透明人間になった僕と君と彼女と

夏川 流美

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エピローグ

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 彼は頬に涙を伝せて、薄っすらと目を開けた。酸素マスクから伸びる線を、ぼおっと見つめている。
 髪をポニーテールに縛った彼女は、いち早くそれに気付いた。彼の名を呼ぶよりも先に、声も無く泣き始める。それから嬉しそうに、手を握り締めた。

「青葉っ……やっと起きてくれた……!!」

 彼は彼女に向けて、重そうに視線を動かした。か細い息を吐いて、生きていることを確認した。

(交通事故に、遭ったんだよな)

 鉛のような体を無理やり起こす。不安げに背中に手を回した彼女は、起き上がるサポートをする。ついでに伝っていた涙を、華奢な指先で拭った。
 煩わしそうに酸素マスクを外そうとする。それを慌てて止める彼女。彼は彼女と目を合わせず、苦しそうに頭を抱えた。

「ずっと、知らない世界にいた」
「……知らない、世界? 夢でも見ていたの?」
「分からない。――思い出せない」

 彼は全てを忘れていた。ワンピースがよく似合う、一度は恋人になったとある幽霊のことを。それらの思い出を。何も覚えてはいなかった。

「夢なんてすぐ忘れちゃうからね。……それよりも、心配したんだよ。青葉」
「ごめん……ありがとう」

 視線を交わらせ、互いに恥ずかしげな笑みを見せる。久々の恋人との会話に、嬉しさが隠しきれないようだ。
 ナースコールを押し、家族に連絡をし、母親とも久々の対面をする。大袈裟なくらいに泣いて喜ぶ家族の姿に、担当医も彼女も彼も、困惑していた。
 彼は幸せそうに笑う。こんなに心配してくれる人がいた幸福を、全身で味わっている。

 ただそこに、1人の少女の影はない。
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