黄金竜のいるセカイ

にぎた

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終章 セカイに光あれ

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 セカイは光に飲み込まれつつあった。

 真っ白な浄化の光。人を、鳥を、魚を、はたまた木を、土を喰らい、跡形無く消し去ってしまう。

 竜の里セイリンでは、総本山に身を隠すパピーたちが肩を寄せあい、祈るばかり。
 老師ネムとパピーの王エバーは、里を囲むお山様の白く照らされた姿を見ていた。

  このセカイの終わり。真っ白な光の前に脆弱な、静まりかえったセカイ。

 しかし、エバーもパピーたちも、「最後」を受け入れた訳じゃない。皆は信じている。かつて、サボテン岩で火の聖霊ボルボルたちとの争いを、必死になって止めようとした青年を。きっと黄金竜を止め、争いが蔓延したこのセカイを救う英雄なのだと。

 だからこそ手を合わせ、祈る。
 このセカイの希望――救世主に。



 あれから、女王蜂は何度もヒカルに襲いかかろうとした。その都度、カリンダが魔法と唱えて遮る。いくら盾を壊されようとも!

 ヒカル、はやく!
 やがて、女王蜂は狙いを変えた。まずはこの鬱陶しい女を払い除けるのが先だ、と。

 魔法の盾を壊し、カリンダが次の新たな盾を唱えるその隙を女王蜂は冷静に見極めていた。

 針がカリンダの太ももを貫く。

――しまった。

 ガクリと膝をつく。焼けるような痛みのせいで呪文が途絶えてしまった。目の前に迫り来る女王蜂。その姿が不思議と鮮明に見えた。掴みかかろうと、両手の爪が伸びる。万力のような顎をめいいっぱいに広げ、ヨダレが垂れる。

 カリンダはチラとヒカルを見た。
 ひらりひらりと、体が宙を舞うような、それでいて心地の良い暖かな感覚――。

 気がつけば、カリンダはヒカルに抱えられていた。

「ヒカル……?」
「もう終わったよ」

 終わったよ、全部。懐中時計を。争いを。そして、黄金竜も。

 カチ――キイィィン!

 ヒカルの手によって新たに嵌め込まれたプロトタイプの懐中時計から、真っ白な光が溢れ出す。

「そんな……バカな」

 勢い余って倒れこんだ女王蜂。
 白い光は中枢部メインルームに、それから竜の胎内へと広がっていく。

「もう終わったんだ。すべて――」



 瓦礫の山オルストンにて、黄金竜が咆哮する。

 首を一直線にして天を仰ぎ、大きな口を裂けんばかりに開けた。力強くごうごうと、真っ白な一筋の光が放たれる。
 天を覆う、分厚い鉛色の雲に穴が開く。それから、真っ白な光は、瞬く間にセカイへ広がった。


 西の砦村グラダにて、卵から孵った光を、ウインたちは必死になって抑えていた。ピキリ、ピキリ、と幾層にも重ねた巨大な魔法壁にヒビが入っていく。保護派と討伐派の境はなく、皆が壁を押す。だが、光は次から次へと溢れ、ついには圧され始めてしまった。

 新たに壁を作らなければ、しかし呪文を唱える時間ひまなどない。たとえ一人であっても力を抜いた途端、一気に光が流れ込んでくるような。

 ウインの隣では傷だらけのパッチが奮闘している。溢れる血も気にせずに。

 ブリーゲルも同じ。歯を食い縛り、持てる力以上をもって壁を押す。

 そんな緊迫な状況下――ウインはなぜか冷静クールでいられた。背後に感じる気配。何かが来る。卵から孵った残酷な光ではなく、優しさと暖かさを内在した何か。

 それは突然のことだった。

 背後――オルストンの方角からやって来た同じ真っ白な光が、瞬く間にウインたちを包み、そして。

 ゴロン、と壁を失った勢いで皆が前のめりに倒れた。

 消えたのは壁だけじゃない。塞き止めていた浄化の光も消えたのだ。

 やがて、光は去っていった。空を覆う分厚い鉛色の雲と一緒に。静寂のなか、ポツリポツリと兵士たちが立ち上がる。

 そして、そこにいる皆が、空を仰ぐ。

「ヒカル……もしかして君が?」

 見上げたまま、ウインは一筋の涙を落とした。

 久しく見る青空が、彼らの頭上に広がっていたのだ。
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