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第六章 鉛色の空
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勢いは完全にお化け軍にあった。
兵士たちを振り落とそうと必死に身をよじっていた黄金ワニも、どこか大人しい様子に見えた。
バルはふと、鉛色の空にできた穴を思い出して見上げた。決して忘れていた訳ではないのだけれど、それよりも強烈で不快な光景を が目の前にあったものだから。
偶然か必然かは分からない――。
バルが空を見上げたとほぼ同時に、それらはやって来た。空からと地下からと。
空の穴からは黄金色の巨大昆虫の大群が現れたのだ。かつてオルストンを襲い、ヒカルを連れ去った黄金虫たちだ!
鉛色の空にキラキラと光るその存在に、バルは驚きと恐怖を隠しきれなかった。
――逃げなきゃ!
原付バイクから立ち上がろうとした時、黄金ワニとお化け兵士たちが衝突しているすぐ近くで、またしても大きな音とともに砂煙が舞った。
「うわああああ!」
叫び声と共に、お化けの兵士の上半身だけが、バルの目の前に飛んできた。
見ると、砂煙の中から同じ様に次々と兵士たちが放り投げ飛ばされていく。
地中から砂煙と共に現れたもの――それは黄金の巨大な猿だった。
「ギャオオオオ!」
バルは思わず両手で耳を塞ぐ。咆哮はまるで大砲だった。
黄金ザルは、次から次へとお化けの兵士を投げ飛ばしていく。空中に放り出された兵士を今度は黄金虫がキャッチをし、さらなる上空から彼らを突き落としていった。
その光景は地獄でしかなかった。
ワニ一匹を圧倒しかけていたところに現れたサルと虫。戦況は見事にひっくり返り、ワニも勢いを取り戻した。
バルは、再び原付バイクのエンジンをかけようと必死になった。
左のレバーを引いて、右のボタンを押す。
やはりエンジンはかからない。
あたふたとしている間にも、黄金のワニとサルと虫は、オルストンの瓦礫の上で破壊を繰り返す。
ワニが兵士を砕き、サルが兵士を潰し、空中からは虫の大群が目を光らせている。
逃げ場所などない。
この原付バイクさえ動いてくれれば。
頭上を飛んでいく黄金虫がバルに気づかれたのか、一匹がバルに向かって飛んできた。
間一髪。黄金虫の釜の様な足が目の前を空ぶった。どさり、と目の前に黄金虫が瓦礫の山に落ちる。
止めたのは、少年を守ると約束した脳みそ兵士だった。
〇
その剣は、異様な雰囲気を持っていた。
少なくとも、バルにはそのように見えたのだ。
ただの剣ではない。刀身は湖の様に澄んでいるのだけれど、その奥底からは悲しみや憎しみの声がピリピリと伝わってきた。
鱗である黄金の虫も一発だ。瓦礫の山で、ピクリとも動こうとはしない。
「だから言っただろ? 守ってやると」
涙目で見上げると、脳みそ兵士はニヤリと不細工に笑って見せた。彼のぎこちない笑みに、バルはなぜか少しだけ安堵できたのだ。
仲間がやられた黄金虫の何体かこちらに気が付いた。
それらさえも、脳みそ兵士は目にも止まらぬスピードで切り落として行く。
黄金を砕く一振りは、まるで鬼神如く。
バルと脳みそ兵士の回りには、黄金の山ができつつあった。
やがて、目の前には巨大な黄金猿が一匹。
仲間を砕かれた怒りなのか、両目は燃える様に赤く光っていた。
対峙する黄金のサルとお化けの兵士。少年のバルは巻き込まれてはなるものかと、原付バイクと共に瓦礫の影へ避難した。
睨み合う両者――だが、勝負は一瞬に。
キン! と鐘を打ったような音が聞こえたかと思うと、黄金猿の左腕が落ちた。
「ギャオオオオ!」
痛々しく叫び声をあげながら、黄金猿が一歩引く。怒りの赤い目が、さらに燦々と燃えながらも、その片隅には臆病さも見えたのだ。
あの剣は何なのか? どのような力が秘められているのだろうか?
一転二転の衝突は、再び兵士たちに偏った。それほどまでの力を、あの剣にはあるのだ。
鉛色の空の下――脳みそ兵士と黄金猿が見つめ合う。虫たちはも迂闊に彼には飛び込めず、空中から機を伺うばかり。
「どうした? 鱗たちよ。お前たちはこの世界に多くの災いをもたらしたはずだぞ。世界はお前たちの襲来に震え、大切な人と肩を寄せ合い、『心配ない。大丈夫だから』と嘘をつくのだ」
脳みそ兵士が一歩前に出ると、黄金猿が一歩後退る。鱗たちは恐れているように見えた。自分たちを守る黄金を砕いてしまう剣に。得体の知れない不気味な兵士に。
「そんなものか鱗たちよ! 世界を混沌に突き落とし、我々の全てを奪ったお前たちが、私のようなたった一人のはぐれ兵士を恐れているのか!」
脳みそ兵士が剣を握り直す。
戦況はさらに一転した。彼の言葉通り、たった一人の兵士によってまたしても黄金軍は窮地に陥ってしまったのだ。
「来なければこちらから!」
脳みそ兵士が駆け出す。瓦礫がガラガラと崩れる音が聞こえた。
黄金ワニと戦う兵士たちも呼応する。
鉛色の空の下。
かつての大都市オルストンで、後々語り継がれる大事件が始まったのだ。
兵士たちを振り落とそうと必死に身をよじっていた黄金ワニも、どこか大人しい様子に見えた。
バルはふと、鉛色の空にできた穴を思い出して見上げた。決して忘れていた訳ではないのだけれど、それよりも強烈で不快な光景を が目の前にあったものだから。
偶然か必然かは分からない――。
バルが空を見上げたとほぼ同時に、それらはやって来た。空からと地下からと。
空の穴からは黄金色の巨大昆虫の大群が現れたのだ。かつてオルストンを襲い、ヒカルを連れ去った黄金虫たちだ!
鉛色の空にキラキラと光るその存在に、バルは驚きと恐怖を隠しきれなかった。
――逃げなきゃ!
原付バイクから立ち上がろうとした時、黄金ワニとお化け兵士たちが衝突しているすぐ近くで、またしても大きな音とともに砂煙が舞った。
「うわああああ!」
叫び声と共に、お化けの兵士の上半身だけが、バルの目の前に飛んできた。
見ると、砂煙の中から同じ様に次々と兵士たちが放り投げ飛ばされていく。
地中から砂煙と共に現れたもの――それは黄金の巨大な猿だった。
「ギャオオオオ!」
バルは思わず両手で耳を塞ぐ。咆哮はまるで大砲だった。
黄金ザルは、次から次へとお化けの兵士を投げ飛ばしていく。空中に放り出された兵士を今度は黄金虫がキャッチをし、さらなる上空から彼らを突き落としていった。
その光景は地獄でしかなかった。
ワニ一匹を圧倒しかけていたところに現れたサルと虫。戦況は見事にひっくり返り、ワニも勢いを取り戻した。
バルは、再び原付バイクのエンジンをかけようと必死になった。
左のレバーを引いて、右のボタンを押す。
やはりエンジンはかからない。
あたふたとしている間にも、黄金のワニとサルと虫は、オルストンの瓦礫の上で破壊を繰り返す。
ワニが兵士を砕き、サルが兵士を潰し、空中からは虫の大群が目を光らせている。
逃げ場所などない。
この原付バイクさえ動いてくれれば。
頭上を飛んでいく黄金虫がバルに気づかれたのか、一匹がバルに向かって飛んできた。
間一髪。黄金虫の釜の様な足が目の前を空ぶった。どさり、と目の前に黄金虫が瓦礫の山に落ちる。
止めたのは、少年を守ると約束した脳みそ兵士だった。
〇
その剣は、異様な雰囲気を持っていた。
少なくとも、バルにはそのように見えたのだ。
ただの剣ではない。刀身は湖の様に澄んでいるのだけれど、その奥底からは悲しみや憎しみの声がピリピリと伝わってきた。
鱗である黄金の虫も一発だ。瓦礫の山で、ピクリとも動こうとはしない。
「だから言っただろ? 守ってやると」
涙目で見上げると、脳みそ兵士はニヤリと不細工に笑って見せた。彼のぎこちない笑みに、バルはなぜか少しだけ安堵できたのだ。
仲間がやられた黄金虫の何体かこちらに気が付いた。
それらさえも、脳みそ兵士は目にも止まらぬスピードで切り落として行く。
黄金を砕く一振りは、まるで鬼神如く。
バルと脳みそ兵士の回りには、黄金の山ができつつあった。
やがて、目の前には巨大な黄金猿が一匹。
仲間を砕かれた怒りなのか、両目は燃える様に赤く光っていた。
対峙する黄金のサルとお化けの兵士。少年のバルは巻き込まれてはなるものかと、原付バイクと共に瓦礫の影へ避難した。
睨み合う両者――だが、勝負は一瞬に。
キン! と鐘を打ったような音が聞こえたかと思うと、黄金猿の左腕が落ちた。
「ギャオオオオ!」
痛々しく叫び声をあげながら、黄金猿が一歩引く。怒りの赤い目が、さらに燦々と燃えながらも、その片隅には臆病さも見えたのだ。
あの剣は何なのか? どのような力が秘められているのだろうか?
一転二転の衝突は、再び兵士たちに偏った。それほどまでの力を、あの剣にはあるのだ。
鉛色の空の下――脳みそ兵士と黄金猿が見つめ合う。虫たちはも迂闊に彼には飛び込めず、空中から機を伺うばかり。
「どうした? 鱗たちよ。お前たちはこの世界に多くの災いをもたらしたはずだぞ。世界はお前たちの襲来に震え、大切な人と肩を寄せ合い、『心配ない。大丈夫だから』と嘘をつくのだ」
脳みそ兵士が一歩前に出ると、黄金猿が一歩後退る。鱗たちは恐れているように見えた。自分たちを守る黄金を砕いてしまう剣に。得体の知れない不気味な兵士に。
「そんなものか鱗たちよ! 世界を混沌に突き落とし、我々の全てを奪ったお前たちが、私のようなたった一人のはぐれ兵士を恐れているのか!」
脳みそ兵士が剣を握り直す。
戦況はさらに一転した。彼の言葉通り、たった一人の兵士によってまたしても黄金軍は窮地に陥ってしまったのだ。
「来なければこちらから!」
脳みそ兵士が駆け出す。瓦礫がガラガラと崩れる音が聞こえた。
黄金ワニと戦う兵士たちも呼応する。
鉛色の空の下。
かつての大都市オルストンで、後々語り継がれる大事件が始まったのだ。
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