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2.お持ち帰りされます
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井上多々良には小さい頃からおかしなモノが見えた。それはおそらく幽霊とされるモノだった。見えるだけ、聞こえるだけ、感じるだけのそれは、実際には触れることも触れられることもない。
今日は所属する写真サークルの飲み会に初めて参加した。人が集まる場所、特に夜は幽霊も集まりやすいため、今までは避けていたが、高瀬湊にどうしてもと誘われて参加してみることにした。
高瀬とは大学1年の時に小クラスで一緒になったのをきっかけに知り合ったが、未だに不思議なやつだ。俺はよく幽霊に付かれるが、高瀬の近くに行くとそれらは離れて行くのだ。俺が幽霊ホイホイなら、高瀬は幽霊避けスプレーといった具合だ。
飲み会の席で、やはり俺は一人になった。幽霊のこともあり、まともに接することができる相手は高瀬しかいないので、サークルの友人もいない。しかも、高瀬は優しくて気が利いて面倒見がいい上にイケメンだから人気者で、女子にモテる。いつも周りには人が沢山いるため、なかなか近くに行けないのだ。
ふと、向かいの席を見ると、男が座っていた。いつのまに座ったのか、全然わからなかった。しかし、すぐにおかしい事に気付く。その男は全く動かないのだ。この店に入った時から変な気配は感じていたが、高瀬がいるからと油断した。突き刺さるような男の視線に反応してしまい、ずっと下げていた顔をあげると、男と目が合った。
いや、正確には目が合った気がしただけだ。何故なら、その男の顔には眼球がなかったからだ。目があるはずのそこには吸い込まれるような闇があり、それを見た瞬間、俺は凍りついてしまった。その一瞬、俺が目を離せないでいると、男はニヤリとありえないほど口角を上げて笑った。男の口腔にも底のない闇が蠢き、喰われてしまいそうな恐怖に息が浅くなる。男はそのままの状態の顔だけで俺に近づいてきた。胴体を置き去りに顔だけで近づいてきたせいで首の骨がおかしな状態になっている。
俺はもう動けなかった。
せめて顔を下げて見ないようにできたのが、最後の抵抗だった。そんな俺を嘲笑うかのように首の骨が折れる鈍い音を響かせながらどんどん近づいてくる。
もう触れてしまう…
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!
「大丈夫か?ほら、水飲めよ」
高瀬の声が聞こえる。
気遣わしげに俺の横に座って水を差し出してくれた。少し緊張が和らぎ、多少の安心感を抱き始めるがまだ上手く体が動かない。
「あ、あぁ、ありがと高瀬」
「顔色悪いぞ、飲みすぎか?」
「あはは…そうかも…」
何とか返事が出来た。恐る恐る向かいの席を見ると、そこにはもう何もなかった。
安定の幽霊避けスプレー効果を発揮した高瀬は、そんなことも知らずに、俺を助け、体調を気遣ってくれる。もう俺が女だったらイチコロだな、なんて下らないことを考えられるぐらいには気分は回復した。
その後、心配して気遣ってくれたのだろう高瀬は俺と飲み会を抜けて、自宅に招いてくれた。正直、まだ少し怖かったので高瀬と一緒にいられるのはすごく助かった。
高瀬の家に着くなり、風呂に入れられたのは、部屋が散らかっていると気にしていたことが関係していると想像できたが、あまり一人になりたくなかった俺はカラスの行水のごとく風呂を済ませた。
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