古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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mission 3 祝祭の神様

神話と聖女候補

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Side-デュエル 7

 聖女候補は、セラを入れて五人。その中には、あの性格悪いライラも含まれていた。技能も様々で、芸術というジャンルの幅広さが感じられる。

 音楽、舞踏に絵画や歌唱…。
 一口に芸術といっても、様々な種類があるものだ。俺はそっち方面には不調法で、嗜んだこともない。今回は楽師としても活躍するアーチが頼りだったのだが、そのアーチは地元の盗賊ギルドに出張している。うまくいかないものだ。

 ともあれ、あとは内部の調査だ。部屋の中を見せてもらって、まずは様子を見よう。ラスファの言う通り、神殿の内部に共犯者がいるとしたらなんらかの尻尾を出してくるかもしれない。
 
 まず最初に、セラの部屋を見せてもらおう。ちなみに、彼女の部屋は一階にある。つまり外部犯がいたならその気になれば、宝珠だけを窓から投げ込める位置にあるのだ。
 あの時はライラによって部屋の中央に、魔法陣を書いた紙を放り込まれていたはず。どちらが先に投げ込まれていたのかはわからない。だが、少なくとも二人の人間の悪意によってあの奇妙な部屋が出来上がっていたと言うことだ。

 悪意…。
 ラスファの言う通りだ。人間の悪意は、底というものがない。ラグが言っていたことがある…悪魔とは人の心に潜むものだ、と。

 神話では神と邪神の戦いにおいて神が勝利したのち、邪神は七体の魔王に分かたれ眠りについているという。
 傲慢・強欲・怠惰・暴食・嫉妬・憤怒・色欲。
 この七つの悪徳を冠した魔王は邪心のカケラをばら撒き、人の心の中に潜ませて再起を狙っているそうだ。
  歴史においても大きな邪心のカケラを持った人物が、大きな戦や混乱を起こして世界を騒乱に陥れてきた。この世にいる多くの人たちの中に、カケラを持ったものが少なからずいる…恐ろしい話だ。さらに恐ろしいのは、カケラを持たずに悪意をばらまくものの存在だろう。

 セラの部屋は、なんとも殺風景なものだった。楽器がいくつかと楽譜を建てた書棚、そして机とベッドがあるだけだ。一応セラとマイルスに同席してもらっているが、家捜ししている気分になってどうにも落ち着かない。俺は一生、盗賊にはなれそうにないな。
 窓の建てつけは、若干ぐらついているように思える。これなら、外から窓を外して宝珠を入れる隙間ぐらいなら作れそうだ。そして、扉の鍵は壊れかけていた。マイルス曰く、何度『直し』ても『壊れる』そうだ。俺はため息をついて鍵を再び調べた。鍵穴中心で細かい傷が入っているように思える。
「あのライラには、話は聞けるのか?」
 俺の問いにマイルスは、はいと頷いた。一応は懲罰房に入っているようだが、聖女の候補から外されることはないそうだ。俺が言うべきことじゃないが、大丈夫なのだろうか、それって…?


「話すことなんか、別にないわよ?」
 懲罰房の中でライラは、薄笑いで爪を磨きながら答える。
「いや、答えてもらうぞ。あの宝珠だが、魔法陣を書いた紙を放り込んだときにはあったのか?」
「何もないって言ったでしょ?」
「…答えないと全部、あんたがやったと認めたってことになるんだが?」
 俺の言葉に、彼女は気色ばんだ。
「ちょっと、なんでそうなるのよ?」
「魔法陣は認めたそうだが、宝珠については言及されてない。言えないと言うことじゃないのか?」
 流石にこの問い方は、意地が悪すぎるか…。だが、ライラには効果があったようだった。
「知るわけないじゃないの! 部屋に入ったときにそんな目立つものがあったら、面倒ごとになるから戻るわよ!」
「ふむ。まあ、そうなんだよなあ…」
その俺の答えに拍子抜けしたように、ライラが尋ね返す。
「…なに、信じてくれるわけ?」
「なんだ、嘘でもついたのか?」
「…別に」

 俺はライラをまっすぐに見返した。ふと、爺さんの言葉が脳裏をよぎったのだ。『その人のことを知りたければ、その人をよく見ろ』と。
 厚めの化粧で誤魔化しているが目の下には、うっすらと隈ができている。そして、ずっと部屋にこもっているであろう肌は病的なまでに白かった。聖女候補としてのプレッシャーで眠れもせず、ずっと部屋にこもって舞踊の練習に明け暮れていたのだろう。

「ちゃんと眠れているのか?」
「…え?」
 ライラは意外そうに振り返る。
「プレッシャーがかかるのはわかるが、肩の力を抜いたほうがいい。そのほうがきっとうまくいく」
「…」
 彼女は唖然としたように俺を見返した。そこまで意外なことを言ったつもりはないのだが。
「…なんで私に? セラを応援するんじゃないの?」
「いや、聖女選抜に関わるつもりはない。それに…」
「?」
「あんた、色々と辛そうだったからな。邪魔して悪かった」
 そこで俺は席を立った。プレッシャーを理解することはできないが、できれば彼女にも全力を尽くしてもらいたい。

 多くの収穫はなかったが、俺に調べられることはもうなさそうだった。
 後はアーチとラスファの帰りを待って話すしかない。
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