91 / 94
終章 セカイに光あれ
7
しおりを挟む
セカイは光に飲み込まれつつあった。
真っ白な浄化の光。人を、鳥を、魚を、はたまた木を、土を喰らい、跡形無く消し去ってしまう。
竜の里セイリンでは、総本山に身を隠すパピーたちが肩を寄せあい、祈るばかり。
老師ネムとパピーの王エバーは、里を囲むお山様の白く照らされた姿を見ていた。
このセカイの終わり。真っ白な光の前に脆弱な、静まりかえったセカイ。
しかし、エバーもパピーたちも、「最後」を受け入れた訳じゃない。皆は信じている。かつて、サボテン岩で火の聖霊ボルボルたちとの争いを、必死になって止めようとした青年を。きっと黄金竜を止め、争いが蔓延したこのセカイを救う英雄なのだと。
だからこそ手を合わせ、祈る。
このセカイの希望――救世主に。
◯
あれから、女王蜂は何度もヒカルに襲いかかろうとした。その都度、カリンダが魔法と唱えて遮る。いくら盾を壊されようとも!
ヒカル、はやく!
やがて、女王蜂は狙いを変えた。まずはこの鬱陶しい女を払い除けるのが先だ、と。
魔法の盾を壊し、カリンダが次の新たな盾を唱えるその隙を女王蜂は冷静に見極めていた。
針がカリンダの太ももを貫く。
――しまった。
ガクリと膝をつく。焼けるような痛みのせいで呪文が途絶えてしまった。目の前に迫り来る女王蜂。その姿が不思議と鮮明に見えた。掴みかかろうと、両手の爪が伸びる。万力のような顎をめいいっぱいに広げ、ヨダレが垂れる。
カリンダはチラとヒカルを見た。
ひらりひらりと、体が宙を舞うような、それでいて心地の良い暖かな感覚――。
気がつけば、カリンダはヒカルに抱えられていた。
「ヒカル……?」
「もう終わったよ」
終わったよ、全部。懐中時計を。争いを。そして、黄金竜も。
カチ――キイィィン!
ヒカルの手によって新たに嵌め込まれたプロトタイプの懐中時計から、真っ白な光が溢れ出す。
「そんな……バカな」
勢い余って倒れこんだ女王蜂。
白い光は中枢部メインルームに、それから竜の胎内へと広がっていく。
「もう終わったんだ。すべて――」
◯
瓦礫の山オルストンにて、黄金竜が咆哮する。
首を一直線にして天を仰ぎ、大きな口を裂けんばかりに開けた。力強くごうごうと、真っ白な一筋の光が放たれる。
天を覆う、分厚い鉛色の雲に穴が開く。それから、真っ白な光は、瞬く間にセカイへ広がった。
西の砦村グラダにて、卵から孵った光を、ウインたちは必死になって抑えていた。ピキリ、ピキリ、と幾層にも重ねた巨大な魔法壁にヒビが入っていく。保護派と討伐派の境はなく、皆が壁を押す。だが、光は次から次へと溢れ、ついには圧され始めてしまった。
新たに壁を作らなければ、しかし呪文を唱える時間ひまなどない。たとえ一人であっても力を抜いた途端、一気に光が流れ込んでくるような。
ウインの隣では傷だらけのパッチが奮闘している。溢れる血も気にせずに。
ブリーゲルも同じ。歯を食い縛り、持てる力以上をもって壁を押す。
そんな緊迫な状況下――ウインはなぜか冷静クールでいられた。背後に感じる気配。何かが来る。卵から孵った残酷な光ではなく、優しさと暖かさを内在した何か。
それは突然のことだった。
背後――オルストンの方角からやって来た同じ真っ白な光が、瞬く間にウインたちを包み、そして。
ゴロン、と壁を失った勢いで皆が前のめりに倒れた。
消えたのは壁だけじゃない。塞き止めていた浄化の光も消えたのだ。
やがて、光は去っていった。空を覆う分厚い鉛色の雲と一緒に。静寂のなか、ポツリポツリと兵士たちが立ち上がる。
そして、そこにいる皆が、空を仰ぐ。
「ヒカル……もしかして君が?」
見上げたまま、ウインは一筋の涙を落とした。
久しく見る青空が、彼らの頭上に広がっていたのだ。
真っ白な浄化の光。人を、鳥を、魚を、はたまた木を、土を喰らい、跡形無く消し去ってしまう。
竜の里セイリンでは、総本山に身を隠すパピーたちが肩を寄せあい、祈るばかり。
老師ネムとパピーの王エバーは、里を囲むお山様の白く照らされた姿を見ていた。
このセカイの終わり。真っ白な光の前に脆弱な、静まりかえったセカイ。
しかし、エバーもパピーたちも、「最後」を受け入れた訳じゃない。皆は信じている。かつて、サボテン岩で火の聖霊ボルボルたちとの争いを、必死になって止めようとした青年を。きっと黄金竜を止め、争いが蔓延したこのセカイを救う英雄なのだと。
だからこそ手を合わせ、祈る。
このセカイの希望――救世主に。
◯
あれから、女王蜂は何度もヒカルに襲いかかろうとした。その都度、カリンダが魔法と唱えて遮る。いくら盾を壊されようとも!
ヒカル、はやく!
やがて、女王蜂は狙いを変えた。まずはこの鬱陶しい女を払い除けるのが先だ、と。
魔法の盾を壊し、カリンダが次の新たな盾を唱えるその隙を女王蜂は冷静に見極めていた。
針がカリンダの太ももを貫く。
――しまった。
ガクリと膝をつく。焼けるような痛みのせいで呪文が途絶えてしまった。目の前に迫り来る女王蜂。その姿が不思議と鮮明に見えた。掴みかかろうと、両手の爪が伸びる。万力のような顎をめいいっぱいに広げ、ヨダレが垂れる。
カリンダはチラとヒカルを見た。
ひらりひらりと、体が宙を舞うような、それでいて心地の良い暖かな感覚――。
気がつけば、カリンダはヒカルに抱えられていた。
「ヒカル……?」
「もう終わったよ」
終わったよ、全部。懐中時計を。争いを。そして、黄金竜も。
カチ――キイィィン!
ヒカルの手によって新たに嵌め込まれたプロトタイプの懐中時計から、真っ白な光が溢れ出す。
「そんな……バカな」
勢い余って倒れこんだ女王蜂。
白い光は中枢部メインルームに、それから竜の胎内へと広がっていく。
「もう終わったんだ。すべて――」
◯
瓦礫の山オルストンにて、黄金竜が咆哮する。
首を一直線にして天を仰ぎ、大きな口を裂けんばかりに開けた。力強くごうごうと、真っ白な一筋の光が放たれる。
天を覆う、分厚い鉛色の雲に穴が開く。それから、真っ白な光は、瞬く間にセカイへ広がった。
西の砦村グラダにて、卵から孵った光を、ウインたちは必死になって抑えていた。ピキリ、ピキリ、と幾層にも重ねた巨大な魔法壁にヒビが入っていく。保護派と討伐派の境はなく、皆が壁を押す。だが、光は次から次へと溢れ、ついには圧され始めてしまった。
新たに壁を作らなければ、しかし呪文を唱える時間ひまなどない。たとえ一人であっても力を抜いた途端、一気に光が流れ込んでくるような。
ウインの隣では傷だらけのパッチが奮闘している。溢れる血も気にせずに。
ブリーゲルも同じ。歯を食い縛り、持てる力以上をもって壁を押す。
そんな緊迫な状況下――ウインはなぜか冷静クールでいられた。背後に感じる気配。何かが来る。卵から孵った残酷な光ではなく、優しさと暖かさを内在した何か。
それは突然のことだった。
背後――オルストンの方角からやって来た同じ真っ白な光が、瞬く間にウインたちを包み、そして。
ゴロン、と壁を失った勢いで皆が前のめりに倒れた。
消えたのは壁だけじゃない。塞き止めていた浄化の光も消えたのだ。
やがて、光は去っていった。空を覆う分厚い鉛色の雲と一緒に。静寂のなか、ポツリポツリと兵士たちが立ち上がる。
そして、そこにいる皆が、空を仰ぐ。
「ヒカル……もしかして君が?」
見上げたまま、ウインは一筋の涙を落とした。
久しく見る青空が、彼らの頭上に広がっていたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる