黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第十二章 決戦

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 二度目のオルストンは、無惨にも大都市の面影を無くした瓦礫の山だった。

 バルと一緒に訪れた時とは大違い。ただひとつ同じなのは、そこに黄金竜がいる、ということだ。黄金の虫に捕らわれた時も、燃え盛るオルストンには黄金竜がいた。そして今も――。

 眠っているかのように。
 その言葉は正しかった。黄金竜は瓦礫の山オルストンにて、静かに翼を休めている。

 分厚い雲が日を遮る。

 ヒカルは、この奇妙な閑寂が、何かが起きる前触れのような気がして仕方がなかった。

「どうするつもり?」しかめっ面のカリンダが訪ねる。
「時間がないのよ? わかってる?」
「うん。すぐに終わらせるから」

 時を止め、ヒカルは十二分の時間をかけてオルストンにやってきた。竜の里セイリンからの道中、彼女に追い付いたのだ。

 どうして?
 それが彼女の第一声だった。

 黄金竜の過去を見たヒカルは、カリンダを救いたい一心だった。カリンダは心を竜に差し出す。ヒカルはセイリンでの彼女の涙と嘘の笑顔を思い出した。平和のセカイ。そこに自分の姿はない。銀色の髪をかきあげたカリンダの左腕には、ヒカルから受け取った腕時計が着いている。針が止まっているのは、振り子が転覆していないのか、それともどこかで不具合が起きているのだろうか。

「争いを止めるために、誰かが犠牲になる。そんなことは馬鹿げている」
「なら、どうすればよいのよ?」
「俺なら止められる。黄金竜を」

 カリンダはそれ以上何も言わず、二人は共に歩いた。やがてオルストンに到着し、偉大な黄金竜を目にするまで。

「竜神様……」

 カリンダがぽつりと溢した。とたんに足が遅くなり、彼女の体が震えているのが分かった。

「大丈夫?」

 カリンダは涙目のまま、キッとヒカルを睨み付けた。

 巨大で、偉大な黄金の竜。

 彼女は竜に魂を捧げるのだ。巨体な器である竜に、泉で清めた魂を。このセカイの平和を願う、純粋な魂を。
 なのに、どうして邪魔をするのか。そう避難された気がして、ヒカルもあえて何も言わなかった。

 鎮座する黄金竜に近づくにつれ、ぐるりと囲む鱗たちが見えてきた。猿に蛇に虫。近づく者には容赦しない。そんな意志がひしひしと伝わってくる。それよりもヒカルは、黄金竜が何かを企んでいるのではないか、と気になった。過去で見た、白い光に消滅していく都市――。国を、村を、人々を襲い続けた鱗たちが、今は完全に守りの姿勢なのだ。まさか、このセカイでもあれをしようとしているのでは?

「急ごう」カリンダの顔を見た。
「すぐに終わらせるから」

 ヒカルは懐中時計の「赤色」の装飾を押した。時間が止まる。黄金竜も鱗たちも、カリンダも。幸い、黄金竜は地面に降りている。あれならなんとか内部に侵入できそうだ。

 黄金竜の内部にも懐中時計はある。竜の制御システム――脳ブレインだ。それを壊せば良い。

 だが、ヒカルは知らなかった。黄金竜の持つ懐中時計とヒカルの持つ懐中時計が「共鳴」することを。



 止まった時間の中で、ヒカルは鱗たちの隙間をぬって黄金竜の前にやってきた。

 間近で見る黄金竜は、惚れ惚れしてしまうくらい、美しいものだった。

 豪々しくも滑らかな頭。背中から伸びる両翼は、一枚一枚羽が着いている。

 かつて人々の手によってつくられた機械ロボットなのだ。職人として、時計技師として、細部まで作り込まれたディテールについつい見とれてしまう。黄金の懐中時計を初めて見たときと、同じ気持ちになった。

 口は僅かに空いていた。ヒカルの背ほどある牙も黄金色だ。
 大丈夫。内部の構造――もうひとつの懐中時計の在り処はさっき確認した。魔の鳥籠で見つけた時計の設計図。その破り取られた残りのページを「復元」させたのだ。

 黄金の懐中時計の、「過去」を見る能力によって。

 竜の体内には1つの大きな通路があった。専門的な用語が並ぶなかで、ヒカルはある単語を頭に刻み込んでいた。

 The heart――メインシステム。

 口から入り、長い首を通り抜けた先、ちょうど竜の「心臓」部分にあたるその場所に、竜の意識を司るもう1つの懐中時計がきっとある。

 ヒカルは深呼吸をした。目の前には探し求めていた黄金竜がいる。

 キイィーン――。

 どこかで高い機械音が聞こえた。音が聞こえる? 時間が止まっているのに?

 その音は、竜の胎内から聞こえてきた。目があった。いつの間にか目に赤い光を灯した竜と。

「そんな……時間は止まっているはずなのに!」

 そして、竜はゆっくりと立ち上がる。ヒカルから目を離さずに。

 ヤバイ!

 踵を返し、咄嗟にヒカルは走り出した。竜の音は徐々に大きくなっていく。振り向かない。できるだけ遠く、できるだけ早く距離を取らないと!

 竜の口に光が集まってくる。背中で気配を感じながら、ヒカルは瓦礫の上を走った。

 そして、竜の口から光線が放たれ、走るヒカルのすぐ横に赤い筋が刻まれる。深く、刻まれた跡が沸々と盛り上がる衝撃――爆発。

 衝撃でヒカルは宙を舞った。頭をぶつけ、意識が朦朧とする。なんとか立ち上がると、竜の口から放たれた光線の場所には、何も無くなっていた。

 瓦礫が吹き飛ばされ、ただ光線の跡が深く刻まれただけ。一直線に、地平線まで続くかのような。

 光線を放った竜は、再び腰をおろしていた。竜が遠くなったのは視界がぼやけているからではない。

――まさか、もうひとつの懐中時計の仕業か。

 時を止め、鱗たちの壁をすり抜けようとも、竜の体内にはもう1つの――完成された懐中時計があるのだ。

 黄金竜の目はまだ赤く光っている。ヒカルの持つ懐中時計の時を止める装飾部分と同じように。

 追撃はなかった。ヒカルは時間をたっぷりつかって、意識を整える。頭が痛い。どこか切れているのか、血が伝う感覚があった。

 幸い、カリンダは無事であった。黄金竜の光線にも吹き飛ばされた瓦礫の被害もない。これも竜の加護のおかげなのか。

 さて、どうするか――。
 ヒカルは考えた。

 正面からの衝突は部が悪すぎる。止まった時間の中で、黄金竜が目覚める――時計と共鳴する前に突入はできないか、と。
 たとえば、物凄く速いスピードで。

 周囲をぐるりと見渡したその時であった。
 ヒカルは瓦礫の山の中で、二人の少年を見つけたのだった。
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