古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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mission 3 祝祭の神様

女神と貴婦人

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side-ラスファ 2

 神などというものは、信じたこともない。
 当然だ。育った環境に、そんな概念は存在しなかったのだから。自然界に宿る精霊がその概念に近いといえば近いが、ラグやラインハルトの話を聞くとどうも違う気がする。
 そんな存在がいきなり目の前に現れても、正直言ってどう扱っていいのかわからない。

 …話はしばらく前に遡る。


「ちょっとー! せめてもうちょっと敬ってくれてもいいんじゃないの?」
 芸術神イセリナが、苦情の声を上げる。ただし、絢爛たる踊り子衣装の裾を木の茂みに引っ掛けてもがきながらでは威厳も何もあったものではない。
「自前なのか、その衣装?」
 仕方なくため息つきつつ解いてやると、彼女は頷いて豊満な胸を張った。
「当然でしょ? 仮にも芸術を司る女神なのよ? 」
「…森を歩くことは、わかっていたんじゃないのか? 」
 呆れ半分で歩き出すと、女神とやらは慌ててついてきた。デュエルやアーチは、すでに先に行っている。森歩きに一番慣れた私が一番後ろを警戒しつつ進むのは定番の配列なのだが、今回はあまりに勝手が違いすぎた。
 まさか依頼人がガチの女神とは、誰が予想しただろうか?

「ねえ…あんたわかってるの? そんなとんでもないの連れてるってことは…」
  女神が私の後ろを見て、気遣わしげに声をかける。のは自警団の詰め所でのリアクションからわかっているが、あまり気分の良いことではない。
「…知っている」
 その答えに、『彼女』が姿を現した。

『久しいのう、芸術神』

 …アタマが痛い。デュエルたちが先行している事が心底、ありがたく思える。
 白い貴婦人が虚空に現れると、女神はいきなり苦言を呈した。

「ねえ…この子、解放してあげたら? 一見尖ってるけど、結構いい子じゃないの。かわいそうでしょ?」
『知らぬ、こやつは妾のものじゃ。放すものかえ』

「あらら、随分とご執心ね。あたしの教義としては奨励するべきことだけどさ? それも時によりけりよ?」

『お主こそ、妾のものに手出しする気ではなかろうな?』

 微妙に噛み合っていない会話に終止符を打ったのは、芸術神の方だった。
「あーやだやだ! お役目そっちのけで五百年もふて寝して起きるなり、執着心の塊になってるなんてね? 」

『好きに思うがいい』

 それっきり、白の貴婦人は姿を消した。まあどのみちすぐそばで動向を見続けているのだろうが。

「あんたも大変ね。あいつに魅入られちゃうなんて」
「…ほぼ事故による産物だけどな。それより…知り合いだったんだな」
「まあね。どう? 私がガチの女神だって証明にもなったでしょ?」
「…はいはい」



 そしてしばらくして、件の洞窟にたどり着いた。
 女神像の両腕と胸元にあったと思われる宝珠の台座から、抉り出されるようにして奪われている。
「…そもそも、なんでこんなところに宝珠なんて安置してたんだ?」
 ごもっともなデュエルの質問に、女神は冷や汗を流す。
「えー…ほら、わかりにくいからぁ…」
「いや、建前じゃなくて本音で教えてくれ」
 そう言われると女神はもごもご口ごもっていたが、ややあって重い口を開いた。

「あたしってさ、メジャーな大神じゃないもの。神話にもある通り元々は人間の踊り子だったあたしが大神…知識神さまに見いだされて、小神に引き上げてもらったわけよ。信者も芸術家関連しかいないから、どうしてもマイナーな宗派になっちゃうのよね。だからぶっちゃけ、大きなところに神殿とか作りづらいわけ」
「…神様ってのも、気苦労が多いもんなんだな」
「大きな町なんかじゃ、知識神さまの神殿に間借りする形で一緒に祀られてたりするの。ちなみにエルダードでもそうなってるのよ? 」
 あーなるほどな、とアーチが呟く。ラグの神殿に行った時のことを思い出しているのだろう。

「…なるほど。そうなると、肩身が狭い思いせずに自由に祀られるためには、辺鄙なところに神殿を作らざるを得なかった、と」
 デュエルの見解に、女神は顔をしかめた。
「…ほんとにぶっちゃけたわね…。まあ概ねそういうことよ。おんなじように神って呼ばれるけど、実際は信者数に合わせてランクって奴もあるの。結構大変なのよ」

 …人の心配するどころじゃないだろう、この女神。
 どの業界だろうと、現実は厳しいってことか。
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