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⑪寒い?温泉旅行

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私は今この龍の体に生まれて初めて無性に恥ずかしい!
何故なら、私の家族イケメン3人
(ノエルは龍の体だから...)と混浴をしているのである。





そもそも何故そうなったかと言うと....
家族と旅行したいと言ったパパの有言実行で
久しぶりに休みを取り、旅行しに赤龍の地に家族で飛んで来たのである。
来たのはいいが、なぜか降りた地を歩いていると現地の人々は
一斉に道を譲るように端に寄って行った。


「黒龍一族だ....真っ黒だから直系だよな...恐ろしい」

「歩く最悪災厄一族だよ...変に関わったら巻き込まれるぞ...」

「目が合ったら殺されるって聞いたぞ....」




何か物騒な言い方しかされないんですけど....。
いったいなんで怯えられているの?
こんなに優しい私の家族を悪く言うなんて....。
確かに、黒のマントを全員着て、雰囲気は暗いけど黒龍だから
黒のマントはシンボルだし、仕方ないんじゃないと思い
嫌になっちゃう~と私を抱えているパパを見ると、
無表情のパパがものすごく恐ろしい顔になってる....。

さらに後ろを見ると兄ラルクも父と同じ冷淡な顔で、
ロイドも人相が悪いチンピラ風になってるし...
急になんでこんなに変わってるの?これが、素顔なの?
周りを見てみると私たちの護衛達も
どこかのマフィアの部下みたいな無表情でついてくるし、
私はマフィアの娘かって感じな雰囲気になってなーい!

ちょっと!外ズラが悪くありません我が家族達は!
これ以上悪いイメージがつかないように
私は精一杯ニコニコと可愛く見えるように現地の人に
愛想を振りまくように笑ってみた。



「あんな恐ろしい雰囲気の連中の中で笑ってるぞ...
 きっと感覚がおかしくなってるんじゃ...」

「あの空気で笑えるなんてまだ何も知らない無垢な子も
 黒龍に毒されたんだろうな... かわいそうに....」



必死で愛想を振りまいて笑っている私の思いとは裏腹に
現地の人たちは私を哀れに思っていた。
そして、わが家族はそんなニコニコしている私を見て


「モナそんなに笑顔でよっぽどうれしかったんだね」とラルク

「モナ、水風呂が気持ちいいぜ 楽しみだな」とロイド

「楽しそうで何よりだ。」とパパ


護衛一同も微笑ましそうに”笑って”いた。

それぞれに、家族全員”笑った”。
私はみんなに違うよと思いながらも、
必死に自分なりに
無邪気に見えるように精一杯周りを見たが...。

ヒイイーこの場にいた現地の人々は薄気味悪い笑顔を
振りまく黒龍の一同に背筋が凍るような思いで息を呑み
黒龍一族が来る前までは賑やかだった町全体が
黒龍一族が見えなくなるまで、静まり返っていた。
何故か身震いもしている人さえいる。

私の精一杯の努力は報われないまま時は過ぎていった。







何とも言えない美形に囲まれての宿泊だが、
何せ男所帯(護衛含む)私の乙女心なんざ一切構わず
全裸(私とノエルは龍の体型だから...)になって温泉へ連れていかれた。

私が子供自身だったら問題ないが中身が30代の私は変に見てしまい
目のやり場が無い程堂々とタオルなどつけずに歩き回る
パパ(イケメン)+兄(美少年)二人の姿に私はいたたまれない思いで
目をつぶり混浴の入り口で座り込んでいた。


「モナどうしたんだい?さっきから元気がないようだが...」とパパ
「暑すぎて苦手なのでしょうか」とラルク
「あっちに水風呂もあるし!こっちにしたら?」とロイド



その後、私とノエルは、桶みたいなものに入れられ
最初は温泉の湯を少し掛けられながらプカプカと
桶の中で湯につかりながら浮いて楽しんだ。


「気持ちいい?モナ」

父とラルクは左右から私を撫でながら聞いてきたので
ボーっとしていた私は目を覚まして見上げると
まさに”水も滴る良い男”がいた....
パパは髪がうっすらと濡れていて大人の色気をまき散らしてるかのように
ラルクは父とそっくりな顔で顔が赤くてあどけない子供の
キレイさが際立った顔でのぞき込まれて
私は口をパクパクさせながら自分の体温が
急上昇しようとしてた....その時に!


冷たい水が雨のように上から降り注いだ。
「パパ ラル兄!モナ!気持ちいだろう?.......バシャーーーン うええ」

そう言ってたら、まるでバンジージャンプするみたいにノエルが上から落ちてきて
ドボーンとロイドがお湯をかぶった。

「ノーエールー!」

ロイドとノエルはバシャバシャと水や温泉をかけながら騒ぎ出した。
そんな二人を見てパパと兄ラルクと私はゆっくり浸かりながら見ていた。


湯上りの冷たい飲み物は本当に美味しいが....
私は微妙に恥ずかしい....なぜなら....。
哺乳瓶で飲んでいるのである。
ノエルはというと器用に瓶の口を咥えながら飲んでいる。
そもそも私が不器用でビンを抱えて飲もうとしたら
自分の顔にぶっかけたのである。
それを見たらどこで調達したのか護衛の一人が哺乳瓶を持ってきたのである。

「あーなんて可愛いんだろう私服の時だ。
 チビチビと私の腕の中で飲む姿は本当に愛おしい。
 うん?」

恥ずかしいセリフを聞きながらも熱くてのどが渇いていた私は
ちょっとしか出ない哺乳瓶を無我夢中で飲んでいたら、
パパが急に私の口元をチュッとキスしてきた。
私はブハーっと哺乳瓶を吐き出してしまい咳き込んでしまった。


「こぼちたから思わずキスしたが、ビックリしたでちゅか?
 おやおや吹き出してしまって大丈夫でちゅか?モナ。」


待て待て、良い年の大人が赤ちゃん言葉を使わないで~
せっかくのイケメンのパパが台無しだよ~。
私は残念な人を見る目でパパを見たが
お構いなしにニコニコと私を見つめた。

「モナまだ飲むでちょ~はいあーん」

私は背筋が寒くなるぐらい気持ちが悪くなった。
完全にテンションが上がってるパパが暴走している。
この地を歩いていた凛々しい姿はどこに行ったんだあ~。


「パパ!変わってよ俺もモナにやる!」

「私もやりたいです。それに口元を吹かないと...。」


そんなやり取りをしている中、周りにいたここの宿の人達は
哺乳瓶でやりたいと言い合う光景を見ながら
問答無用で護衛が哺乳瓶を”お願い”してきた光景を思い出していた。

「我が主の華憐で可愛い最愛なるモナ様が
 大変困ってらっしゃるんだが何かないか!)

厳つい顔と体をした大柄の護衛その1が
宿の責任者に見下ろしながら大声で尋ねた。

「こっ...コップを持ってき....」


「そういえば我が主が、
 以前ラルク様ロイド様に哺乳瓶でやりたかったが
 出来たなかった事を
 大変残念だったと聞いた事があります。
 我が主はきっと哺乳瓶を所望していると思います。」

知的風な顔だちの長身の護衛その2が宿の人の話をさえぎって
淡々と事務的に早口で言った。

「それはいい。今すぐに持って来い!
 何に変えても、嬢様の為に最善を尽くさねばならん。」

「哺乳瓶なんて無......」

「無いなんて言わねーよなあ。
 我が主の長年の思いがかかってるんだ。
 どれだけの重い思いだと思っている!
 浅はかなお前らには考えられない壮絶な苦しみを耐えていらしたんだ。
 溺愛禁止令を止めて初めての旅行にどれだけの思いが詰まってるんと思うんだ。
 哺乳瓶は我が主の夢!ロマン希望切望願望欲望が詰まっている!
 分かるかお前らに!」

分からない.........誰もがそう思っていたが
無い・出来ないなんて言ったら即殺すと殺気を放って見下ろす護衛その1に
誰もが何も言えずに店員と責任者は

「「「っ...かっか..かしこまりました。」」」


恐怖の脅しとも言える無茶なお願いを叶えた事で
ホッとして、ついさっきの出来事を感慨深く思い出していた
従業員達と責任者は「「ふーーーーーっ」」と息をそろえて吐いていた。
その時、真後ろに気配もなく大柄な二人の護衛が揃って立ち、話しかけた。


「お前達も、あの可愛いお嬢様を見て和んでるんだろう?
 まさしく我ら黒龍の至宝で天使のお嬢様だ。
 有難く思えよな。こんな穏やかな主達を見るのも我らも久しぶりだ。」


「同感です。いつもは冷気が漂い張り詰めた空気で我らでさえ
 心臓が苦しくなる重圧を解き放っておられる当主が
 こんなにも和やかな雰囲気は今までに無い故に貴重な場面です。
 あなた方はとても運に恵まれておられる。
 有難く思いなさい。」


ヒーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
その場にいた従業員は現時点で真後ろに立っている
護衛二人の方が恐ろしく感じ、石のように固まっていた。
誰もその場で愚痴を言わなかった事を何よりも幸運だとそれぞれに思った。



ちなみに従業員以外の周りの人達は
黒龍一族や護衛達を遠巻きに見て笑う姿が
薄気味悪い笑いをしている風に見えた。

何せ黒龍は普段無機質で無表情の冷酷非道で威圧的で
近寄る事すら縁起が悪いとされるレベルに危険視されていて
笑う自体滅多に見ない光景に誰もが背筋が寒い思いをしていた。
何か見てはいけないものを見ているかのように。
温泉宿なのに宿全体を黒龍達以外の人達は寒々とした思いだったのである。



私はそんな中、この頃壊れていくパパが心配になっきた。
そして、この黒龍の私達って一体何でこんなに怖がれてるんだろう。
これから注意深く見て、改善していかないと...。
私は初めて屋敷以外のこの妙な空気感が分からず、
怖いと思ってるんだったら違う事を分かって欲しい。
飛ぶ事も私にとって大事だが
私たち黒龍のイメージが悪いから原因を見つけなきゃ。

よーし!屋敷に戻って探らなきゃ!!
私は決意するのであった。


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