黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第八章 サボテン岩の戦い

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 サボテン岩の影から顔を出たヒカルは、パッチの姿を見て素直に驚き、そして嬉しさもあった。

 でも――。

「なんだあれは!?」

 衝突するパピーとボルボル。争う「ちびっ子」たちに紛れた、鱗よりも大きな岩の巨人。
 パッチは、果敢にもその巨人と戦っているのだ。

 人間であるウインの姿もすぐに見つけたけれど、自分は今もパピーの姿のまま。のこのこと戦場に飛び込んでは、格好の餌食だ。

「さてと……」

 カチ――。

 時が止まった。ヒカルはそそくさとウインのところまで走っていくと、彼を元いた岩影まで引っ張っていく。

「ふぅ。やっぱり、時間を止めるのは不便だ……」

 今はパピーである自分にとっては、えらく骨の折れる作業なのだ。
 動く度に、ジャラジャラと鳴る音も鬱陶しかった。

――カチ。

「ウイン?」
「あ、あれ?」
「ウイン。ひとつ頼まれてくれない?」
「き、君は、どうしてここに? というかいつの間に? あれれ?」

 ヒカルにとってはすっかり見慣れた反応だけど、当の本人にしては何が起こったのかわからない超現象だ。事実、ウインの時間では何も起こっていないのだから。

「争いを止めたい。少しだけで良いから、皆の注目を俺に集めてほしいんだ」
「止めに? どうやって……。そう言えばカリンダは!? どうして君だけがここに?」
「カリンダなら……あれ?」

 きっと後ろからついてきているとばかり思っていたけど、彼女の姿はまだ無かった。

「はぐれたのかな?」
「はあ?」

 ウインは「何やってるんだ」と、大きくため息をついてみせた。

 ドン! と大きな地響きがした。どうやら巨人が地面を殴ってしまったらしい。

「それで、中で何があったの? エバーはいた?」
「うん。話をしたよ。それと女の子とも」
「女の子?」
「ボルボルの女の子。ザラって言うんだ」

 ヒカルはこの争いのことを簡単に説明してやった。ボルボルが侵略を受けたこと。パピー一族がここに逃げてきた理由。そして、ザラの言った争いの終わらせ方も。

「幸い。俺は今パピーの姿だから」
「君が謝るの?」

 途中から真剣に聞いてくれていたウインも、ヒカルの提案に驚いた。
 君なんかが?
 またバカなことを考えたね、と。

「本気なの?」
「本気だよ」

 ウインの視線をしっかりと受け止め、ヒカルは頷いた。
 そこに、カリンダが遅れてやってくる。

「遅かったね。迷ったの?」
「はぁはぁ……。火が消えてて、真っ暗だったから」

 息を整えないまま、カリンダは言い訳をつく。それがきっかけだったのか、ウインが再び「はぁ」とため息をつくと、戦場に向き直った。

 「でも、確かにその少女の言うことは間違いではないね」

 ウインが両手を突き出して呪文を唱えると、冷たい風が吹いた。

 その風に打たれたヒカルの腕毛が、パキパキと凍っていく。

「凍えろ。境界線よ」

 次の瞬間――パピーとボルボル、パッチとディアンブロスの間に、分厚くも巨大な氷壁が現れたではないか。

 ウインが作り出した氷壁は、正確に言うと、ボルボルと巨人ディアンブロスを閉じ込めるようにして築かれたのであった。

 困惑する兵士たち。ディアンブロスの攻撃にも、氷壁はびくともしなかった。

「すごい……」
「鉄壁の氷さ。でも、そんなに長くは持たないよ」
「分かった」
「何が分かった、だ! せっかくもう少しであのノッポをぶちのめせるところだったのに!」

 勢い良くつっかかってきたのは、とパッチであった。

「パッチ! 良いところにきた!」
「ああ? 誰だお前?」

 パッチと目が合う。
 そっか、今はパピーの姿なんだった。

「俺だよ。ヒカルだよ」
「新入り? あ! もしかしてお前、パピーに手を出したのか!?」

 何やってんだよ、と、パッチに背中を叩かれる。

「傷はもう良いの?」
「当たり前よ。俺様を誰だと思ってるんだ」
「じゃあパッチにもお願いをして良い? 皆の注目を俺に集めて欲しいんだけど」
「ああ? 新入りが俺様に指図できると思ってるのかよ」
「なら、カリンダかウインから頼んでくれよ」

 ウインの方を見ると、露骨に嫌な顔をしてみせた。痛いところをつかれた、とパッチも嫌な顔をしている。
 カリンダはというと、まだ息が整わないのか、膝に手をついて頭を垂れていた。

「パッチ……皆をヒカルに引き付けろ」
「ちっ、本気かよ」

 けっ、と、悪態をついて、パッチは拳を握りしめる。拳はメラメラと炎を纏い、そして、地面に勢い良く突き立てた。

 ドオオオオン!!

 先ほどのディアンブロスの攻撃と同じか、それ以上の大きな衝撃が地面を伝う。
 まるで八つ当たりだ。
 氷壁を挟んで弓と野次を飛ばし合っていた兵士たちも、今の衝撃で一気に静まりかえる。

「おい! 俺の後輩がお前らに話があるって言うから、背筋伸ばしてちゃんと聞けや!」

 皆がこちらを向く。パッチ軍の将軍ボルノも。ボルボルの巨人のディアンブロスでさえも。

「ありがとう、パッチ」

 ヒカルはパッチの前に出ると、兵士たちを一通り見渡した。

「ボルボルの代表者はどなたですか!? 話があります」

 ヒカルの問いかけに、しばらくして一人のボルボルが名乗りをあげた。

「我こそ、ボルボル兵士大隊長ドンである!」

 くすみがかったオレンジ色の肌をしたドンは、他のボルボル兵たちを押し退けて氷壁の際まで来ると、ヒカルも彼の方へ向かった。

 誰だあいつは、と、必然的にパピー兵たちがざわつきはじめたが、お構い無し。
 ウインの作った氷壁を挟んで、ヒカルはボルボル代表者のドンと向かい合う。

「話とはなんだ? 名も無きパピーよ。これで我々を捕らえたつもりか? 言っておくが、降伏など決してしないぞ」

 ドシン、ドシン、と、ディアンブロスが氷壁を叩く音が聞こえた。
 降伏、という言葉に、パピー兵士たちのヤジがさらに大きくなった。

「俺の名前はヒカル。大槻ヒカル……です。別に降伏して欲しい訳じゃない。ただ、この争いを止めに来ました」

――すべて聞きました。この争いの原因を。昔、パピーがボルボルたちに何をしたのかも。



 サボテン岩から降りてきたボルボルの少女とエバーが目にしたもの。

 それは、ボルボル兵士たちに向かって深く頭をさげる、一人の奴隷パピーの姿であった。

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