魔神の最凶妻の自由気ままな鏖殺ライフ

麻呂館廊

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フォルタン地区編

第3話 少年リア

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 一旦、会話を仕切り直すことにした。
 先ずは名乗りあう。


「私の名前はロスタノだよ」


 本名はロスタタルゲェノだが、縮めて偽名にした。

 実は、彼女は生前に大量殺戮という大罪を犯している。
 この地で勇者に殺されたのもそれが原因である。

 死亡時点から何年経過しているのかわからないが、悪名は確実に未来でも轟いているはずだ。

 彼女がその殺戮者本人だとばれること自体にあまり問題はない。
 しかし、ばれた結果怯えられて、今行おうとしている情報収集が滞っては困る。

 これが偽名にした理由である。


「僕の名前はリアといいます」


 リアという素晴らしい名を覚えた後、ロスタノが唐突に告げる。

「私は過去にこの地で死亡し、時を経て生き返った魔法使いなんだよ」

 案の定、リアは信じきれない、という表情でぽかんとしてしまった。

「信じられなくてもいい。ただ、この時代の世界について簡単にでもいいから教えてほしいんだ。
 自分は時を経て復活した魔法使いだと信じ切っている、ボケた哀れな老人に語りかけるつもりで話してくれればいいから」

 そう告げるとロスタノは自分自身の肉体年齢を操作し、しなびた八十歳の老婆の姿になる。

「へぇっ…???」

 彼は絶句して固まってしまった。

 先程からオーバーな可愛らしいリアクションばかりしてくれるものだから、ついつい老婆の姿になっておどかしてしまった。

 愛い少年がハッと我に返る。

「す、すいません。いきなりでびっくりしてしまって」

「いや、私が意地悪だったよ。予告してから変わればよかったね」

「予告があっても絶句してたと思いますけどね」

 彼は穏やかに笑った。

「ロスタノさんのお話ですが、僕は信じます。そんな凄い魔法を見せていただいちゃったら信じざるを得ないですし。
 ロスタノさんが伺いたいことは何でも答えます。…何からお話ししましょうか?」

「先ずは、今が大世暦たいせいれき何年か教えてほしい」

「えっ…僕、大世暦って分からないです…。すみません…。救世暦607年ということしか知りません…」

 私の知っている暦とは違うものが使われているらしい。
 少なくとも彼の住んでいた場所では。

「その救世暦の紀元となる年にはどんな出来事があったか、わかる?」

「えぇーーっと…、あ、確か魔神が討たれた時だったと聞いたことがあります」

 ロスタノの死亡時点から魔神の死亡時点まではたいした時間差はないはず。

 およそ六百年間ほど眠りについていたようだ。
 一体、どの程度世界は様変わりしているだろうか。

「では、この場所について訊こうか。先ずは魔境ダンジョンについて教えてくれる?」

「はい!魔境ダンジョンとは魔法愛玩動物——ふつう『魔物』と呼んでいる生き物が群れて住んでいる場所のことを言います」

 彼は快活に答えてくれた。

「魔法愛玩動物についての詳細が知りたいな」

「魔物はですね、召喚魔法によって『マジックポケット』という異世界から召喚された、魔法を使う不思議な生き物の事です」

「魔法を使う不思議な生き物」である点は六百年前の時代と同じようだ。
 当時は人造製であったが。

魔境ダンジョンの話に戻りますね。
 魔境ダンジョンは二つ種類があります。ひとつは自然魔境フリーダンジョン、もうひとつは人工魔境ジェイルダンジョンです。ここは後者ですね」

 彼は地面を指さしながら説明してくれた。

自然魔境フリーダンジョンというのは、飼い主の下から逃げ出した魔物たちが寄り集まって作った縄張りのことです。
 人工魔境ジェイルダンジョンは、逃亡したり暴走したりして捕まえられた魔物を収容して、処理するための場所です」

 魔境ダンジョンの語義についてよく理解できた。
 リアは中々説明が上手だ。

「なるほど、無法の魔物たちがのさばる場所であるから、君はここを危険な場所だと教えてえてくれたわけだね」

「そうです!」

「教えてくれてありがとうね。
 では今度は私から問わせてもらうけど、そんな危険な場所に君はなぜいるの?」

 ロスタノがそう問うた途端、明るかった彼の表情に影が差し、視線をそらした。

 親に悪事がばれた子どものような怯えた顔で、ちらりと彼女を見てはまた視線をそらすを繰り返した。

 ふぅと小さく息を吐くと、リアは意を決してしゃべりだした。

「…殺し…ました…。人を…殺してしまいました。だから…ここに…入れられました」

「…君さえ良ければ、その話を詳しく聴こうか」

「軽蔑…しないんですか…?」

 座り直したロスタノに対して、彼が問いかける。

 重々しい雰囲気を出しているが、ロスタノは上目遣いがキュートだ、としか思っていない。

「君が殺生した理由次第で私の感想は変わるけど、軽蔑はしないよ。
 そもそも君の行為をバカにできるほど、私はまともな女ではないし、まともな事をしてきてない」

 リアは驚いて目を見開く。
 しかし、再び俯いた。

「本当にそうでしょうか」

 そして、ポツリポツリと話し始めた。
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