ。仕方ない、ここは俺が出るとしようか。
人、人、人、人、人。
右を見ても左を見ても、どっちの方向を見ても人の頭以外見えない。目の奥が痛くなるようなきらびやかな衣装に、獣人や妖精に扮した仮装。その誰もが年に一度の祝祭に目を輝かせて行き交っている。
まだ前夜祭にもなっていないと言うのに、街中のテンションは上がりっぱなし。お陰で交通整理や酔っ払い同士の喧嘩の仲裁などの仕事が増える一方だ。
全く、俺たちは不運にもほどがある。よりによって一年で最も観光客が多い、このオラクル祭の期間中に持ち回りの自警団の助っ人業務が回ってきたのだから。
俺はオラクル祭の通例として身につけているクマ系獣人の耳の位置を直しながら『自警団』と書かれた腕章を苦々しく見つめた。交通整理の仕事をしていても、仮装はしなくてはならないのが少々うっとおしい。
オラクル祭というのは、太古の昔に実在した一人の巫女に神々の託宣が下された事が発端となった由緒正しい祭りの事だ。その託宣によって神々が人間の守護をすると誓いを立てたと言われている。
だが、その由来に対して現状は騒がしい祝祭ムードに塗りつぶされている。長い長い歴史の間に、厳粛な儀式はいつしかお祭り騒ぎに取って代わられていた。古代より続く神事は各神殿の中のみで粛々と続けられており、それ以外の人間たちはきらびやかな衣装で舞い踊り歌ってお祭り騒ぎに精を出す。当の神様たちがこの現状を見たら、なんと思う事だろうか?
俺はデュエル。短い黒髪に黒目の専業戦士として、普段は冒険者をやっている。自分で言うのもなんだが、規格外の大男としてその辺ではちょっと有名になっているようだ。
悩んだ末に仮装はクマ系の獣人の耳をつけているが、ハマりすぎていると仲間からは失笑を買ってしまったのは悲しい過去。実際俺の先祖には多数の獣人やドワーフ族がいたらしく、実はあまり仮装とも言えなかったりするのだが。
「おーい、そろそろ交代だ。詰所に戻って休憩してくれ!」
人並みに溺れるようにして、白銀鎧をまとった小柄な少年が俺に声をかけた。同じ師匠についている兄弟弟子であるラインハルトだ。彼は至高神の神官騎士でもあり、自警団の構成員でもある。どこまでもまっすぐな気質で、日夜正義の体現のために奔走している俺の親友だ。
「おいおい、大丈夫かラインハルト?」
「ああ、問題ない。少しばかり人が多いだけのことだ」
彼は人並みに押されてズレたエルフ耳を直すと、俺の隣にやって来た。生真面目な性格が仇になって、また休憩を取り損ねているんじゃないだろうか? それを聞いてみると、彼は目をそらしながら「も、問題ない…」と呟く。嘘がつけないのは彼の美点だが、今回ばかりはそれが役に立った。俺は彼の手を取ると詰所へと引っ張って行く。交代など、今はどうでもいい。
「顔色悪いぞ、ラインハルト! どうせまた新入りかアーチのやつあたりがサボってるんだろう?」
「そ、そんなこと…」
「いいから、茶の一杯も飲んで落ち着け!」
俺の一言で、ラインハルトは黙って引っ張られる。全く、困ったモンだ。休むのも仕事のうちと、何度言ったら守るのだろうか? 倒れてしまっては元も子もないというのに。
詰所では、ダンチョーが観光客のおばさん二人組の対応に追われていた。彼は俺より少し年上で元土木関連の仕事を兼任していたのだが、結婚を機に自警団の上役になったという経歴を持っている。ちなみに奥方は美人で、隙あらばデレデレに惚気てくるのが玉に瑕。なぜか本名で呼ばれることはなく常にダンチョーと呼ばれており、完全にその呼び名が定着してしまっている。背中には常にでかいスコップを背負っているが、それは彼なりの武器だという。土木関連の仕事を兼任しているので、最も手に馴染んだ武器なのだろう。
性格は謹厳実直かつ朴訥な男で、こういう手合いにとことん弱い。ボサボサ頭をかき回しながら冷や汗をかいて気の毒なことこの上ない。
「ちょっと! 聞いてんのかい? あんたら自警団の誘導が悪かったせいで転んで怪我しちまったんだよ? 責任取ってくれるんだろうね?」
「ああ、そのちょっと…」
おばさんたちの言い分は、完全に言いがかりだ。大方クレームをつけて何かタダにしてもらおうだとか、普段のストレスを晴らそうとか意地汚いことを考えてるのだろう。多くの観光客が訪れるこの街だ、中にはこんな手合いも少なくはない。
「どうなんだい?!」
嫌な笑いを見せながらさらに詰め寄るおばさんたち。ラインハルトが助け舟を出そうとするが、生真面目な彼が出ては被害者が増えるばかりだ。仕方ない、ここは俺が出るとしようか。
0
あなたにおすすめの小説
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる