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第八章 サボテン岩の戦い
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通り過ぎる車の音――。
聞きなれた横断歩道の音――。
蝉の鳴き声に、近所の犬の鳴き声――。
その男には大切な役目があった。彼にしか出来ないこと。そして、今から会うある人に、重大すぎる重荷を背負わせねばならぬ宿命があったこと。
名乗ることは許されない。名乗ったところで、決して信じては貰えないだろうけれど。
原付バイクの音が聞こえてきた。
エンジンを切り、ヘルメットを取った青年は、不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。
「えっと……ご用件は?」
青年の声を聞いて、男は思わず涙を流しそうになった。今から目の前の青年に託す宿命に同情してなのか、自分自身の運命に悲観してなのか。
「これを、この場所まで届けて欲しい。そのバイクに乗って」
男は指定の場所が掛かれた紙を青年に渡すと、またも不思議そうな表情をして、青年はさっさと行ってしまった。
男は立ち尽くしたまま、青空を見上げた。
空には、あの黄金竜ではなく、飛行機がひとつ見えるだけであった。
◯
夢から覚めると、カリンダとウインが駆け寄ってくるところであった。
「あ!」
ウインとカリンダが同時に声をあげる。
ヒカルは自分の手のひらを見た。彼もまた、異変に気がついたのだ。
「元に戻った……?」
青い光に包まれた後、ヒカルはパピーの姿から人間の姿に戻れたのだ。
「どうして?」
エバーを見下ろすと、彼は竜の金象を見た。
「まさか……呪いさえも?」
傷を癒してくれる謎の赤い宝石。この能力は、パピーの呪いを解いてしまったというのだろうか。
「良かった……」
カリンダが安心したように腰を抜かした。ずっと強張った顔をしていたウインも、これには緊張を解かれたようで、いつものようにニコリ、と優しく微笑む。
渦中のヒカルはというと、少しだけ柔らかくなった雰囲気の中で、人間の感触を確かめつつも、手にした黄金の懐中時計を見つめていた。
「どうしたんだ? もっと喜ぶかと思ったが……」
エバーがヒカルのズボンをぐい、と引っ張る。
「いや、なんだか、その……」
さっき見た幻影まぼろしも気にかかる。あれは、元の世界で実際に自分の見に起きたことなのだから。
――この場所まで届けて欲しい。そのバイクに乗って。
このセカイに来るきっかけと言っても良いくらいの出来事。客観的に見えたその光景は、いったい何を意味するのか。
「それ何? 綺麗だね」
ずっと持っていた懐中時計を指差して、カリンダが訊ねてきた。
「え、これは……」
ウインも懐中時計を覗きこむ。
「もう一つ窪みがあるね」
ウインの指差した先――文字盤には、「時を止める」赤い装飾と、新たに青い装飾が並んでいた。
そして、赤と青の装飾の隣には、もう一つの窪みもあった。
「さっきの青い光のせいかな? 元々は赤色の装飾だけだったんだけど……」
突然、エバーが「あ!」と声を出した。
「時を刻む金色こんじきの――光纏いし勇者あり。その者、竜を従えへ、セカイを蹂躙すべし」
エバーは竜の金象を見つめながら、そう呟いた。
「なんだいそれは?」
「昔、何かで読んだことがある。金色の光を纏った時計と呼ばれる時を刻む物が、巨大な竜に乗って、セカイを自由に飛び廻る話を……」
ヒカルは懐中時計を見た。
これは黄金竜と何か繋がりがあるのだろうか。
さっきの光に包まれてから、現れた青色の装飾。そして、残されたもう一つの窪み。
「ねえ……赤い宝石って、他にもどこかにあるの?」
その問いかけに答えたのは、カリンダ一人だけであった。
「私、見たことがある。竜の里――セイリンで」
◯
大都市オルストン。先の襲来によって、瓦礫の大国と化したその土地で、黄金竜は鱗に囲まれながら、翼をたたんで眠っていた。
しかし、何か呼ばれたかのようにして、突然その黄金の翼を広げる。
月光に照らされる金色こんじきの大翼。
竜が目覚めた時刻――それは、魔の鳥籠の中腹で、ヒカルが青い光に包まれたその時であった。
(第九章へつづく――)
聞きなれた横断歩道の音――。
蝉の鳴き声に、近所の犬の鳴き声――。
その男には大切な役目があった。彼にしか出来ないこと。そして、今から会うある人に、重大すぎる重荷を背負わせねばならぬ宿命があったこと。
名乗ることは許されない。名乗ったところで、決して信じては貰えないだろうけれど。
原付バイクの音が聞こえてきた。
エンジンを切り、ヘルメットを取った青年は、不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。
「えっと……ご用件は?」
青年の声を聞いて、男は思わず涙を流しそうになった。今から目の前の青年に託す宿命に同情してなのか、自分自身の運命に悲観してなのか。
「これを、この場所まで届けて欲しい。そのバイクに乗って」
男は指定の場所が掛かれた紙を青年に渡すと、またも不思議そうな表情をして、青年はさっさと行ってしまった。
男は立ち尽くしたまま、青空を見上げた。
空には、あの黄金竜ではなく、飛行機がひとつ見えるだけであった。
◯
夢から覚めると、カリンダとウインが駆け寄ってくるところであった。
「あ!」
ウインとカリンダが同時に声をあげる。
ヒカルは自分の手のひらを見た。彼もまた、異変に気がついたのだ。
「元に戻った……?」
青い光に包まれた後、ヒカルはパピーの姿から人間の姿に戻れたのだ。
「どうして?」
エバーを見下ろすと、彼は竜の金象を見た。
「まさか……呪いさえも?」
傷を癒してくれる謎の赤い宝石。この能力は、パピーの呪いを解いてしまったというのだろうか。
「良かった……」
カリンダが安心したように腰を抜かした。ずっと強張った顔をしていたウインも、これには緊張を解かれたようで、いつものようにニコリ、と優しく微笑む。
渦中のヒカルはというと、少しだけ柔らかくなった雰囲気の中で、人間の感触を確かめつつも、手にした黄金の懐中時計を見つめていた。
「どうしたんだ? もっと喜ぶかと思ったが……」
エバーがヒカルのズボンをぐい、と引っ張る。
「いや、なんだか、その……」
さっき見た幻影まぼろしも気にかかる。あれは、元の世界で実際に自分の見に起きたことなのだから。
――この場所まで届けて欲しい。そのバイクに乗って。
このセカイに来るきっかけと言っても良いくらいの出来事。客観的に見えたその光景は、いったい何を意味するのか。
「それ何? 綺麗だね」
ずっと持っていた懐中時計を指差して、カリンダが訊ねてきた。
「え、これは……」
ウインも懐中時計を覗きこむ。
「もう一つ窪みがあるね」
ウインの指差した先――文字盤には、「時を止める」赤い装飾と、新たに青い装飾が並んでいた。
そして、赤と青の装飾の隣には、もう一つの窪みもあった。
「さっきの青い光のせいかな? 元々は赤色の装飾だけだったんだけど……」
突然、エバーが「あ!」と声を出した。
「時を刻む金色こんじきの――光纏いし勇者あり。その者、竜を従えへ、セカイを蹂躙すべし」
エバーは竜の金象を見つめながら、そう呟いた。
「なんだいそれは?」
「昔、何かで読んだことがある。金色の光を纏った時計と呼ばれる時を刻む物が、巨大な竜に乗って、セカイを自由に飛び廻る話を……」
ヒカルは懐中時計を見た。
これは黄金竜と何か繋がりがあるのだろうか。
さっきの光に包まれてから、現れた青色の装飾。そして、残されたもう一つの窪み。
「ねえ……赤い宝石って、他にもどこかにあるの?」
その問いかけに答えたのは、カリンダ一人だけであった。
「私、見たことがある。竜の里――セイリンで」
◯
大都市オルストン。先の襲来によって、瓦礫の大国と化したその土地で、黄金竜は鱗に囲まれながら、翼をたたんで眠っていた。
しかし、何か呼ばれたかのようにして、突然その黄金の翼を広げる。
月光に照らされる金色こんじきの大翼。
竜が目覚めた時刻――それは、魔の鳥籠の中腹で、ヒカルが青い光に包まれたその時であった。
(第九章へつづく――)
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