私の大好きなドラゴン

どら娘

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怒り

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翌朝私は何やら外が騒がしい事に気が付いた。
外の玄関のドアの前で大人の男達が集まりアランを取り囲むように詰め寄っているようだ。

「おい、その疫病神達を追い出せ!」

「紫のドラゴンが村の付近で声をあげてるらしい。
 奴らが呼び寄せたんだろ!」

「こいつらのせいで、災いが来たんだ。」

私は玄関の近くの窓から様子をうかがっていたカインの背中を
チョンチョンとつついて見ると思いつめたような顔をしたカインが振り向き言った。

「いつもなんだ。何かある度に俺のせいだって言いに来る。
 アラン兄に言って攻めるんだ。」

悲しそうな顔したカインがこぶしを握り締めていたので、
私は握りしめていた手にそっと触れてほどき手をつないでぎゅーっつと握った。

「...........」

カインが手を凝視すると、私はニコッと笑ってお互い黙って外のほうへ見た。


なんだかんだで、ギャーギャー村人たちが騒いでいると、
アランは片足を地面にドスンと踏みつけるようにした後村人達に無言で見渡し睨みつけた。
村人達はビクつきながらも、さらにまくしたてるように言ってきた。

「この村は平凡なんだ。なのに疫病神が増えた途端に
 ドラゴンが来るなんて末恐ろしい奴らだ。」


「言い伝えではドラゴンが多く現れる時、
 黒い災厄が来るとあるんだ!」 

「現に黒い化け物が増えたらドラゴンがきた!」

「紫のドラゴンが村に来たら全滅だ。その前に疫病神らを殺せ」

「「「「そうだ殺せ」」」」」

 
村人たちが騒いでいるのを聞きつけたのか、村人たちの上の方に大きな影が立った。
するとサクラが上空から降り立ち、そこにいた大人の男たちはヒーっと言葉すら出せずに
全員少しの間硬直し、立ち直ると一斉に少し離れたところに移動した。

「おい ドラゴンは神聖なもんだ。
 特に大型ほど賢く余程不当な真似をしねえ限り何もしねーよ。
 お前らが刺激するから暴れるんだ。
 それにお前らがガキらを殺した所で何も変われねーし
 かえって怒らすぞ。」

サクラは村人達に向けてわざとらしく口を開け牙を見せながらうなった。
(何こいつらライルを殺そうとしてるの? 絶対許さないわ!)

「「「「ひぃいー」 」」」

村人達がビビってると村人達が立っている後ろの森の
奥の方から若い男の子が息切れしながら来た。
慌てているのか顔面蒼白な顔で話し出した。

「お父ちゃん!紫のドラゴンが村の上空を飛んでいるんだ。
 早く来て!」

「村は大丈夫なのか?」

「何も攻撃はしてこないけど、何かを探すようにずっと飛び回っているんだ」

「わしが見たとき新しく見る”黒いの”が紫のドラゴンに触れていたぞ!
 そいつを差し出せばいいんじゃないか?」

成り行きを見ていたあるお爺ちゃんが話し出した。
よく見てみると森で紫のドラゴンと会ってた時
「疫病神」と後ろから言ってきたお爺ちゃんだった。


「お父ちゃん!早く、どうしたらいいんだよ。」


「おい、あいつ等を早く出せよ!何なら新しい”ほう”でいいからさ」


「お前、自分の子と同じぐらいの子をよく差し出せって言えるな!
 お前の子だったらどう思うか考えた事あんのかよ!」

アランが憤慨しながら言った。


「一人で村人全員が助かるんだったらいいだろ?
 それにどうせ、一人だろ!親兄弟いないんじゃないのか?
 アランお前もあいつらと血がつながってねーだろ。
 関わったら不幸になるだけだ。早く始末したほうがいい。」

「「「そうだ」」」


「クッ.......ソ.........」
アランは怒りで手を震えながらこぶしを握り戦う体制になろうとしていた。

「ギャオーーーー」
突然サクラが大きく羽ばたき突風で村人たちが軽く飛ばされた。
そして、聞いたこともない低い低音の声で鳴いた。

(お前ら.......クズだ....殺してやる。)

私は思わず走り出して扉をバンと勢いよく開けてサクラの近くへ行った。
そこには殺気立った空気で大型のドラゴンのサクラが一面の壁のように
翼を真横に広げて威嚇している背中からサクラの声が聞こえてきた。

(お前ら.......許せねえ....殺してやる。)


サクラが本気で怒ってるのかオスらしい、低い声が聞こえ、
しかも怒ってるときは男になるのか言葉づかいまで変わってきて
あまりにもいつもと様子がおかしいので不安になり心から叫ぶように言った。


「だめーーーーーーーーーーーー」

私の叫びとともにサクラは我に返ったみたいに勢いよく襲い掛かろうとした体制から
ゆっくりと少しずつ怒りを抑えるように羽ばたく翼をゆっくりと下した。
私は村人達と向かい合っているサクラの前に歩き村人たちをゆっくりと見た。

私は無意識に目からホホを伝うように一滴涙を流していた。
こんなに周りから言われ続けていたカインはどれだけ傷ついてきたのだろう。
自分の事だけではなく、かばってくれる相手までも悪意を向けられ
申し訳なく悲しく虚しくなる心が張り裂けそうな苦しみを。
そして自分が原因で自分の唯一の大切な人が傷つき、
人を憎んで戦う姿が何より悲しい。


「わた....し 行く。カイ....ンアラ...ン..サク...ラ..傷つ....ける.....ゆる...さな..い。」


私は自分の中の感情を押し殺して落ち着かせ静かにゆっくりと目を一度閉じて開け、
目をめいいっぱい大きくして涙が流れながらも村人たちをしばらく睨んだ。
すると私の体の周りから白く淡い光が放たれ、神々しいオーラが出始めた。
圧倒された村人たちは得体のしれない天罰が下ったように
衝撃を感じ全員膝をつき震えだした。
私はゆっくりと歩き、村人たちに背を向けるとサクラを見あげた。


ゆっくりと私は宙に浮きサクラの背に乗り、大空へ向けて飛び立った。





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