徳川家の右腕

ジミーとノア

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外交の嵐

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 脱税摘発に一定の区切りがついたころ、僕の元へ飛び込んできたのは外国貿易に関する報告だった。

「オランダより使節団が来航したとのこと」

 外交担当官の報告によると鎖国令施行前ということもあり、海外との接触が多くなっていた。幕府内では積極的交流派と慎重派とに別れて、意見が対立している。

「どう思いますか?」

 秀忠の問い掛けに対して僕はしばらく考え込んでいた。本来の歴史通りなら、鎖国への流れが強まる時期なのだが……。

「我が国だけで生き延びることはできません。やはり交易を通じて情報と技術を取り込むべきだと思います」

 この言葉は大胆なものだった。当時の武士階級にとっては異端視されても仕方ない提案だが、なぜか家中からは意外な支持を集めた。

「流石は九郎兵衛様。我々も同じ思いでした」

 老中たちの声援を受けて僕の外交路線が採用されることになる。オランダだけでなく他欧州各国とも限定付きの交易契約を結ぶこととなり、日本は緩やかな開国時代を迎えたと言えるかもしれない。

 しかし国内の保守層からの抵抗も激しくなる一方だった。特に武家出身の譜代大名たちは、危機感を抱き始めている。

「異国文化を流入させては日本の伝統が崩れるのではないか」

 そんな訴えに応えようと僕は様々な試みを試みた。

 例えば『江戸大学校』創設である。蘭学・医学・天文学などを教える施設を作ることで、優秀な人材育成を目指すというものだ。これには家康公も賛同し、資金援助が行われる運びとなった。

 また国外事情研究班も編成し、情報分析力を高めることにも成功する。これらが後の明治維新へ繋がる人的・知的インフラとして遺産となり得る可能性を秘めていた。

 ところがある日突然の出来事が幕府を揺さぶる。

「琉球王国より緊急の使者が参りました! 流刑島沖にて外国艦船が攻撃してきたとか!」

 報告を受けた家康の顔色が変わる。

「詳細は?」
「はっ!どうやら英国海軍の巡洋艦が『通行妨害』と称して砲撃を加え被害甚大とのこと。多数の民間人も怪我を負ったようです」

 僕たち三人の顔色は蒼ざめていった。まさか外国艦による直接攻撃がこんなに早く起こるとは思っても見ない。なぜなら1800年代に起こることだからだ。この世界線では史実よりも遥かに早い段階で、列強の脅威が日本に襲いかかってきていたのだ。

「どうしますか?」
「報復すべきでは……」

 場内は紛糾状態となり議論が交錯する。この時家康は静かにこう述べた。

「今は堪え忍ぶしかない。逆鱗に触れれば本当に植民地化される恐れもある。まずは外交ルートを通じて抗議と賠償要求をするしかないじゃろう」
「ですが……」

 なおも食い下がる一部武断派へ向かって言い放つ。

「焦って動けば却って足元を掬われる。まず国内体制を固めつつ長期展望を持って臨む必要がある」

 その姿は往年の英傑そのものであった。僕は深く感服する。やはりこの人は偉大な指導者であり、師匠であることを改めて認識した。
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