黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第二章 大都市オルストン

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「そんな大袈裟なものではないけれどね」

 技術者――その響きが可笑しくて、ヒカルは笑ってしまった。

 ヒカルは立ち上がると、原付バイクのシートポケットから、小さな工具箱を取り出した。そして、腕時計を外し、器用に分解していく。その手つきを見て、バルの目はますます輝いてきた。

 ベゼルに着いた微かな埃を息で吹き飛ばすと、今度は手際よく元通りに組み立ててみる。

「ほら、元通りさ」
「すごい! 本当に技術者だ!」

 丸い鼻を膨らませる。誉め言葉に苦笑い。ヒカルもつい嬉しくなって、いらない自慢をした自分が少しだけ恥ずかしくなってきた。

「こっちの時計は出来ないの?」

 バルがきらきらな目をして、黄金の懐中時計を見た。

「これもしたいのはやまやまなんだけれど、図面を書かなきゃならない。分解するだけならできるけれど、生憎、メモとペンを持っていないからね」

「メモ? ペン?」
「字を書くものだよ」
「地面に書いちゃダメなの?」
「それじゃあ、いつかは消えちゃうじゃないか」

 ヒカルもだんだんと面白くなってきた。
 男は物知りたがりで居たいのだ。そして自慢したい。自分はどれほど知ってますよ。あら? あなたはこれを知らないんですか? なら教えてあげてもいいですよ、と。

「そういえばその乗り物も不思議だよね」

 バルが、今度は原付バイクを指さす。この世界に来て、傷が増える一方の愛車だ。

「原付って言うんだ。ガソリンで動く乗り物だよ」
「ガソリン?」
「そう。燃料さ」
「これも君が作ったの?」
「いや、これはさすがに……」

 少年のバルは興奮していた。彼にはただの原付バイクが、飛行機や戦車に見えるらしい。

「技術者なら、どこに行っても大丈夫なんだけどなあ」

 興奮がひと段落し、バルがぽつりとこぼした。

「僕、オルストンに向かってたんだ」
「オルストン?」
「知らないの? このあたりじゃあ一番大きな都市なんだぜ。町の地面は全部石でできていて、馬が歩いたり、船で物を運んだり。みんな綺麗な服を着て、美味しい物を食べて暮らしているんだ」
「へえ。そこで暮らしたいの?」
「うん。仕事を探してね」
「バルの村は?」

 そう言って、ヒカルは「まずい」と思った。
 案の定、バルの顔が一変し、みるみる曇っていく。

「村はね、無くなったんだ」

 きっと、黄金竜の仕業なのだろう。
 鱗を落とし、村をめちゃくちゃにする。その脅威はすでにヒカルも知っていた。残酷な悲劇は、幼い少年だって例外ではないのだから。

 黄金竜によって村をめちゃくちゃにされたひとりぼっちの少年、ヒカルはバルをそう思っていた。

 だが、違った。

「戦争でね……」
「え?」

 戦争――。
 黄金竜ではなく、戦争だとバルは言う。この世界の脅威は、黄金竜だけではなかったのだ。

 黄金竜を中心とした争い。人と人との闘争があるのだと、バルは言った。

「黄金竜をね、倒そうっていう人たちと、それはだめだっていう人が戦うの」
「黄金竜を守るって意味?」
「そう。だって黄金竜は神様だったんだもの」
「神様?」

 すべては竜神様の御心に。

「昔、黄金竜は神様だった。神様を倒すなんてダメなことでしょう?」

 だから戦うの。神様を守るために。
 ヒカルがポカンと口を開ける。黄金竜が神様だって? 人を殺し、村を壊滅させる神様がどこにいる、と。

「最近多くなってきたんだ。だから、みんな連れていかれちゃった」

 お父さんも、お母さんも、村のみんなも一緒に。

「バルはどっちなの? 黄金竜を倒したい? それとも守りたい?」
「そりゃ倒したいよ。たぶん世界のほとんどの人はそう思ってる」

 なら、竜保護派は異端なのか。

「ごめん。嫌なこと聞いちゃった」

 ううん、とバルは首を振った。「大丈夫だよ」ではなく、「僕って強いだろ?」の意味だ。

 再び、気まずい沈黙が流れた。せっかく盛り上がったのに、勿体ない。

「じゃあ、そろそろオルストンへ向かおうか。夜になって、あの蛇がでてくる前にさ」

 ヒカルが立ち上がり、バルの肩を叩いてやる。
 うん、と弱弱しく返事をするバル。そんな少年をほったらかしになんかできないヒカルは、はあ、と一つため息をついた。

 まったく。損な性分だ。

「着いたら教えてやるよ。原付の乗り方をさ」

 その言葉が、再びバルの目を輝かせた。

「いいの?」
「もちろんさ」

 そして、二人は再び森の中へ入っていく。
 目指すは大都市オルストン。ちょうど食料も尽きてきた。黄金竜だの、戦争だの言う前に、まずは腹ごしらえだ。

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