3 / 11
フォルタン地区編
第2話 愉快なモニュメント
しおりを挟む
ヤモリのような生き物の群れが突如として燃え上がる。
天空を舞う怪鳥がいきなり墜落して地面の染みとなる。
翼の生えた大蛇が水っぽくぶしゃりと爆ぜて散る。
死骸のカーペットを敷く長身痩躯の女の名はロスタタルゲェノ。
先刻、焼き殺したヒュドラがここら辺のボスであったために怯えていたのか、ヒュドラがいなくなった途端に生き物がわらわら湧いてきた。
そのため鏖にしたのだ。
これらの生物──魔物は百害あって一利ない存在だ。
人種にのみならず、既存の生命体をことごとく脅かす害獣。
生かす価値は無い。
それはそれとして、ヒュドラを筆頭に出現した魔物どもを見て彼女は確信を得た。
私は時間遡行などしていない、と。
彼女が産まれてから、魔物が跋扈した時代は無い。
厳密に言えば少しの期間あったが、現在の数には遠く及ばない。
彼女の死亡時点から時を越え、未来に生きているようだ。
結論に至った彼女が今すべきは情報収集である。
この時代の人に話を聞くのが最も手っ取り早いのだが、ここ──フォルタン山地に人が住んでいるとは思えない。
フォルタン山地は動植物の生存を許さぬ不毛の地。
ロスタタルゲェノが生きた時代では、彼女と同じ人種のティタンの人々しか住んでいなかった。
そのティタンも、人生の最晩年にこの世界から消え去った。
余程の物好きでもない限りこの地に住もうとする人は居ないだろう。
となると、目指すべきはフォルタン山地の外である。
ゆえに今、彼女は世界の北極たる霊峰フォルタンに背を向け南下を始めていた。
道を妨げる魔物を切り伏せながら。
そんなときである。
魔力探知範囲に魔物でも岩でもないものが入ってきたのは。
それは、なんと人であった。
ほんの一瞬、こんな土地に人が居るとは何という僥倖だ、と思った。
ただ、直ぐにその人の様子のおかしさに気づいた。
生身の人が脚を天に向けて、地面に逆さに突き刺さっているのだ。
そして、脚やら腕やらをそこらの魔物にガジガジ噛まれている。
何とも愉快な姿であるが、どうやら生きているようだ。
鼓動を感じる。
ただ呼吸が浅い。
地面に埋まって呼吸が困難になってしまっているのかもしれない。
接近して詳しくそれを精査してみるが、間違いなく人種である。
人型の魔物という訳では無い。
彼女は魔力を圧縮して弾丸を作り、群がっていた魔物を撃ち殺す。
「大丈夫かい?」
埋まった愉快な子に声をかけながら、その子の両足を鷲掴んで引っ張る。
「若い肉体だとやはり力があるね」
若い身体の良さを噛み締めながら、埋まった子をスポンと引っこ抜く。
大根のごとく引っこ抜いたその子を地面に寝かせて置き、顔をまじまじと見てみる。
白目を向いている。
駆けつけるまでに死んでしまったかと思ったが、鼓動は聴こえる。
呼吸も問題なし。
気絶しているだけのようだ。
ただ、逆さだったため、頭に血が上って顔が真っ赤になってしまっているが。
訊きたいことは山ほどあるから、その子を揺り起こそうかとも思ったのだが、やめた。
若い肉体は、老体とは比ぶべくもないほど動きやすくて体力も長く保つが、如何せん、彼女にはそもそもの体力がない。
つまり、ひと休憩したいのだ。
彼の目覚めを待ちながら、少し休らうとしよう。
彼女はそう決めると少年の近くに腰を下ろした。
◇◆◇
地面に逆さに生えていた少年の目が覚めるのを待ち始めてから二十分ちょっと経った。
我々の周りには魔物の死体が堆く積もっている。
彼の身体を齧っていた魔物の死体の臭いに誘われたのだろうか。
しきりにやってくる。
今、魔物どもは彼女を無視して熱心に死骸を貪り食っている。
先のヒュドラと言い、ここの魔物は悉く酷い空腹状態にあるようだ。
一体この地はどうなってしまったのだろう。
そうぼんやりと考えていたとき、気絶中の少年が目覚めた。
「ん~ぅぅ」
「おはよう」
私の挨拶に少年はビクッと震え、驚きと怯えの混じった眼差しを向けた。
そして間髪を入れず彼は、我々の周囲の死骸の山を見てギョッとする。
「心配しなくていい。辺りの魔物を処分したのは私だよ。地面に頭から埋まっていたので引き抜いておいたよ」
「はぃ…は、はい…えっと…あ、ありがとうございます!埋まってた僕を助けて頂いた上に魔物から守って頂いたようで。本当にありがとうございます!」
徐々に混乱が収まってきたようだ。
二十歳はいかないほどの風貌で、元気な良い子という印象を受けた。
そして健全な男の子であるようだ。
彼の視線は彼女の乳房へと向けられている。
些か頬を赤らめながら。
彼女は長らく老いた身体であったから、こういう性的な眼差しを若い子から受けるのは久しぶりのことであった。
ごく稀に老いた身体であっても欲情する物好きもいたが、大体高齢だった。
だからとても新鮮で、悪い気分はしなかった。
「残念だが乳は出ないんだ。ティタン種の女の乳房は肺として機能しているからね。空気なら出るから飲ませてやれるけど」
冗談めかして言うと、少年は真っ赤にした顔を逸らしながら「ごめんなさいっ」と慌てて謝った。
ふふ、愛い子だ。
彼女はそう思った。
「あの…何でこんな危ないところにいらっしゃるんですか?」
恥ずかしさからか、話題を変えようと少年が尋ねてくる。
それは彼女の台詞なのだが、今はこの未来の世界の情報が得たいため置いておく。
「『危険な』と君は言ったけど、そもそもここはどういう場所なの?いや、フォルタン山地というのは知っているけども」
「あれ…知った上でここにいらっしゃるんじゃないんですか?
ここは世界最大規模の人工魔境、『フォルタン魔法愛玩動物収容区』ですよ」
「ジェイル…?ダンジョン…?愛玩…?」
知らない単語を列挙されて混乱してしまった。
生前では、物知り生き字引おばあちゃんと呼ばれるほど、言葉の新旧に関わらず何でも知っておくようにしていたため、新鮮な感覚だ。
彼女は目を剥いた。
これが俗に言うジェネレーションギャップか…!
天空を舞う怪鳥がいきなり墜落して地面の染みとなる。
翼の生えた大蛇が水っぽくぶしゃりと爆ぜて散る。
死骸のカーペットを敷く長身痩躯の女の名はロスタタルゲェノ。
先刻、焼き殺したヒュドラがここら辺のボスであったために怯えていたのか、ヒュドラがいなくなった途端に生き物がわらわら湧いてきた。
そのため鏖にしたのだ。
これらの生物──魔物は百害あって一利ない存在だ。
人種にのみならず、既存の生命体をことごとく脅かす害獣。
生かす価値は無い。
それはそれとして、ヒュドラを筆頭に出現した魔物どもを見て彼女は確信を得た。
私は時間遡行などしていない、と。
彼女が産まれてから、魔物が跋扈した時代は無い。
厳密に言えば少しの期間あったが、現在の数には遠く及ばない。
彼女の死亡時点から時を越え、未来に生きているようだ。
結論に至った彼女が今すべきは情報収集である。
この時代の人に話を聞くのが最も手っ取り早いのだが、ここ──フォルタン山地に人が住んでいるとは思えない。
フォルタン山地は動植物の生存を許さぬ不毛の地。
ロスタタルゲェノが生きた時代では、彼女と同じ人種のティタンの人々しか住んでいなかった。
そのティタンも、人生の最晩年にこの世界から消え去った。
余程の物好きでもない限りこの地に住もうとする人は居ないだろう。
となると、目指すべきはフォルタン山地の外である。
ゆえに今、彼女は世界の北極たる霊峰フォルタンに背を向け南下を始めていた。
道を妨げる魔物を切り伏せながら。
そんなときである。
魔力探知範囲に魔物でも岩でもないものが入ってきたのは。
それは、なんと人であった。
ほんの一瞬、こんな土地に人が居るとは何という僥倖だ、と思った。
ただ、直ぐにその人の様子のおかしさに気づいた。
生身の人が脚を天に向けて、地面に逆さに突き刺さっているのだ。
そして、脚やら腕やらをそこらの魔物にガジガジ噛まれている。
何とも愉快な姿であるが、どうやら生きているようだ。
鼓動を感じる。
ただ呼吸が浅い。
地面に埋まって呼吸が困難になってしまっているのかもしれない。
接近して詳しくそれを精査してみるが、間違いなく人種である。
人型の魔物という訳では無い。
彼女は魔力を圧縮して弾丸を作り、群がっていた魔物を撃ち殺す。
「大丈夫かい?」
埋まった愉快な子に声をかけながら、その子の両足を鷲掴んで引っ張る。
「若い肉体だとやはり力があるね」
若い身体の良さを噛み締めながら、埋まった子をスポンと引っこ抜く。
大根のごとく引っこ抜いたその子を地面に寝かせて置き、顔をまじまじと見てみる。
白目を向いている。
駆けつけるまでに死んでしまったかと思ったが、鼓動は聴こえる。
呼吸も問題なし。
気絶しているだけのようだ。
ただ、逆さだったため、頭に血が上って顔が真っ赤になってしまっているが。
訊きたいことは山ほどあるから、その子を揺り起こそうかとも思ったのだが、やめた。
若い肉体は、老体とは比ぶべくもないほど動きやすくて体力も長く保つが、如何せん、彼女にはそもそもの体力がない。
つまり、ひと休憩したいのだ。
彼の目覚めを待ちながら、少し休らうとしよう。
彼女はそう決めると少年の近くに腰を下ろした。
◇◆◇
地面に逆さに生えていた少年の目が覚めるのを待ち始めてから二十分ちょっと経った。
我々の周りには魔物の死体が堆く積もっている。
彼の身体を齧っていた魔物の死体の臭いに誘われたのだろうか。
しきりにやってくる。
今、魔物どもは彼女を無視して熱心に死骸を貪り食っている。
先のヒュドラと言い、ここの魔物は悉く酷い空腹状態にあるようだ。
一体この地はどうなってしまったのだろう。
そうぼんやりと考えていたとき、気絶中の少年が目覚めた。
「ん~ぅぅ」
「おはよう」
私の挨拶に少年はビクッと震え、驚きと怯えの混じった眼差しを向けた。
そして間髪を入れず彼は、我々の周囲の死骸の山を見てギョッとする。
「心配しなくていい。辺りの魔物を処分したのは私だよ。地面に頭から埋まっていたので引き抜いておいたよ」
「はぃ…は、はい…えっと…あ、ありがとうございます!埋まってた僕を助けて頂いた上に魔物から守って頂いたようで。本当にありがとうございます!」
徐々に混乱が収まってきたようだ。
二十歳はいかないほどの風貌で、元気な良い子という印象を受けた。
そして健全な男の子であるようだ。
彼の視線は彼女の乳房へと向けられている。
些か頬を赤らめながら。
彼女は長らく老いた身体であったから、こういう性的な眼差しを若い子から受けるのは久しぶりのことであった。
ごく稀に老いた身体であっても欲情する物好きもいたが、大体高齢だった。
だからとても新鮮で、悪い気分はしなかった。
「残念だが乳は出ないんだ。ティタン種の女の乳房は肺として機能しているからね。空気なら出るから飲ませてやれるけど」
冗談めかして言うと、少年は真っ赤にした顔を逸らしながら「ごめんなさいっ」と慌てて謝った。
ふふ、愛い子だ。
彼女はそう思った。
「あの…何でこんな危ないところにいらっしゃるんですか?」
恥ずかしさからか、話題を変えようと少年が尋ねてくる。
それは彼女の台詞なのだが、今はこの未来の世界の情報が得たいため置いておく。
「『危険な』と君は言ったけど、そもそもここはどういう場所なの?いや、フォルタン山地というのは知っているけども」
「あれ…知った上でここにいらっしゃるんじゃないんですか?
ここは世界最大規模の人工魔境、『フォルタン魔法愛玩動物収容区』ですよ」
「ジェイル…?ダンジョン…?愛玩…?」
知らない単語を列挙されて混乱してしまった。
生前では、物知り生き字引おばあちゃんと呼ばれるほど、言葉の新旧に関わらず何でも知っておくようにしていたため、新鮮な感覚だ。
彼女は目を剥いた。
これが俗に言うジェネレーションギャップか…!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる