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第二章 大都市オルストン
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大都市オルストンの敵は黄金竜だけではない。
災厄を生む黄金竜を空から撃ち落とそうと、真っ先に声を上げて武器をとった町だ。
いわば、竜討伐派の中心都市。だからこそ敵が多いのだ。
昼間、広場の大通りを歩いていた兵士たちは、黄金竜と対峙するためのみならず、その黄金竜を崇拝する保護派の連中とも戦わなければならなかった。
さっきまで夜の寝息で静かだった大通りが、途端に慌ただしくなる。人々が石畳の上を走り回る。窓が割れ、どちら側かわからない怒声が響き渡る。
これが戦争だ。人と人との争い。バルの村へも手を伸ばし、両親を奪っていった人災。
小川が流れる狭い路地裏で肩を寄せながら、二人は町の悲鳴を聞いていた。
裏路地を出ると、すぐに大通りに繋がる。戦いに巻き込まれないよう、ヒカルとバルはひっそりと路地裏で身を小さくしていた。
だが、侮ることなかれ。戦争の火は二人を見逃さない。
二人きりだった路地裏に、大通りで溢れた人たちがどっと流れ込んでくる。すぐ後ろには、馬に乗って追いかけてくる男も一緒に。
向かってくる人混みを前に、ヒカルはバルの手を引いた。
「後ろに乗れ!」
原付バイクに股がり、すぐさまエンジンをかける。だが、バルは一向に動こうとしない。
「はやく!」
バルは、逃げ惑う人々と、それを追いかける兵士をただただ見つめていた。
過去のトラウマだ。ただでさえ小さな少年から、雑巾を固く絞るかのようにして全てを奪い取った戦争を目の前に、バルはガタガタと肩を震わせることしか出来なかった。
ドサリ、と音が聞こえた。見ると、敵の兵士が乗っていた馬からずり落ちていた。
背中には数本の矢が刺さっている。倒れた兵士は、身動き一つせず、地面に血だまりを広げるだけ。
「バル!」
少年の目に生気が戻る。涙で濡れた瞳でヒカルを振り返った。
「ぼ、僕……」
「いいから早く乗れ!」
バルの腕を掴み、原付バイクの後ろへ半ば強引に乗せると、ヒカルは徐々にスピードを上げながら裏路地から大通りを覗いた。
大通りは争いの渦に飲み込まれていた。
あちこちから火があがっていた。剣の一振りを盾で受ける者。倒れた敵から剣を抜く者。
青いセンチメンタルだった夜のオルストンは、もはや業火による怒り、憎しみ、恨みをぶつけ合う血の一色だった。
槍をもった一人の兵士が、敵の集団へと飛び込んでいく。かなりの強者のようで、攻撃を巧みにかわしつつ敵を一人、また一人と突き倒していく。
数で勝っていた相手も、次第に難色を示す。槍兵はそんな相手を威嚇しつつ、じりじりと間合いを詰めていく。
そんな槍兵も、馬に乗った兵士に背後から斬りつけられてしまった。隙を見せたら最後。槍兵は一気に串刺しだ。
槍兵を襲った騎兵も、たった一本の弓矢で地に落ちた。
戦場の悪魔はどこにでもいる。強い弱いは関係ない。地位や名声や肩書きだって、無情に破かれてしまう。
目まぐるしく動く大通りを遠目から見て、ヒカルは思案した。
どこかに避難所があるはず。もしくは、思いきってこの町から出てしまおうか。バイクならきっと抜けられる。万が一の時は、こいつを使えばいい、と。
ヒカルは腰に着けた黄金の懐中時計をそっと撫でた。
考えを巡らす間に、一進一退の戦場にも動きが見られた。
あくまでも奇襲。大都市オルストンの兵力が整ってしまうと、敵の進行はたちまち止まってしまう。
進行が止まると、今度は後退だ。戦場は一気にオルストンのペースになる。路地裏から見ていたヒカルもそれがはっきりと分かった。
火災も収まりつつある。鎮火に回る余裕も出てきた様子だ。
奇襲を仕掛けた敵側の中には撤退する者も出てきた。
赤く染まった町にも青白い月明かりが戻りつつある。
安心するにはまだ早いけれども、ヒカルは懐中時計から手を離す。後ろのバルはいまだにぎゅっとヒカルに抱きついているが、きっとすぐ良くなるだろう。
オルストン側の人間は、誰しもが安心し始めたに違いない。もう大丈夫。きっと大丈夫。夜は必ず明けるように、雨は必ず止むように、腹痛が必ず治まるように。
そんなはっきりとした「兆し」を感じる。
その時、スー、と辺りが急に暗くなった。
月が雲に隠れたのかしら?
ヒカルも、戦場の兵士たちも、何事か? と手を止め声を止めて夜空を見上げる。
夜は明ける。雨も止む。腹痛だっていつかは治まる。だが、忘れることなかれ。それらは必ずまたやってくる。
オルストンに居る全員が目を丸くした。
皆が見上げた夜空の遥か彼方――月を隠すほどの巨大な黄金の竜が、ヒカルたちを空高くから見下ろしていたのだから。
災厄を生む黄金竜を空から撃ち落とそうと、真っ先に声を上げて武器をとった町だ。
いわば、竜討伐派の中心都市。だからこそ敵が多いのだ。
昼間、広場の大通りを歩いていた兵士たちは、黄金竜と対峙するためのみならず、その黄金竜を崇拝する保護派の連中とも戦わなければならなかった。
さっきまで夜の寝息で静かだった大通りが、途端に慌ただしくなる。人々が石畳の上を走り回る。窓が割れ、どちら側かわからない怒声が響き渡る。
これが戦争だ。人と人との争い。バルの村へも手を伸ばし、両親を奪っていった人災。
小川が流れる狭い路地裏で肩を寄せながら、二人は町の悲鳴を聞いていた。
裏路地を出ると、すぐに大通りに繋がる。戦いに巻き込まれないよう、ヒカルとバルはひっそりと路地裏で身を小さくしていた。
だが、侮ることなかれ。戦争の火は二人を見逃さない。
二人きりだった路地裏に、大通りで溢れた人たちがどっと流れ込んでくる。すぐ後ろには、馬に乗って追いかけてくる男も一緒に。
向かってくる人混みを前に、ヒカルはバルの手を引いた。
「後ろに乗れ!」
原付バイクに股がり、すぐさまエンジンをかける。だが、バルは一向に動こうとしない。
「はやく!」
バルは、逃げ惑う人々と、それを追いかける兵士をただただ見つめていた。
過去のトラウマだ。ただでさえ小さな少年から、雑巾を固く絞るかのようにして全てを奪い取った戦争を目の前に、バルはガタガタと肩を震わせることしか出来なかった。
ドサリ、と音が聞こえた。見ると、敵の兵士が乗っていた馬からずり落ちていた。
背中には数本の矢が刺さっている。倒れた兵士は、身動き一つせず、地面に血だまりを広げるだけ。
「バル!」
少年の目に生気が戻る。涙で濡れた瞳でヒカルを振り返った。
「ぼ、僕……」
「いいから早く乗れ!」
バルの腕を掴み、原付バイクの後ろへ半ば強引に乗せると、ヒカルは徐々にスピードを上げながら裏路地から大通りを覗いた。
大通りは争いの渦に飲み込まれていた。
あちこちから火があがっていた。剣の一振りを盾で受ける者。倒れた敵から剣を抜く者。
青いセンチメンタルだった夜のオルストンは、もはや業火による怒り、憎しみ、恨みをぶつけ合う血の一色だった。
槍をもった一人の兵士が、敵の集団へと飛び込んでいく。かなりの強者のようで、攻撃を巧みにかわしつつ敵を一人、また一人と突き倒していく。
数で勝っていた相手も、次第に難色を示す。槍兵はそんな相手を威嚇しつつ、じりじりと間合いを詰めていく。
そんな槍兵も、馬に乗った兵士に背後から斬りつけられてしまった。隙を見せたら最後。槍兵は一気に串刺しだ。
槍兵を襲った騎兵も、たった一本の弓矢で地に落ちた。
戦場の悪魔はどこにでもいる。強い弱いは関係ない。地位や名声や肩書きだって、無情に破かれてしまう。
目まぐるしく動く大通りを遠目から見て、ヒカルは思案した。
どこかに避難所があるはず。もしくは、思いきってこの町から出てしまおうか。バイクならきっと抜けられる。万が一の時は、こいつを使えばいい、と。
ヒカルは腰に着けた黄金の懐中時計をそっと撫でた。
考えを巡らす間に、一進一退の戦場にも動きが見られた。
あくまでも奇襲。大都市オルストンの兵力が整ってしまうと、敵の進行はたちまち止まってしまう。
進行が止まると、今度は後退だ。戦場は一気にオルストンのペースになる。路地裏から見ていたヒカルもそれがはっきりと分かった。
火災も収まりつつある。鎮火に回る余裕も出てきた様子だ。
奇襲を仕掛けた敵側の中には撤退する者も出てきた。
赤く染まった町にも青白い月明かりが戻りつつある。
安心するにはまだ早いけれども、ヒカルは懐中時計から手を離す。後ろのバルはいまだにぎゅっとヒカルに抱きついているが、きっとすぐ良くなるだろう。
オルストン側の人間は、誰しもが安心し始めたに違いない。もう大丈夫。きっと大丈夫。夜は必ず明けるように、雨は必ず止むように、腹痛が必ず治まるように。
そんなはっきりとした「兆し」を感じる。
その時、スー、と辺りが急に暗くなった。
月が雲に隠れたのかしら?
ヒカルも、戦場の兵士たちも、何事か? と手を止め声を止めて夜空を見上げる。
夜は明ける。雨も止む。腹痛だっていつかは治まる。だが、忘れることなかれ。それらは必ずまたやってくる。
オルストンに居る全員が目を丸くした。
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