魔神の最凶妻の自由気ままな鏖殺ライフ

麻呂館廊

文字の大きさ
5 / 11
フォルタン地区編

第4話 怪力殺害

しおりを挟む
 初めて殺した人は僕のお母さんでした。

 我が家は母子家庭でした。
 父親は、僕が産まれて早々にお母さんと喧嘩した後、家を出ていったそうです。

 女手一つで僕を育てるのは大変だった様で、精神的に疲弊してきたお母さんは僕に暴力を振るうようになりました。

 でも僕は生まれながらに身体が異常に頑丈で痛くはなかったのですが、浴びせられる数々の罵声に心が耐えかねて、お母さんをどん、と突き飛ばしました。

 お母さんは家の壁を突破って飛んで行き、頭を打って死んでしまいました。

 僕は耐えられたのに…僕が抵抗したから…。

 そして、親の亡くなった僕は孤児院に入りました。
 二度目以降の殺人は孤児院の皆と院長です。

 僕が親殺しだという噂が孤児院では広まっていて、気味悪がった孤児院の皆は僕をいじめ、僕に目をつけた院長は毎日僕に折檻をしました。

 ある日、孤児院が火事になりました。
 僕は瓦礫が当たったり、火に炙られたりする位は平気だったので、孤児院の中で取り残された皆を救助しにいったんです。

 ですが、院長だけ助けられませんでした。
 孤児院の皆を優先して助けたせいで間に合わなかったんです。

 そのあと、僕は大いに責められました。

「院長を見捨てたな」「本当は混乱に乗じて院長を殺したんだろ。お前は親殺しだからな」

 殴られ蹴られ、石も投げられました。

 気づけば僕は…血塗れになっていました。

 右…右腕には…僕に腹部を貫かれた孤児院の子がぶら下がっていて、左足は、地面に倒れていた子の顔を踏み砕いていました。

 とうとう、偶々ではなく、故意に人を殺してしまったんです。

 次に僕は牢獄に入れられました。
 そこでも同じでした。

 囚人仲間からも看守からも暴力を受けました。

 殴る蹴るなどは当たり前、トイレに顔を突っ込まれたり、ご飯をひっくり返されたり、よ、夜中に襲われたりと様々でした。

 でも、平気だったはずなんですよ。
 攻撃されても痛くないし、息も人より保つので水責めされても苦しくはないんです。

 それに特に罵声を浴びせられた訳でもなかったのに。

 なのに、いつの間にか失っていた意識を取り戻したときには、囚人も看守も殺してしまっていました。

 安易に人の…命を…奪ってしまった。


 看守も牢も破壊して、手に負えなくなった僕は魔境ダンジョン送りになったんです。

 なぜそうなったかといえば、僕の超人的な力があれば、処理に困っていた魔物を処理してもらえるし、無理だとしても厄介な殺人鬼を殺してもらえるしで、どっちに転んでも利があるからです。

 そんな経緯でここ「フォルタン地区」に放り出され、鳥の魔物に空に連れていかれた後、落とされて地面に突き刺さってしまっていたんです。

 ◆◆◆

「どうです?やはり軽蔑するでしょう?」

 自分自身がフォルタン地区この場所に来た経緯を、リアは簡潔に伝えた。

「また理性を失いでもしたら、ロスタノさんのことを…こ…殺してしまうかもしれない、そんな男なんです」

 彼は畳んだ足を抱きしめて縮こまる。

「大変だったね」

 慰めの言葉をかけながら、少年の背をやさしくなでてやる。

 彼の背がビクリと震える。

「今の話を聴く限り、君は底抜けに優しい子だね」

 リアは怪訝そうな目でロスタノを見上げた。

「君は、己を痛めつけた者どもを責め恨んだっておかしくは無いのに、彼らを殺した自分自身を責めた。これはなかなかできる事じゃないよ」

 加えて、とロスタノが言う。

「命を軽視しない君の考え方は非常に好ましい」

 リアの口がへの字に結ばれ、瞳が潤む。

 リアはとことん人との出会いが悪かった。
 自分を傷つけてくるような人にしか巡り会え無かった。

 ロスタノの素直な賛辞はリアの心にとって、何よりの慰めであった。


 ◇◇◇


「私を全力で殴りなさい」


「…………………………、へ?」

「私の胴体を狙って全力で殴りなさい、今すぐ」

「……ぇ……ぇ…な…なんでですか…?」

 リアが慰められた後、ロスタノに『その怪力を御せるようになりたいかい?』と問われたため、『もちろんです!』と返事した結果、唐突に投げつけられた言葉が殴りなさい、であった。

 うろたえない理由はなかった。

 老体から若人の肉体に姿を変えたロスタノが腹部をポンポンと叩く。

「その暴れん坊な怪力をぎょせるようになりたいという意思が、覚悟があるのなら、殴りなさい」

 強調された「怪力を御す」という言葉。
 リアは思案顔になる。

「でも……殴るのは、…思い出してしまって、怖いです…」

 過去に人の胴体を自らの拳で貫いた経験は重度の心的外傷トラウマになっているようだ。

「それなら、わかった。私の周囲に障壁バリアを張ろう。これならいい?」

 ロスタノは手の甲で腹部に展開した魔力障壁をコンコンと叩いて見せる。
 ガラスを叩いたときのような、少し籠った音が響く。
 服越しとは言え、人の皮膚が立てる音ではない。

「…バリアがあっても…この手で…殴るなんて…」

 しかし、リアは渋る。
 嫌だと心臓が喚き、恐怖と不安が全身を駆け巡る。

「本当に、どうしても無理そう?
 バリアはまず割れないよ?割れたとしても緩衝するからダメージはわたしに殆ど入らないし」

 ロスタノが柔らかな口調で尋ねる。
 リアは返事もできず、少し震えながら黙り込んでしまった。

 ロスタノはその沈黙を肯定と捉えた。



「そうか。じゃあ、殺すね」



 虚をつかれたリアの息が止まる。
 理解ができなかった。

 先の身の上ばなしに対して、ロスタノが掛けてくれた優しい言葉と背を撫でる大きな手。
 そして、トラウマに悩むリアにおっとりとした口調で掛けたこと。

 それらの経験ゆえにリアは、またロスタノが背を撫でてくれるとばかり思っていた。
 
 実際には首元を大鎌が撫でていた。

「な、ん…で?」

「我慢強さは基本的に美徳だけど、君は違うよね。
 我慢の結果、感情を理性が抑えきれずに他者を殺してしまう」

 ロスタノの口調は穏やかなままである。

「だから私は、どうにかできる方法があるよと言ったのに…君は他者の命より己の精神的な健康を優先した。
 その時点で、私にとって君は魔物になった。
 魔物というのは人類に仇なす、殺さねばならない世界の敵だからね、君を殺さなきゃ」

 ロスタノは優しく諭すように告げた。

「これからフォルタン地区ここの魔物をまとめて一掃するつもりなんだけど…君は少し可哀想だから苦痛なく殺そう。安心してくれていい。
 それでは、さようなら。悲運の子」

 ロスタノがリアに指を向けた。

 リアは心に刻まれた深傷ふかでの痛みを忘れる。

「待って!待って!待ってください!やります!ロスタノさんを殴りますから!」

 人生最大の焦りを原動力に声を張り上げる。

 人を殺めてしまったことは後悔しているが、一死を以て罪をあがなおうとするほどの覚悟はなかった。

 それに怪力に苦しまずに生きるための方法を目の前でぶら下げられたのだ。
 死んでも死にきれない。

 リアの決意に対して、ロスタノは微塵も表情を変えずにそう、とだけ答えた。

 ◆◆◆

 リアはぎこちなく拳を構えた。
 ロスタノは諸手を広げてインパクトの瞬間を待つ。

 リアの胸中が再びジクジクと痛みだす。

 しかし、もうリアは踏みとどまらない。

 死への恐怖が、不安が、人生を狂わせた怪力に対する怒りが奥底から湧き上がり、血潮を沸き立たせる。

 リアは歯を食いしばった。

「……っ…いきますっ!!!!」

 喧嘩慣れしていない少年が振り上げた拳が来る。

 拳の速度は、振り上げる動作の不格好さに似合わず上昇する。


 衝突の刹那──────────────




 ――魔力障壁が解かれる。

 拳を握りしめた少年が驚く暇も無かった。

 鉄拳がロスタノの腹にめり込み、身体がはるか上空へと吹っ飛んで行ってしまった。

 リアは空に浮かぶゴマ粒サイズの女性を見つめる。

「…」

 彼は唖然としてしまった。
 しかし、思考に空白が生まれたのも束の間、力なく膝をついた。

 また、殺してしまったのか?

 孤児院の子と異なり、腹に大穴を開けてしまうことにはならなかったものの、リアの拳が彼女の内臓をいくつか潰した感触を記憶している。

 あれでは助からない。

 魔物を一蹴するロスタノが只者でないことくらいはリアにも窺い知れたが、内臓を潰されて生き残れるとは思えない。

 リアはどうしようも無い己の怪力を強く恨む。

 あれほど純粋強固だった、ロスタノの提案を受け入れるという決意に悔恨が混じる。

 所詮、僕は生きてはいけな──


 ッッッッッッッッドォォン


 突如、周囲一帯に爆音が響き渡り、風が頬を叩く。

 彼の鼓膜が揺さぶられるのとほぼ同時のことであった。

 ロスタノが少年の元に帰還したのは。

「ただいま」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...