164 / 405
mission 3 祝祭の神様
女神と貴婦人
しおりを挟む
side-ラスファ 2
神などというものは、信じたこともない。
当然だ。育った環境に、そんな概念は存在しなかったのだから。自然界に宿る精霊がその概念に近いといえば近いが、ラグやラインハルトの話を聞くとどうも違う気がする。
そんな存在がいきなり目の前に現れても、正直言ってどう扱っていいのかわからない。
…話はしばらく前に遡る。
「ちょっとー! せめてもうちょっと敬ってくれてもいいんじゃないの?」
芸術神イセリナが、苦情の声を上げる。ただし、絢爛たる踊り子衣装の裾を木の茂みに引っ掛けてもがきながらでは威厳も何もあったものではない。
「自前なのか、その衣装?」
仕方なくため息つきつつ解いてやると、彼女は頷いて豊満な胸を張った。
「当然でしょ? 仮にも芸術を司る女神なのよ? 」
「…森を歩くことは、わかっていたんじゃないのか? 」
呆れ半分で歩き出すと、女神とやらは慌ててついてきた。デュエルやアーチは、すでに先に行っている。森歩きに一番慣れた私が一番後ろを警戒しつつ進むのは定番の配列なのだが、今回はあまりに勝手が違いすぎた。
まさか依頼人がガチの女神とは、誰が予想しただろうか?
「ねえ…あんたわかってるの? そんなとんでもないの連れてるってことは…」
女神が私の後ろを見て、気遣わしげに声をかける。視えているのは自警団の詰め所でのリアクションからわかっているが、あまり気分の良いことではない。
「…知っている」
その答えに、『彼女』が姿を現した。
『久しいのう、芸術神』
…アタマが痛い。デュエルたちが先行している事が心底、ありがたく思える。
白い貴婦人が虚空に現れると、女神はいきなり苦言を呈した。
「ねえ…この子、解放してあげたら? 一見尖ってるけど、結構いい子じゃないの。かわいそうでしょ?」
『知らぬ、こやつは妾のものじゃ。放すものかえ』
「あらら、随分とご執心ね。あたしの教義としては奨励するべきことだけどさ? それも時によりけりよ?」
『お主こそ、妾のものに手出しする気ではなかろうな?』
微妙に噛み合っていない会話に終止符を打ったのは、芸術神の方だった。
「あーやだやだ! お役目そっちのけで五百年もふて寝して起きるなり、執着心の塊になってるなんてね? 」
『好きに思うがいい』
それっきり、白の貴婦人は姿を消した。まあどのみちすぐそばで動向を見続けているのだろうが。
「あんたも大変ね。あいつに魅入られちゃうなんて」
「…ほぼ事故による産物だけどな。それより…知り合いだったんだな」
「まあね。どう? 私がガチの女神だって証明にもなったでしょ?」
「…はいはい」
そしてしばらくして、件の洞窟にたどり着いた。
女神像の両腕と胸元にあったと思われる宝珠の台座から、抉り出されるようにして奪われている。
「…そもそも、なんでこんなところに宝珠なんて安置してたんだ?」
ごもっともなデュエルの質問に、女神は冷や汗を流す。
「えー…ほら、わかりにくいからぁ…」
「いや、建前じゃなくて本音で教えてくれ」
そう言われると女神はもごもご口ごもっていたが、ややあって重い口を開いた。
「あたしってさ、メジャーな大神じゃないもの。神話にもある通り元々は人間の踊り子だったあたしが大神…知識神さまに見いだされて、小神に引き上げてもらったわけよ。信者も芸術家関連しかいないから、どうしてもマイナーな宗派になっちゃうのよね。だからぶっちゃけ、大きなところに神殿とか作りづらいわけ」
「…神様ってのも、気苦労が多いもんなんだな」
「大きな町なんかじゃ、知識神さまの神殿に間借りする形で一緒に祀られてたりするの。ちなみにエルダードでもそうなってるのよ? 」
あーなるほどな、とアーチが呟く。ラグの神殿に行った時のことを思い出しているのだろう。
「…なるほど。そうなると、肩身が狭い思いせずに自由に祀られるためには、辺鄙なところに神殿を作らざるを得なかった、と」
デュエルの見解に、女神は顔をしかめた。
「…ほんとにぶっちゃけたわね…。まあ概ねそういうことよ。おんなじように神って呼ばれるけど、実際は信者数に合わせてランクって奴もあるの。結構大変なのよ」
…人の心配するどころじゃないだろう、この女神。
どの業界だろうと、現実は厳しいってことか。
神などというものは、信じたこともない。
当然だ。育った環境に、そんな概念は存在しなかったのだから。自然界に宿る精霊がその概念に近いといえば近いが、ラグやラインハルトの話を聞くとどうも違う気がする。
そんな存在がいきなり目の前に現れても、正直言ってどう扱っていいのかわからない。
…話はしばらく前に遡る。
「ちょっとー! せめてもうちょっと敬ってくれてもいいんじゃないの?」
芸術神イセリナが、苦情の声を上げる。ただし、絢爛たる踊り子衣装の裾を木の茂みに引っ掛けてもがきながらでは威厳も何もあったものではない。
「自前なのか、その衣装?」
仕方なくため息つきつつ解いてやると、彼女は頷いて豊満な胸を張った。
「当然でしょ? 仮にも芸術を司る女神なのよ? 」
「…森を歩くことは、わかっていたんじゃないのか? 」
呆れ半分で歩き出すと、女神とやらは慌ててついてきた。デュエルやアーチは、すでに先に行っている。森歩きに一番慣れた私が一番後ろを警戒しつつ進むのは定番の配列なのだが、今回はあまりに勝手が違いすぎた。
まさか依頼人がガチの女神とは、誰が予想しただろうか?
「ねえ…あんたわかってるの? そんなとんでもないの連れてるってことは…」
女神が私の後ろを見て、気遣わしげに声をかける。視えているのは自警団の詰め所でのリアクションからわかっているが、あまり気分の良いことではない。
「…知っている」
その答えに、『彼女』が姿を現した。
『久しいのう、芸術神』
…アタマが痛い。デュエルたちが先行している事が心底、ありがたく思える。
白い貴婦人が虚空に現れると、女神はいきなり苦言を呈した。
「ねえ…この子、解放してあげたら? 一見尖ってるけど、結構いい子じゃないの。かわいそうでしょ?」
『知らぬ、こやつは妾のものじゃ。放すものかえ』
「あらら、随分とご執心ね。あたしの教義としては奨励するべきことだけどさ? それも時によりけりよ?」
『お主こそ、妾のものに手出しする気ではなかろうな?』
微妙に噛み合っていない会話に終止符を打ったのは、芸術神の方だった。
「あーやだやだ! お役目そっちのけで五百年もふて寝して起きるなり、執着心の塊になってるなんてね? 」
『好きに思うがいい』
それっきり、白の貴婦人は姿を消した。まあどのみちすぐそばで動向を見続けているのだろうが。
「あんたも大変ね。あいつに魅入られちゃうなんて」
「…ほぼ事故による産物だけどな。それより…知り合いだったんだな」
「まあね。どう? 私がガチの女神だって証明にもなったでしょ?」
「…はいはい」
そしてしばらくして、件の洞窟にたどり着いた。
女神像の両腕と胸元にあったと思われる宝珠の台座から、抉り出されるようにして奪われている。
「…そもそも、なんでこんなところに宝珠なんて安置してたんだ?」
ごもっともなデュエルの質問に、女神は冷や汗を流す。
「えー…ほら、わかりにくいからぁ…」
「いや、建前じゃなくて本音で教えてくれ」
そう言われると女神はもごもご口ごもっていたが、ややあって重い口を開いた。
「あたしってさ、メジャーな大神じゃないもの。神話にもある通り元々は人間の踊り子だったあたしが大神…知識神さまに見いだされて、小神に引き上げてもらったわけよ。信者も芸術家関連しかいないから、どうしてもマイナーな宗派になっちゃうのよね。だからぶっちゃけ、大きなところに神殿とか作りづらいわけ」
「…神様ってのも、気苦労が多いもんなんだな」
「大きな町なんかじゃ、知識神さまの神殿に間借りする形で一緒に祀られてたりするの。ちなみにエルダードでもそうなってるのよ? 」
あーなるほどな、とアーチが呟く。ラグの神殿に行った時のことを思い出しているのだろう。
「…なるほど。そうなると、肩身が狭い思いせずに自由に祀られるためには、辺鄙なところに神殿を作らざるを得なかった、と」
デュエルの見解に、女神は顔をしかめた。
「…ほんとにぶっちゃけたわね…。まあ概ねそういうことよ。おんなじように神って呼ばれるけど、実際は信者数に合わせてランクって奴もあるの。結構大変なのよ」
…人の心配するどころじゃないだろう、この女神。
どの業界だろうと、現実は厳しいってことか。
0
あなたにおすすめの小説
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ
よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。
剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。
しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。
それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。
「期待外れだ」
「国の恥晒しめ」
掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。 だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。
『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』
彼だけが気づいた真実。
それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。
これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる