5 / 8
巨額な脱税事件
しおりを挟む
江戸総合市場の開設以来、日本各地の商業が目覚ましく発展し始めた。特に東海道沿線や大坂など主要都市では新しい産業が芽生え始めていると聞く。一方で僕たち「双頭政府」のもとでは、新たな問題も発生していた。
「報告致します。大規模な脱税行為が横行しております」
ある晩、重臣たちを集めた会議で諜報部長から衝撃的な報告があがった。
「どの程度だ?」
家康の問いかけに彼は淡々と答える。
「少なく見積もっても百万両(約300億円相当)以上に上る可能性があります。特に米商人や繊維商を中心とするグループが組織的な手口を使っている模様です」
百万両という巨額に室内がざわつく。このまま放置すれば国益の流出はもちろん、国家財政にも深刻な影響を与えるだろう。早急に対策を講じなければいけない局面だった。
「ならば徹底的な摘発を行わねばなるまい」
秀忠がそう言うと、家康も大きく頷く。
「そうだ。だがただ逮捕するだけでは不十分だ。根本解決のために何か革新的な手法を打ち出すべきだと思うのじゃが……」
両者から視線を浴びせられ、僕は身震いした。どうやらこの案件に、僕が全面的に関わることになるらしい。
数日後。僕は市場管理官として現地調査へと赴くことになった。まずは最大の取引先である、大坂の米穀仲買人「佐平次屋」を訪ねる。
「これはこれは吉田様。お久しぶりでございますぅ」
恰幅のいい店主は愛想よく迎えてくれたが、僕は前置きなく本題に入った。
「最近の取引について詳しい資料を見せてほしい」
佐平次屋は一瞬たじろぐものの、すぐに平静を取り戻す。
「もちろんですとも。すべて御提供しましょう」
帳簿類を見せられて驚愕した。表面上はきちんと記録されているように見えるが、細部を見れば違和感が山ほどある。
「この部分……なぜこんな小さな端数だけ妙に多いのでしょうか?」
指摘すると佐平次屋の顔色が変わった。明らかに誤魔化しに入ろうとするのを感じ取った瞬間、
「逃げられませんよ」
傍らに控えていた家臣たちが素早く拘束にかかる。他の奉行所とも連携し一斉摘発へ移行した結果、複数の商家が絡む大規模な脱税ネットワークが炙り出されることとなった。
「まさか……これほど巧妙に隠蔽していたとは……」
押収した裏帳簿を前に家康と秀忠が唸る。このままでは国家存続にも関わる事態であり、厳罰が求められる状況だった。
問題解決のために考案されたのが「監査局制度」だ。各都市に専門部署を置き、企業取引の透明性を担保することにした。更に脱税者に対する罰則も大幅に強化し、違反者は重刑に処す。これらの改革によって不正はかなり減少したと見る。
しかし完全に根絶できたわけではない。水面下では別の形態に変貌した脱税が存在することは明白だった。継続的な監視体制が必要不可欠なのである。
こうした対応を通して僕は、ある種の覚悟を持ち始めていた。
『いくら規範を作っても人の欲望までは制御できない。だから常に新しい手段を考えていかなくてはいけないんだ』
それは同時に国家支配の限界を感じさせる事象でもあった。理想郷構築への道のりは遠く険しいものなのだと思い知らされた。
「報告致します。大規模な脱税行為が横行しております」
ある晩、重臣たちを集めた会議で諜報部長から衝撃的な報告があがった。
「どの程度だ?」
家康の問いかけに彼は淡々と答える。
「少なく見積もっても百万両(約300億円相当)以上に上る可能性があります。特に米商人や繊維商を中心とするグループが組織的な手口を使っている模様です」
百万両という巨額に室内がざわつく。このまま放置すれば国益の流出はもちろん、国家財政にも深刻な影響を与えるだろう。早急に対策を講じなければいけない局面だった。
「ならば徹底的な摘発を行わねばなるまい」
秀忠がそう言うと、家康も大きく頷く。
「そうだ。だがただ逮捕するだけでは不十分だ。根本解決のために何か革新的な手法を打ち出すべきだと思うのじゃが……」
両者から視線を浴びせられ、僕は身震いした。どうやらこの案件に、僕が全面的に関わることになるらしい。
数日後。僕は市場管理官として現地調査へと赴くことになった。まずは最大の取引先である、大坂の米穀仲買人「佐平次屋」を訪ねる。
「これはこれは吉田様。お久しぶりでございますぅ」
恰幅のいい店主は愛想よく迎えてくれたが、僕は前置きなく本題に入った。
「最近の取引について詳しい資料を見せてほしい」
佐平次屋は一瞬たじろぐものの、すぐに平静を取り戻す。
「もちろんですとも。すべて御提供しましょう」
帳簿類を見せられて驚愕した。表面上はきちんと記録されているように見えるが、細部を見れば違和感が山ほどある。
「この部分……なぜこんな小さな端数だけ妙に多いのでしょうか?」
指摘すると佐平次屋の顔色が変わった。明らかに誤魔化しに入ろうとするのを感じ取った瞬間、
「逃げられませんよ」
傍らに控えていた家臣たちが素早く拘束にかかる。他の奉行所とも連携し一斉摘発へ移行した結果、複数の商家が絡む大規模な脱税ネットワークが炙り出されることとなった。
「まさか……これほど巧妙に隠蔽していたとは……」
押収した裏帳簿を前に家康と秀忠が唸る。このままでは国家存続にも関わる事態であり、厳罰が求められる状況だった。
問題解決のために考案されたのが「監査局制度」だ。各都市に専門部署を置き、企業取引の透明性を担保することにした。更に脱税者に対する罰則も大幅に強化し、違反者は重刑に処す。これらの改革によって不正はかなり減少したと見る。
しかし完全に根絶できたわけではない。水面下では別の形態に変貌した脱税が存在することは明白だった。継続的な監視体制が必要不可欠なのである。
こうした対応を通して僕は、ある種の覚悟を持ち始めていた。
『いくら規範を作っても人の欲望までは制御できない。だから常に新しい手段を考えていかなくてはいけないんだ』
それは同時に国家支配の限界を感じさせる事象でもあった。理想郷構築への道のりは遠く険しいものなのだと思い知らされた。
0
あなたにおすすめの小説
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる