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第七章 パピー一族
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現れたのは、藁で作られた小さな人形であった。
パピーの姿であるヒカルよりもさらに小さく、子どもがクレヨンで描いたような顔が、ある意味不気味な表情をしていた。
「リリーよ。仕事だ」
ウインの左腕に巻かれたアクセサリー。これもまた、技術者が作った物なのだろうか。パッチと同じ、召喚士ウインによって呼び出された藁人形は、どのような意味があるというのか。
ヒカルがじっと見つめていると、なんとその藁人形は動き始めたではないか。
「久しぶりじゃいか! 看守殿!」
まるで老人のようにしゃがれた声だ。
「今回はどうする? 報酬はいくらだ?」
「三年」
「仕事は?」
「そこのパピーの代わりにこの牢屋に入ってろ」
「はあ? それで三年だあ? ちっと欲張りすぎやしねえか、看守殿よ。なんで俺様がパピーなんかになって、湿気くさい牢屋で留守番をしなくちゃいけねえのさ! 一〇年だってお釣りがくるぜ」
リリーと呼ばれた藁人形は、その小さな体でおおいに苦言を表現した。
「うるさい。黙って言うことを聞けよ」
パッチの時と同じく、ウインのイライラが見てわかった。物に込められた魂は、皆こうも口が悪いのか。それに……。
「看守殿よぉ。せめて七年にしてくれよ」
――看守殿。
確か、パッチも同じ呼び方をしていた気がする。
「六年だ」
「チッ――いつもケチケチしやがって。良いだろう。それで俺様はどれくらいここにいたら良いんだ?」
「未定だ。僕たちが戻るまで」
「はあ? 無期限だと? ならばこうしようぜ。月が一度昇る度に一年追加。どうだ?」
「……勝手にしろ」
決まりだ!
そう言うと、リリーはヒカルの方を向いた。
「あんまり見るなよ。見せ物じゃねえぞ!」
藁人形リリーがヒカルに暴言を吐く。呆気にとられたヒカルだが、とられているまさに一瞬――目の前の藁人形はいつの間にかパピーの姿になっていた。
「よし。じゃあ早速行こうか」
ウインは天井に頭をぶつけぬよう用心しながら格子の前までやってくると、鍵を開ける訳でもなく、器用に格子ごと持ち上げてみせた。
「え?」
「ヒカル。さあ早く」
ヒカルはウインが外してくれた格子の隙間からそそくさと外に出た。代わりにパピーの姿に変わったリリーが中に入る。
「約束だぞ、看守殿。一夜で一年。二夜で二年。一〇夜で一〇年の追加だ」
「良いだろう」
「へへ。まあのんびりして来るんだな」
格子の中に入ったリリーは、さっそく仰向けになってくつろぎはじめた。
「まずはエバーに会いに行こう。君の姿を変えた張本人だし、王族だ。もしかしたらすぐに答えが分かるかもね」
ウインに頭を撫でられる。
やっぱり人間の方が良い、とヒカルは心の中で呟いた。
〇
「これで良いの?」
「うん」
鞄の中から取り出した黄金の懐中時計を、ヒカルはウインから受け取った。
パピーの姿に変えら、牢屋に連れていかれた時に、ウインが持ってきてくれたのだ。
本当に気が利く。
時を止める黄金の懐中時計。洞窟の中で、組み立てることが出来たから、これは大いに役に立つ。とりあえずこれさえあれば、ある程度の危機は脱出できるだろう。
牢屋のある建物から出ると、外はすっかり夜になっていた。
これで一年追加だ。
「これから君の姿を消すよ。と言っても僕とカリンダには見える様にするけどね」
「透明になるってこと?」
「そういうこと」
ニヤリ、と笑って見せたウインは、両手を合わせて呪文のような言葉を呟き始めた。
淡い光が掌から溢れ始める。そして、その光った掌をヒカルの額にピタリと当てる。
「よし。もう大丈夫」
「何も変わった感じはしないけど」
「君はもう透明人間さ。いや、透明パピーだね」
意地の悪い笑顔のウインに少し腹が立ったが立ったが、魔法は便利だ。
「さて、エバーはどこにいるのか」
パピー一族の町は、れっきとした文明を持っていた。
丸みがかったレンガ造りの建物からからは、暖かい光りが漏れている。舗装された道路もあるし、脇には街灯もある。
人間から見れば、どれも少しだけミニチュアサイズだけれども、まるでカンパニュラのような形をした色とりどりの屋根は、パピー建築の特徴で、身分や家柄で屋根の色が決まっているのだとか。
緑は平民。赤は商人。そして黄色は王族と。そんな大小の建物が並ぶ景色の中に、一つの大きな建物が見えた。
王族を表す黄色のカンパニュラの屋根。
強固の黒門を開けると、草原の上にサーと風が吹いていった。
ヒカルは、初めてこのセカイに来たときのことを思い出した。リオンと出会った草原だ。あの時はまだ陽が出ていて、雲の少ない青空に、黄金竜の影を見つけたのだった。
「ごめんくださーい」
ウインが扉をノックすると、中からバタバタと足音が聞こえてきた。
「こんな夜中に何者だ?」
「私はウインと申します。エバー様に助けられた身の者。まだちゃんとしたご挨拶と御礼をしていなかったため、お尋ね申し上げました」
「エバーだと?」
「ええ……。こちらにお住まいではないのですか?」
いきなりガチャリ、と扉が開いた。
左目に包帯を巻いたパピーが一人。ブラウンに混じる白い毛並みは、年寄りを想起させるものだった。
彼はウインとカリンダを爪先から頭のてっぺんまでじろじろと見たけれど、ヒカルのことは見ていない。
良かった。やっぱり透明になれているのだ。
「エバーなどこの家にはおらぬ! きっとそこいらで犬死にでもなっているのだろう!」
捲し立てられた剣幕の怒号の後、バタン、と力強く扉がしまった。
突然のことに、ウインとカリンダが目を合わせる。
その後、黄色いカンパニュラの屋根の邸宅を三軒回ったが、対応は全部同じだった。
魔の鳥籠の中腹。
草原の広がるこの地を、果たしてヒカルは無事に人間に戻れて脱出出来るのだろうか。
パピーの姿であるヒカルよりもさらに小さく、子どもがクレヨンで描いたような顔が、ある意味不気味な表情をしていた。
「リリーよ。仕事だ」
ウインの左腕に巻かれたアクセサリー。これもまた、技術者が作った物なのだろうか。パッチと同じ、召喚士ウインによって呼び出された藁人形は、どのような意味があるというのか。
ヒカルがじっと見つめていると、なんとその藁人形は動き始めたではないか。
「久しぶりじゃいか! 看守殿!」
まるで老人のようにしゃがれた声だ。
「今回はどうする? 報酬はいくらだ?」
「三年」
「仕事は?」
「そこのパピーの代わりにこの牢屋に入ってろ」
「はあ? それで三年だあ? ちっと欲張りすぎやしねえか、看守殿よ。なんで俺様がパピーなんかになって、湿気くさい牢屋で留守番をしなくちゃいけねえのさ! 一〇年だってお釣りがくるぜ」
リリーと呼ばれた藁人形は、その小さな体でおおいに苦言を表現した。
「うるさい。黙って言うことを聞けよ」
パッチの時と同じく、ウインのイライラが見てわかった。物に込められた魂は、皆こうも口が悪いのか。それに……。
「看守殿よぉ。せめて七年にしてくれよ」
――看守殿。
確か、パッチも同じ呼び方をしていた気がする。
「六年だ」
「チッ――いつもケチケチしやがって。良いだろう。それで俺様はどれくらいここにいたら良いんだ?」
「未定だ。僕たちが戻るまで」
「はあ? 無期限だと? ならばこうしようぜ。月が一度昇る度に一年追加。どうだ?」
「……勝手にしろ」
決まりだ!
そう言うと、リリーはヒカルの方を向いた。
「あんまり見るなよ。見せ物じゃねえぞ!」
藁人形リリーがヒカルに暴言を吐く。呆気にとられたヒカルだが、とられているまさに一瞬――目の前の藁人形はいつの間にかパピーの姿になっていた。
「よし。じゃあ早速行こうか」
ウインは天井に頭をぶつけぬよう用心しながら格子の前までやってくると、鍵を開ける訳でもなく、器用に格子ごと持ち上げてみせた。
「え?」
「ヒカル。さあ早く」
ヒカルはウインが外してくれた格子の隙間からそそくさと外に出た。代わりにパピーの姿に変わったリリーが中に入る。
「約束だぞ、看守殿。一夜で一年。二夜で二年。一〇夜で一〇年の追加だ」
「良いだろう」
「へへ。まあのんびりして来るんだな」
格子の中に入ったリリーは、さっそく仰向けになってくつろぎはじめた。
「まずはエバーに会いに行こう。君の姿を変えた張本人だし、王族だ。もしかしたらすぐに答えが分かるかもね」
ウインに頭を撫でられる。
やっぱり人間の方が良い、とヒカルは心の中で呟いた。
〇
「これで良いの?」
「うん」
鞄の中から取り出した黄金の懐中時計を、ヒカルはウインから受け取った。
パピーの姿に変えら、牢屋に連れていかれた時に、ウインが持ってきてくれたのだ。
本当に気が利く。
時を止める黄金の懐中時計。洞窟の中で、組み立てることが出来たから、これは大いに役に立つ。とりあえずこれさえあれば、ある程度の危機は脱出できるだろう。
牢屋のある建物から出ると、外はすっかり夜になっていた。
これで一年追加だ。
「これから君の姿を消すよ。と言っても僕とカリンダには見える様にするけどね」
「透明になるってこと?」
「そういうこと」
ニヤリ、と笑って見せたウインは、両手を合わせて呪文のような言葉を呟き始めた。
淡い光が掌から溢れ始める。そして、その光った掌をヒカルの額にピタリと当てる。
「よし。もう大丈夫」
「何も変わった感じはしないけど」
「君はもう透明人間さ。いや、透明パピーだね」
意地の悪い笑顔のウインに少し腹が立ったが立ったが、魔法は便利だ。
「さて、エバーはどこにいるのか」
パピー一族の町は、れっきとした文明を持っていた。
丸みがかったレンガ造りの建物からからは、暖かい光りが漏れている。舗装された道路もあるし、脇には街灯もある。
人間から見れば、どれも少しだけミニチュアサイズだけれども、まるでカンパニュラのような形をした色とりどりの屋根は、パピー建築の特徴で、身分や家柄で屋根の色が決まっているのだとか。
緑は平民。赤は商人。そして黄色は王族と。そんな大小の建物が並ぶ景色の中に、一つの大きな建物が見えた。
王族を表す黄色のカンパニュラの屋根。
強固の黒門を開けると、草原の上にサーと風が吹いていった。
ヒカルは、初めてこのセカイに来たときのことを思い出した。リオンと出会った草原だ。あの時はまだ陽が出ていて、雲の少ない青空に、黄金竜の影を見つけたのだった。
「ごめんくださーい」
ウインが扉をノックすると、中からバタバタと足音が聞こえてきた。
「こんな夜中に何者だ?」
「私はウインと申します。エバー様に助けられた身の者。まだちゃんとしたご挨拶と御礼をしていなかったため、お尋ね申し上げました」
「エバーだと?」
「ええ……。こちらにお住まいではないのですか?」
いきなりガチャリ、と扉が開いた。
左目に包帯を巻いたパピーが一人。ブラウンに混じる白い毛並みは、年寄りを想起させるものだった。
彼はウインとカリンダを爪先から頭のてっぺんまでじろじろと見たけれど、ヒカルのことは見ていない。
良かった。やっぱり透明になれているのだ。
「エバーなどこの家にはおらぬ! きっとそこいらで犬死にでもなっているのだろう!」
捲し立てられた剣幕の怒号の後、バタン、と力強く扉がしまった。
突然のことに、ウインとカリンダが目を合わせる。
その後、黄色いカンパニュラの屋根の邸宅を三軒回ったが、対応は全部同じだった。
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