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終章 セカイに光あれ
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(私はこの宝玉を持って、竜に挑みました)
止まった時間の中で、カリンダの母はゆっくりと語り始める。
(娘に託しました。竜の里で古くから伝わる穢れなき純白の宝玉。肉体を奪われ、魂になっても守り抜きました。それはきっとあなたが来てくれると、ある方から言付けをいただいたからです。今だからお渡しします。この光を。このセカイを)
やがて、カリンダの母は消えていった。
心臓を取っても浄化は止まらない、なら――。
――カチ。
時間停止解除。
「カリンダ!」
「ヒカル!」
二人が同時に叫ぶ。
「その白い宝玉を!」
「この白い宝玉を!」
そう言って、カリンダは母に託された「白」の宝玉をヒカルに放り投げた。受け取ったヒカルは、不思議そうにカリンダを見つめ返す。
「私にも聞こえた。お母さんの声が!」
きっと、今もすぐそばにいる気がするの。
「だから、はやく!」
「わ、わかった! ありがとう」
ヒカルは、「白」の宝玉をプロトタイプに嵌め込んだ。
母の声は娘にもちゃんと聞こえていた。時間が止まろうと、それは関係なかったのだ。
暖かな、優しい光の洪水。やがて、プロトタイプに集約されていく。
黄金の女王蜂も、その光を見て露骨に狼狽える。
「まさか、貴様ら……!」
ヒカルに飛び掛かる女王蜂を、カリンダが魔法の盾をもって制止する。盾にヒビが入る。圧されている。それまでに女王蜂は必死なのだ。
「ならん! そうすれば竜に眠る何百、何千もの魂も……我々がじっと耐えて夢見てた何百、何千年の時間が」
完成版の懐中時計。それが竜に浄化の指令を出した。竜は命令通りに浄化を始めている。完成版を外したとて止まらない。なら、ヒカルのもつプロトタイプで上書きをしてやる……いや、綺麗さっぱり汚れきった竜そのものを浄化してやる!
「カリンダ! 君のお母さんは逃げたんじゃない! 戦おうとしたんだ!」
俺たちみたいに。
ヒカルは完成版があった場所に、プロトタイプを嵌め込む。
「白」は「浄化」の光――そして、ヒカルはプロトタイプの白く光る装飾を押す。
カチ、と小気味良い音がした。
が、何も起こらない。プロトタイプの「白」の装飾。竜を浄化すべく押したのに、「赤」や「青」のように、時間が止まったり光る気配もない。
「どうして?」
虚をつかれたヒカル。もう一度。しかし、またしてもカチと音がするだけ。
女王蜂を含めた、その場にいた皆が固唾を飲む。なぜだ? なぜ何も起きない。
ヒカルは完成版の懐中時計とプロトタイプを見比べた。
もしかして……。
「ふん! そもそも貴様が持つそれを、竜が受け入れるとでも――」
ガシャン!
女王蜂の言葉を遮るように、ヒカルは背負っていた鞄を地面に置く。
「カリンダ! もう少しだけ、踏ん張ってくれ!」
鞄の中にしまってある工具箱を取り出して、ヒカルは慣れた手つきでプロトタイプの蓋を開ける。
プロトタイプはあくまでも試作品プロトタイプ。竜が受け付けないのであれば、受け付けるように改造すれば――!
「これが俺の役目だ。おれは時計技師なんだ」
止まった時間の中で、カリンダの母はゆっくりと語り始める。
(娘に託しました。竜の里で古くから伝わる穢れなき純白の宝玉。肉体を奪われ、魂になっても守り抜きました。それはきっとあなたが来てくれると、ある方から言付けをいただいたからです。今だからお渡しします。この光を。このセカイを)
やがて、カリンダの母は消えていった。
心臓を取っても浄化は止まらない、なら――。
――カチ。
時間停止解除。
「カリンダ!」
「ヒカル!」
二人が同時に叫ぶ。
「その白い宝玉を!」
「この白い宝玉を!」
そう言って、カリンダは母に託された「白」の宝玉をヒカルに放り投げた。受け取ったヒカルは、不思議そうにカリンダを見つめ返す。
「私にも聞こえた。お母さんの声が!」
きっと、今もすぐそばにいる気がするの。
「だから、はやく!」
「わ、わかった! ありがとう」
ヒカルは、「白」の宝玉をプロトタイプに嵌め込んだ。
母の声は娘にもちゃんと聞こえていた。時間が止まろうと、それは関係なかったのだ。
暖かな、優しい光の洪水。やがて、プロトタイプに集約されていく。
黄金の女王蜂も、その光を見て露骨に狼狽える。
「まさか、貴様ら……!」
ヒカルに飛び掛かる女王蜂を、カリンダが魔法の盾をもって制止する。盾にヒビが入る。圧されている。それまでに女王蜂は必死なのだ。
「ならん! そうすれば竜に眠る何百、何千もの魂も……我々がじっと耐えて夢見てた何百、何千年の時間が」
完成版の懐中時計。それが竜に浄化の指令を出した。竜は命令通りに浄化を始めている。完成版を外したとて止まらない。なら、ヒカルのもつプロトタイプで上書きをしてやる……いや、綺麗さっぱり汚れきった竜そのものを浄化してやる!
「カリンダ! 君のお母さんは逃げたんじゃない! 戦おうとしたんだ!」
俺たちみたいに。
ヒカルは完成版があった場所に、プロトタイプを嵌め込む。
「白」は「浄化」の光――そして、ヒカルはプロトタイプの白く光る装飾を押す。
カチ、と小気味良い音がした。
が、何も起こらない。プロトタイプの「白」の装飾。竜を浄化すべく押したのに、「赤」や「青」のように、時間が止まったり光る気配もない。
「どうして?」
虚をつかれたヒカル。もう一度。しかし、またしてもカチと音がするだけ。
女王蜂を含めた、その場にいた皆が固唾を飲む。なぜだ? なぜ何も起きない。
ヒカルは完成版の懐中時計とプロトタイプを見比べた。
もしかして……。
「ふん! そもそも貴様が持つそれを、竜が受け入れるとでも――」
ガシャン!
女王蜂の言葉を遮るように、ヒカルは背負っていた鞄を地面に置く。
「カリンダ! もう少しだけ、踏ん張ってくれ!」
鞄の中にしまってある工具箱を取り出して、ヒカルは慣れた手つきでプロトタイプの蓋を開ける。
プロトタイプはあくまでも試作品プロトタイプ。竜が受け付けないのであれば、受け付けるように改造すれば――!
「これが俺の役目だ。おれは時計技師なんだ」
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