黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第一章 黄色い目をした少女

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草原はどこまでも続いていて、雲一つない青空と地平線でまじりあっていた。

  


 原付バイクもそのままだ。
 カギは刺さっているのに、エンジンがかかっていない。

 そうだ。夢を見ているんだ。やっと追いついてきた思考が出した答えは、ごく平凡なものだ。

「夢……だよな?」

 意図せず出た言葉が、澄んだ空気に溶けていく。誰も聞いていない。ヒカル自身さえにも届いていない。
 時計の音は止まっていた。

「ゼンマイが止まったのかな?」

 そんなことはどうでも良いのに、ヒカルはなんでも良いから「答え」を探した。木の枝を宙に放り投げたらどうなるか? 答えは「落ちてくる」だ。何でも良い。要はリハビリ。ゼンマイを動かすと時計が動くように、マヒした頭を動かすための練習問題。信号は何色で渡る? 魚は何呼吸? 

 そして――。

「ここはどこ?」

 これが本番。けれども、いくらリハビリをしたところでこの問題は難しすぎる。

 ヒカルは、ようやく一歩一歩と足を進めることが出来た。小包を抱えながら、どこへ進めば良いのかも分からない。だけど答えを出すには何かをしなければならない。

 葉っぱの付いていない痩せた木が点々と立っていて、よく見ると、草の中には白や黄色の小さな花もあった。

 ついさっき11時を指していた腕時計は、今は15時35分を指している。それから腕時計が16時を指すころになって、遠くの方に人影を発見した。

 やっと見つけた! 答えを出すための大ヒントが!

 急いで駆け寄ってみると、それは人ではなく、ただのカカシのような人形だとすぐに気が付いた。割烹着のような黄色い服を着ていて、顔の部分には花の目と葉っぱの口があった。残念でした、とまるでヒカルを笑っているよう。

 呆然とするヒカルは、思わずそのカカシを蹴飛ばしてしまえとも思った。

「はあ……」裏切られた気分。
 ヒカルは、カカシの横に座りこんでしまった。

 どこからか、鳥の鳴き声が聞こえてきた。そのまま仰向けで寝転がると、目の前には深い色の青空がどこまでも見える。

 その中に、一点の影を見つけた。

「鳥?」

 にしては大きいすぎるような。キラキラと翼が光っていた。
 それは、まるで黄金に輝いている様――。

 優雅に上空を飛ぶその姿を見て、ヒカルはどこか神秘的な何かを感じた。今度は足音が聞こえてきた。人形ではなくちゃんとした人の気配なのに、空の上のそれに釘付けで、ヒカルは起き上がることが出来なかった。

「誰?」

 その声は、細くて高い、少女の声であった。



 少女は「リオン」と名乗った。

 三つ編みのおさげにした赤毛の少女を見て、自分よりも年下だろう、とヒカルは感じた。カカシのような黄色い服を着ている。

「ここはどこ?」

 当り前の質問に、リオンは「何を言っているの?」と首を少し捻った。

「……もしかして知らないで来たの?」

 眉間に小さな皺を寄せながら、リオンはヒカルの顔をまじまじと見つめた。長いまつ毛の目立つ大きな目だ。その瞳には、わずかに黄色が混じっている。

 顔が近い。恥ずかしくなったヒカルは、思わず顔を逸らしてしまった。

「旅の人? だったら、早く出て行った方が良いよ」

――もうすぐ来るから。
 その言葉だけ、声に重たい響きがあった。
 薄く、淡いピンク色の唇からは、到底想像もできないくらい、重たく、そして怒りに満ちた声だった。

「な、なにが来るの!?」

 今度こそ、リオンは大きなため息をついた。

「何って、決まっているでしょう!」

 腰に手を当て、まるで悪戯をした子どもを叱りつけるように、リオンはきゅっとヒカルを睨みつけたる。思わず、「ごめんなさい」と言いそうになった。

「鱗よ!」
「うろこ?」
「そう!」

 待って! と先にリオンは叫んだ。「うろこって何?」とヒカルが言う前に。

「もしかして、本当に何も知らないの?」

 捲し立てる口調から、ゆっくりとした言葉になっていく。

「はい……」

 リオンは、さっきよりも小さなため息をついた。子どもしかりつける目から、憐みの目へと変わっていく。

「君。今までどこで暮らしてきたのよ?」

 リオンが再びヒカルを見つめた。
 何も言ってくれない。品定めのようにジロジロと見つめられるだけ。先ほどとは違う居心地の悪さがその眼差しにはあって、ヒカルは「何か言ってくれよ」と困惑した。

 サー、と風が草原を掛けいく。二人の間も通り過ぎた。リオンの赤毛もひっぱられていく。

「とにかく、ここはあぶないから。君は早く逃げ――」

 言いかけた言葉を投げ捨てて、リオンはさっと後ろを振り返った。

「来たわよ」

 瞬間。ドンっと大きな音がして、地面が揺れる。

「地震!?」
「逃げて!」

 リオンに腕をひっぱられて、ヒカルは無理やり走り出した。揺れはすぐに収まったけれども、リオンに促されて、ヒカルはどんどんスピードを上げていく。

 ゴオオオ――。
 大きな音が響く。まるで獣の咆哮だ。

「今の何!?」

 一目散に走るリオン。
 ヒカルはちらと後ろを振り返ってみた。綺麗な緑色の草原に、砂埃が遠くに見えた。その中で、大きな何かが動いている。キラキラと輝いてもいた。

 砂煙に包まれた大きな何かは、金色に光る四本足の化け物だ。
 ヒカルの目が、化け物の赤い目と合ってしまう。すると、化け物は猛スピードでこちらにを向かってくるではないか。

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