黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第十章 黄金竜の正体

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 竜を見たことはありますか?

 その言葉の意味を理解するのに、ノゾムと河井はもちろん、ヒカルも時間がかかった。
 目の前でニコニコ笑う渡邉老人と、凛とした表情の柊ティアナ。この二人によって、ヒカルはまだ親しみのあるこの世界が、急に侵されていく思いがした。

 懐中時計の設計図。AllStone協会。そして渡邉老人の言う「竜」。問と答が反対になった逆説だ。ヒカルだけが答えを先に知っている。これは、黄金竜のいるセカイに通じる問題なのだと。

「竜などいやしませんよ。やはり貴方たちは――」

 ノゾムが立ち上がろうとしたその時――机の上にある花柄の砂糖入れが、カタリとひとりでに動いた。

「ならば、魔法は信じますか?」

 渡邉老人ではなく、女性の綺麗なソプラノ声が聞こえた。ティアナは口を動かしていない。まるで砂糖入れがしゃべったかのように。

「魔法――科学でも理解できない現象を目にされたことは?」

 また砂糖入れが喋りだす。声は明らかにこの砂糖入れから聞こえてくる。カタカタと音をたてながら。

「て、手品か何かですか?」

 隣に座る河井が弱々しく訪ねた。しかし、ノゾムはなぜか昨晩の展示工房のことを思い出していた。突然開いた引き出しのことを。

「手品ではございません。正真正銘の魔法でございます」

 どうぞお調べください、と、渡邉老人が答え、それをきっかけに砂糖入れは音を立てることを止めた。

「我々AllStone協会は、今の戦争の時代を、平和な時代へと導きたいのです。魔法、そして竜をつかって」

 河井が動かなくなった砂糖入れを手にとって調べている間、ノゾムはティアナを見つめていた。

「今のは君がしてみせたの?」

 ティアナは「はい」とだけ答えた。さきほど聞こえた砂糖入れと同じ声だ。

「社長! 信じるのですか!?」
「いや、しかし……」
「手品ですよ! きっと何かタネがあるはずです」

 血眼になって秘密を暴こうとする河井を尻目に、ノゾムは再び渡邉老人に目を向けた。

「今の魔法はほんのご挨拶にすぎません」
「魔法と竜と……いったい戦争とどんな関係が?」

 社長!
 河井が大きな声をあげる。目を覚ましてくれ。惑わされないで、と。

 しかし、渡邉老人は余裕の笑みのまま立ち上がった。

「それではご覧にいれましょう」

 とうぞこちらへ。
 渡邉老人が向かったのは、ノゾムたちが入ってきた玄関扉であった。郊外の一区画に、住宅に埋もれるようにして立つ協会だ。玄関口を開けると、閑静な住宅地が見えるはず。

 だが、渡邉老人が扉の横にあるひねりをつまんでからドアノブを回すと、外は奥深くまで伸びる岩肌の洞窟であった。

「これからは秘密の場所。お二人をご案内します。竜の眠る竜の棲み家へ」



「とある山をくりぬいた洞窟でして」

 洞窟の中は革靴には答える砂利道だ。
 前を歩く渡邉老人は、ランタンでノゾムたちの足元を照らしながらゆっくりと進んだ。

「まもなくです」

 そうして狭い道を抜けると、そこは大きな広間に通じていた。
 ヘルメットを被った何十人もの従業員たちが行き交うそこは、まるで特大の格納庫だ。

 ヒカルは思い出した。かつてウインたちと潜り込み、「マフラー」さんが裏切った魔の鳥籠の中を。パッチが照らしてくれた暗闇の広間には、四方八方に赤いランプが灯らせている。

 だからこそ、その存在にすぐに気がついた。広間に鎮座する巨影の正体に。ここの人たちが何を造っているのかを。

 ノゾムと河井は息を飲んだ。

 ひとりでに動く砂糖入れ。洞窟へと通じていた玄関扉。それらが霞んでしまうほど、目の前のそれは衝撃的なものだったのだ。

 台に登って火花を散らす従業員たち。天井から垂れる一対の巨大な黄金の翼つばさ。開かれた口からは、大砲よりもおおきな発射口が見える。

「あちらが人々を平和なセカイへ導く希望の方舟――黄金の竜でございます!」

 渡邉老人が声をあげる。従業員たちの何人かがこちらに振り向いたけれど、またすぐに作業にとりかかった。

 その巨大で偉大な姿に、あのセカイでかつては崇拝されていた黄金竜。
 しかし、竜は突然牙を剥いた。セカイは荒れ、主流である討伐派と残った信仰派との戦争も起きた。黄金のいるセカイのどこかでは、毎朝泣き声が聞こえ、毎晩声が消されていく。

 ――そんな……。

 渦中にいた黄金竜が、今目の前にいる。オルストン襲撃以来。その時は闇夜に紛れて気がつかなかった。

 シュルシュルシュル……。
 黄金の懐中時計が青く輝きはじめ、ヒカルを包み込んでいく。

――黄金竜は機械ロボットだったのか!

 時間が飛ぶ。
 そして、ヒカルは目映い光に飲み込まれいった。


(第十一章へつづく――)
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