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1話 血だらけの切っ先
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所詮、大人と言えどそれは測るための手段に過ぎない。
思考というのは中々変えられないもので、特に幼少期からの思い込みは厄介なものである。
平穏に生きたい人は無理矢理に納得させて分かった気で過ごしているがそうでない輩は社会の鉄板に油を注いでいく。
シスタークルワはそれを理解していながらも実に滑稽な人物だった。
分かること、分からないこと、分かりたくないことの三拍子の中で幾つが純粋に分かりたいと思えるのか。
クルワはいくつ年を重ねても幼少期からある苦悩が消えず生きていく術で増えていくのは分かれないことばかり。
幼稚なクルワを今更どうすることも出来ないのは諭してくれるような人がいなかったからだ。
そうでなければ、二十一になった今でさえ感情のコントロールが効かない理由に正当性をつけられない。
「こんなものかしら」
そんなクルワにも当然、趣味がある。趣味は人々の心を豊かにし例えどんなに荒ぶっていても趣味があれば押さえつけてくれる便利なもの。
土をスコップで優しく馴染ませた後、花の種を丁寧に埋めていく。最初は教会の暗さを少しでも明るくさせるためにやっていたが今ではすっかりガーデニングが趣味になってしまっていた。
「綺麗に咲いてね」
どんなに人に嫌われていようが性格がキツいだろうが優しく出来るものがある。それがクルワにとっては植物だっただけ。
水道水からじょうろに水を入れ確認した後、少しずつ土に掛ける。ぎこちなく水やりをしていた頃と比べるとすっかり手慣れてしまった今では一連の作業など苦ではない。
むしろ日課が終わったと考えると少し心に風が吹いた。
教会の扉を開けると専属のメイドが出迎える。彼女の深紅の瞳は揺れることなく主人を見つめていてそれは業火のよう。
「クルワ様、お客様だそうです」
クルワは少し目を見開いた後、今日は面会の約束なんて……と小さく喋る。クルワには分かっていた、この後どのような気持ちになるのか。
「シャワーを浴びてくるから食堂に案内してあげて。お客様の要望の物を作ってくれるかしら」
「かしこまりました」
すぐに顔を整えメイドに指示をした後シャワー室へと向かう。動きやすい服装というのは、作業には打ってつけだが客人に会うのには見合わない。
土いじりをした為か服には少々泥が見え、太陽の元で動いていたのだから汗も拭いきれないほど。
お茶をしながら待ってもらっているが有限だ。どんな用かは知らなくともあまり待たせてしまうのはクルワの性分には合わない。
「まさか借金取りじゃあないよね……」
ふと客人のことが気になった。唐突に現れた上、用件は分からずまるでニ年前の再来。
二年前、クルワは何を思ったか宮殿に向かい皇帝と手を組んだと言う。しかしクルワにはそんな記憶はなく気付けば皇帝であるメギと友好関係になっていた。
この教会を建てれたのだってメギが資金を出したからでクルワを騙してない限り借金などないはず、なのだがクルワはありもしない借金取りが怖くなる。
「とにかく早く行かなきゃ」
ドライヤーで乾かしたばかりのふわふわな髪を素早く二つ結びにしシスターのあるべき姿へとなる。
身なりの確認をしスカートを伸ばし整えると気持ちの整理がつかなくとも時間が来てしまった。足取りと気持ちがすれ違いになったまま向かっていく。
食堂に着けば客人であろう者の声が苛立ちを隠さずに話していた。内容は全てまだか、早くしろ待たせるなという愚痴でありクルワは更に重くなる。
教会の主人と客人の目が合うと怒りはすぐさまそちらに向かう。
「随分と遅かったみたいだな。時計とやらはこの教会にはないようだが」
客人を見た瞬間クルワは化石の如く微動だにしない。それは友人でも信仰してる神でもない異質だったからだ。
どちらかと言うと女性寄りの綺麗に整った顔立ちに金髪金色の目。丸型蛍光灯によく似た輪っかは黄色の淡い光を放っている。
何より人ではないと証明されたのは背中から生えた白い羽毛。天使だと一目見て分かる客人はクルワの前では尊き存在なのだろうか。
「おい、聞いているのか」
「あ、ああ……えっとそれで、御用件を聞いても」
歯切れの悪いクルワに客人をさらに苛つかせる。しかしいきなり来たのはそちらでこの場合の悪はどちらだろう。
「……お達しでここに居候することになった」
「は」
曇りかけた顔色が吹っ飛んだほど驚いたクルワはよろけた後、もう一度聞かせてほしいとお願いした。
すると客人はうんざりした顔を見せ使えねぇなと溜息を吐く様子は根本的に人を舐め腐っているようだと見てとれる。
「だからさぁ、上からのお達しでここに居候することになった訳だけど人間なんかに拒否権はねぇ」
「な、なんで……」
「知らねぇよ」
沈黙が漂う中クルワは頭がさらに痛くなった。いつの時代も天界の思考は理解の範疇を超えているもの。これは誰においても分かる分からないの話ではない。
複雑に考えなくとも厄介払いでここに行き着いたと考えれば納得は行く。この教会が選ばれたのだってこれだけ態度が悪ければ罰として落とされたんだろうと巡らせたクルワはなんとか魔物を抑え込む。
「ああ、そうだ。ロウの祝福を貴方に……だっけか?」
クルワは静かに客人を見つめた後、首元を素早く掴む。どんなに強く掴んでも根を上げるどころか無表情のままだった。
「どこでそれを知った」
「……なんでだろうな」
客人がクルワの手首を握ると同じく力を込めるとクルワが小さく悲鳴を上げた。
「勘違いするなよ。いつだってオレはお前を折れる」
「はなし、なさいよ!」
「ぐっ」
思い切り客人のお腹を蹴ると流石に効いたのかクルワの手首を掴んでいた手が緩む。
「そっちこそ自意識過剰なんじゃない。ここではなんと言おうが私が主人よ」
馬が合わないとはこの事か、嘆かわしくもこの二人は自身が思うほどに同族嫌悪が激しい。
「ようこそ異質、我が教会ロウンクルへ。仲良くやれると良いわね」
「は、冗談がお上手で」
幸か不幸か出会わせたことは天界の間違いだったろう。それでも傍観するくらいは許されるべきだとクルワは警戒した。
思考というのは中々変えられないもので、特に幼少期からの思い込みは厄介なものである。
平穏に生きたい人は無理矢理に納得させて分かった気で過ごしているがそうでない輩は社会の鉄板に油を注いでいく。
シスタークルワはそれを理解していながらも実に滑稽な人物だった。
分かること、分からないこと、分かりたくないことの三拍子の中で幾つが純粋に分かりたいと思えるのか。
クルワはいくつ年を重ねても幼少期からある苦悩が消えず生きていく術で増えていくのは分かれないことばかり。
幼稚なクルワを今更どうすることも出来ないのは諭してくれるような人がいなかったからだ。
そうでなければ、二十一になった今でさえ感情のコントロールが効かない理由に正当性をつけられない。
「こんなものかしら」
そんなクルワにも当然、趣味がある。趣味は人々の心を豊かにし例えどんなに荒ぶっていても趣味があれば押さえつけてくれる便利なもの。
土をスコップで優しく馴染ませた後、花の種を丁寧に埋めていく。最初は教会の暗さを少しでも明るくさせるためにやっていたが今ではすっかりガーデニングが趣味になってしまっていた。
「綺麗に咲いてね」
どんなに人に嫌われていようが性格がキツいだろうが優しく出来るものがある。それがクルワにとっては植物だっただけ。
水道水からじょうろに水を入れ確認した後、少しずつ土に掛ける。ぎこちなく水やりをしていた頃と比べるとすっかり手慣れてしまった今では一連の作業など苦ではない。
むしろ日課が終わったと考えると少し心に風が吹いた。
教会の扉を開けると専属のメイドが出迎える。彼女の深紅の瞳は揺れることなく主人を見つめていてそれは業火のよう。
「クルワ様、お客様だそうです」
クルワは少し目を見開いた後、今日は面会の約束なんて……と小さく喋る。クルワには分かっていた、この後どのような気持ちになるのか。
「シャワーを浴びてくるから食堂に案内してあげて。お客様の要望の物を作ってくれるかしら」
「かしこまりました」
すぐに顔を整えメイドに指示をした後シャワー室へと向かう。動きやすい服装というのは、作業には打ってつけだが客人に会うのには見合わない。
土いじりをした為か服には少々泥が見え、太陽の元で動いていたのだから汗も拭いきれないほど。
お茶をしながら待ってもらっているが有限だ。どんな用かは知らなくともあまり待たせてしまうのはクルワの性分には合わない。
「まさか借金取りじゃあないよね……」
ふと客人のことが気になった。唐突に現れた上、用件は分からずまるでニ年前の再来。
二年前、クルワは何を思ったか宮殿に向かい皇帝と手を組んだと言う。しかしクルワにはそんな記憶はなく気付けば皇帝であるメギと友好関係になっていた。
この教会を建てれたのだってメギが資金を出したからでクルワを騙してない限り借金などないはず、なのだがクルワはありもしない借金取りが怖くなる。
「とにかく早く行かなきゃ」
ドライヤーで乾かしたばかりのふわふわな髪を素早く二つ結びにしシスターのあるべき姿へとなる。
身なりの確認をしスカートを伸ばし整えると気持ちの整理がつかなくとも時間が来てしまった。足取りと気持ちがすれ違いになったまま向かっていく。
食堂に着けば客人であろう者の声が苛立ちを隠さずに話していた。内容は全てまだか、早くしろ待たせるなという愚痴でありクルワは更に重くなる。
教会の主人と客人の目が合うと怒りはすぐさまそちらに向かう。
「随分と遅かったみたいだな。時計とやらはこの教会にはないようだが」
客人を見た瞬間クルワは化石の如く微動だにしない。それは友人でも信仰してる神でもない異質だったからだ。
どちらかと言うと女性寄りの綺麗に整った顔立ちに金髪金色の目。丸型蛍光灯によく似た輪っかは黄色の淡い光を放っている。
何より人ではないと証明されたのは背中から生えた白い羽毛。天使だと一目見て分かる客人はクルワの前では尊き存在なのだろうか。
「おい、聞いているのか」
「あ、ああ……えっとそれで、御用件を聞いても」
歯切れの悪いクルワに客人をさらに苛つかせる。しかしいきなり来たのはそちらでこの場合の悪はどちらだろう。
「……お達しでここに居候することになった」
「は」
曇りかけた顔色が吹っ飛んだほど驚いたクルワはよろけた後、もう一度聞かせてほしいとお願いした。
すると客人はうんざりした顔を見せ使えねぇなと溜息を吐く様子は根本的に人を舐め腐っているようだと見てとれる。
「だからさぁ、上からのお達しでここに居候することになった訳だけど人間なんかに拒否権はねぇ」
「な、なんで……」
「知らねぇよ」
沈黙が漂う中クルワは頭がさらに痛くなった。いつの時代も天界の思考は理解の範疇を超えているもの。これは誰においても分かる分からないの話ではない。
複雑に考えなくとも厄介払いでここに行き着いたと考えれば納得は行く。この教会が選ばれたのだってこれだけ態度が悪ければ罰として落とされたんだろうと巡らせたクルワはなんとか魔物を抑え込む。
「ああ、そうだ。ロウの祝福を貴方に……だっけか?」
クルワは静かに客人を見つめた後、首元を素早く掴む。どんなに強く掴んでも根を上げるどころか無表情のままだった。
「どこでそれを知った」
「……なんでだろうな」
客人がクルワの手首を握ると同じく力を込めるとクルワが小さく悲鳴を上げた。
「勘違いするなよ。いつだってオレはお前を折れる」
「はなし、なさいよ!」
「ぐっ」
思い切り客人のお腹を蹴ると流石に効いたのかクルワの手首を掴んでいた手が緩む。
「そっちこそ自意識過剰なんじゃない。ここではなんと言おうが私が主人よ」
馬が合わないとはこの事か、嘆かわしくもこの二人は自身が思うほどに同族嫌悪が激しい。
「ようこそ異質、我が教会ロウンクルへ。仲良くやれると良いわね」
「は、冗談がお上手で」
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