黄金竜のいるセカイ

にぎた

文字の大きさ
28 / 94
第四章 迷い山の地下神殿

しおりを挟む
 照らされた大広間は、あたかも無限に広く感じられた。

 雄大はいずれ偉大へ。
 偉大はいずれ伝説へ。
 伝説はいずれ夢へ。

 夢は現実に起こり得ないからこそ夢なのだ、と何度も聞いたことはある。

 しかし、もし夢と現実の両方が存在するとなると、ヒカルの見るこの光景がまさしくそうなのではないだろうか。

 あたかも夢。あたかも現実。到底言葉では言い表せないほどの雄大で偉大で、夢物語のような大広間が、まさに今ら彼らの目の前に広がっているのだ。

 燃える小熊パッチによって、何十、何百もの柱が規則正しく、そしてずっと奥まで並んでいるのが分かった。

 柱には、一つ一つ装飾がしてあった。

 幾何学的な模様に、読むことのできない文字。そして、上へ登ろうとするかのように柱に巻き付く「竜」たち。

 誰が作ったのか。何のために作ったのか。そんな疑問など飛んでいけ。例え神が作ったと言われても、すんなり頷いてしまうほど、この大広間は神秘的であった。

 ヒカルは大広間のあちこちを歩いて回った。他の兵士たちも同じように、バラバラになって大広間を見ている様子だ。

 どこまで進んでも、パッチの炎が照らしてくれる。だからこそ油断があったのかもしれない。ずっと張っていた緊張の糸が緩んだから、ヒカルはリュックの中身よりも、目の前の珍しい光景しか見られなかった。

 ただ、ブリーゲルとウインだけは、ずっとパッチの側にいるようだ。

 二人の「脅し」のお陰でうるさく喚くことは無くなったけれど、それでも口は閉じないようで、ブツブツと不平不満を漏らしている。

 「解放されたら覚えておけ」だとか、「出ようと思えばすぐに脱獄できるんだ」とか。

 言葉の意味はヒカルには分からなかったけれど、そんなことはどうでもよかった。

――小熊のくせに。

 しばらく進むと、ヒカルは同じ方向に歩いていた「マフラー」が、柱に寄りかかって蹲っているところを見つけた。

 震えている様子で、彼もまた何やらブツブツ呟いている。

 声を掛けようとしたけれど、また怒られるかもしれないからやめた。明るくなったから、文字通り小言を言われるのが「目に見えた」のだ。

 ヒカルは早足で彼を追い越すと、この広間がどこまで続いているのか確かめようと考えた。パッチの炎がいかに明るくても、この大広間の隅っこまで綺麗に見えるほどではなかったのだ。

 それほどここは広く、そして偉大な雰囲気もあった。
 いったい、ここは山のどのあたりなのか。いったい、誰が何の為に拵えたのか。
 ヒカルのいた世界だってそうだ。古代エジプトだとか、インカ帝国、海に沈んだと噂だけのアトランティスだって、現代人には想像しがたい超文明を持っていた。

 憶測だけのロマンは人々の夢だ。過去も未来も関係ない。得体の知れない、という決まり文句には、不思議とロマンが込められている。

 宇宙や深海も同じ。どの時代のどこに行ったって、人々は未知の隙間を「情熱」で埋めたがるのだから。

 歩きながらヒカルはようやく疑問に気がついた。

――あの小熊はどこから現れたのか?

 くしゃくしゃに丸めて捨てたはずの記憶を広げて、シワを丁寧に伸ばして考える。

 だけど、ヒカルはついに歩くことを止めてしまった。そんな疑問なんかよりも、大きな疑問を見つけてしまったから。

 目の前の柱。他の物と一見同じように見えるそれに、どこかで見たことがあるような文字があった。

「アイ……エス……エー……エイチ?」

 柱の幾何学的な模様に沿って刻まれたその文字は、「i」「s」「a」「h」のような英語に似ていた。

 妙にデフォルメされ判断しにくく、一見はただの模様のようではあるけれど、「英語」のようにも見てとれる。

 はてな――。この文字が何を意味しているのか。
 続きの文字があるのか、と柱に刻まれたその文字をヒカルは手でなぞる。

 「h」に続く文字、もしくは「i」以降の文字はどこか。

 ザラリ、とした触感。ツルツルの、大理石を思わせる柱のはずが、嫌にトゲトゲしく感じた。
 それもそのはず、その「四文字」に続く文字があったであろう場所が、何者かによって削り取られていたのだ。

 ヒカルは一歩下がって柱を見つめ直す。
 柱に出来た三本の筋が、パッチの光によって照らされる。
 浮かび上がったそれらの筋は、どれもヒカルの背丈よりも長い。頭上高い場所から、地面にまで。

 爪跡だ。
 それも、人ではない巨大な何物かによってつけられたもの……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...