黄金竜のいるセカイ

にぎた

文字の大きさ
80 / 94
第十二章 決戦

しおりを挟む
――カチ。

 バルとウタは驚いた。
 一瞬のうちに、瓦礫の山の一部分が吹き飛んでいたから? 違う。ついさっきまで瓦礫の隙間から見ていたヒカルが、消えたかと思うとすぐ目の前に立っていたからだ。

「久しぶりだね。バル」

 無事で良かった。

 驚きのせいで、安堵が徐々にやってきた。やっと会えた。そう思うと、バルの目から自然と涙が溢れていく。少年の心が戻ってきたのだ。塞き止めていた頑丈の扉に閉じ込められていたけれど、鍵は開けられた。

「もしかして、ずっとここにいたの?」
「ううん。いろいろあってまたオルストンに来たんだ」
「俺もだよ……そしてその子は?」

 ヒカルはローブを纏ったウタを指差した。

「こいつはウタ。ノリータのアンデッドだよ」
「アンデッド?」

 ウタはぎこちなく、そして恥ずかしながらペコリと頭をさげた。

 足音――カリンダがやってきた。

「何が起きたの!?」
「旧友との再会……と新しい友達もできたとこ」
「そうじゃなくて……突然居なくなったと思ったら、瓦礫は吹っ飛んでるし、遠くに行っちゃってるし。血も出てるじゃない」

 カリンダは服の袖で、ヒカルの頭の血を拭ってやる。「動かないの」「いてっ!」――。

「プッ!」

 2人を見ていたバルは思わず吹き出す。ウタも続いてクスクスと笑った。

「何だよ?」
「何よ?」

 ヒカルとカリンダは少年たちに目を向ける。


「だって、夫婦みたいに仲良しだから」

 笑い涙を拭いながら、バルはニヤニヤと答えた。とたんにカリンダの顔が赤くなる。

「お似合いですよ」

 ウタの一言がとどめとなったのか、膨らませていた頬が縮み、威勢もおさまり、ちぢこまってしまった。
 赤面のカリンダを見て、ヒカルも少しだけ恥ずかしくなった。

 コホン――と咳払いをひとつ。

「茶化すのはそこまで。いい? ここはすごく危険なところなんだ。だから安全なところまで2人で避難しろ」
「君は?」

 バルが不安な表情で見つめてくる。そんな顔、反則じゃないか。

「大丈夫。俺は今から黄金竜を止める。討伐するでもなく、保護するのでもなく」
「そんなこと、君ができるわけないじゃない」

 今度はカリンダがヒカルの腕を掴んだ。それは私の役目なのよ、と。

「カリンダの覚悟は、賢者から聞いたよ」
「え?」
「信じてくれ。俺なら黄金竜を止められる」

 驚きの色が混じったカリンダの黄色い眼差し。「全部聞いたの?」と力なく彼女は言った。

「うん。おかげですっきりした。試練の前にどうして泣いていたのか。カリンダが他の人たちと必要以上に関わりを持たないわけも」

 母の二の舞を防ぐため。カリンダは心を閉ざしていたのだ。それは刺々しい鍵穴なのだと、ようやく分かった。

「君に何ができるのよ……」
「何でもできるさ。俺は竜に選ばれたからね」

 そうでしょ? と、ヒカルは笑ってみせた。カリンダはもう何も言わなかった。不満と不安の影に隠れてしまったのだ。

「あ!」バルが突然声をあげた。
「どうした? お前らは早く逃げろよ」
「思い出したんだ!」

 バルはヒカルの手をぎゅっと引っ張った。

「君の大切なもの! ここにまだあるはず!」



「雲が広がった」

 セカイは大きく変わろうとしているのだ。竜の里セイリンにて、老師ネムは空を見上げて呟いた。

 その胸に宿す「賢者」は、ヒカルを見送って以来沈黙のまま。賢者は呼ばれても起きない。常に我々が呼ばれる立場なのだ。

 だが、ヒカルの呼び掛けには応えた。

 今まで多くの贄たちの魂を竜に捧げてきた。怒りを納め、平和を望む意思をもった魂たち。竜は器だ。だが、誰もがセカイを救うことはできなかった。愛する者、愛する国を思う邪心が、セカイを霞めてしまう。カリンダの母がそうしたように。竜信仰の総本山であるセイリンもそのひとつだ。おかげで、鱗の襲来は無くなった。綺麗な青空を仰ぐ日々が続いた。しかし、ネムはその心の底に、にわかに畏れを抱いていた。

「どうなるのですか? このセカイは……」

 賢者は応えない。
 ネムは再び空を仰いだ。

 いびつな雲が広がっていく。オルストンの方角から、きっとその中心には竜がいるのだろう。

 竜の里セイリン――永く続いた平穏が足元から崩れていくような、そんな思いがネムの心を蝕んでいった。



 西の砦村グラダでの紛争は、いよいよ激しく乱れ始めていた。

 オルストンへ向かうべく進行する「保護派軍」と、それを阻止するための「討伐軍」。
 保護派軍の方が多勢。討伐派たちは前線から圧され、保護派たちが猛威を奮う。
 かつ、後方からの侵略の報せもあった。ブリーゲル隊長率いる保護派たちの援軍だ。

 腕なしアンデッド軍曹は、門兵の報せに気付いていた。この劣勢の中、挟み撃ちは避けたい。もはや時間との戦いとなっていた。オルストンに向かったリー隊長が、竜を撃つまでの時間稼ぎ。我々は邪魔者たちを塞き止めるダムなのだ。だからこそ、逆流する邪魔者たちを早めに食い止めるため、少数の兵士たちを送った。しかし、聞こえてきたのは大きな破裂音だけであった。

 オニが来た――。目覚めたのだ。

 それは逞しくも巨体の兵器だ。6つの魂を込めた器の兵器。鋼のような滑らかな体。顔の無いオニ。

 それと小さな体の獣も見えた。燃え盛る炎を身に纏い、10倍もある大きさのオニに、果敢に何度も挑んでいた。

 その都度、オニは最小限の素早い動きで払い除ける。

 地面に打ち付けられてはまた立ち上がり。幾ら繰り返そうとも、オニの歩みすら止められなかった。

 オニは腕なし軍曹の前で立ち止まった。

 見上げる軍曹。その体は近くで見ると、光沢をもっていた。叩くとコツンと音がするような。姿だけで圧倒される禍々しさもあった。

 討伐派の希望。
 ダムは強大な堰せきを手にいれたのだ。

「オニよ……よくぞ目覚めた。さぁ! 思う存分あばれ――」

 腕なしアンデッド軍曹が最期に見たのは、オニが拳を振り上げた姿だった。

 希望は時に残酷だ。
 刹那、振り下ろされたオニの拳は、腕なしアンデッドをこなごなに砕いてしまったのだ。

 飛び散る肉片は、日差しを受けて煙となって消える。
 6つの魂を宿したオニは、無惨にも軍曹を守っていたローブを踏み、乱れる渦中へと進んでいく。

 保護派、討伐派の両軍は、その異様な兵器に戸惑いを隠せなかった。

 オニは目覚めた。

 再び眠りにつくのは、生けとし生ける者すべてを破壊した後なのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...