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罪026
しおりを挟むここは深海の国、人魚や魚人が楽しく暮らすサシミ王国。片手が大きな蟹の鋏をした女の魚人が、兵士に向かい、剣幕を捲し立て怒りを露わにしている。
「海王様がまた、何処かに行かれただと?」
「どうやら、可愛い女の子を見つけたとか、何とかで、スキップしながら城を出て行きました。」
「あの尻軽女めが、海王の威厳もクソもあったものでは無い。あいつにはまだ、海王の席に着かせるのは早過ぎたか。えーい!海王様を街から出すな!王だからとて遠慮はするな!半殺しにしてでも、ひっ捕らえよ!」
「は、はい!」
この異世界ブルームワールドにも、日本と同じく春夏秋冬が存在する。
例えるなら12月の真冬並みの気温が低い月夜の晩に、氷のように冷たい海の中から小さく波が寄せては返す浜辺へと足を踏み入れる1人の美女がいた。
天女のような羽衣を身に纏い、魚を形取った柄の着物を着崩し、濡れた滑らかな肌に雫を垂らし、海のような水色の細い髪が月の光を反射し煌く。
その麗しき容姿はまるで竜宮城に住む乙姫様の様に妖艶たるものであった。
黄色い瞳を濡れた宝石のようにテカらせ遠くの大地を見据える。
「はてさて、どこに居るでのじゃ?妾の愛しきシュガーとやらは…。」
この浜辺はティン国の南方に位置する別名チクビーチ。アクアブルーにすき透る珊瑚礁の海域が続き浅瀬が続く安全な場所と言うことで夏には海水浴場としても盛り上がる場所である。
また逆に冬場は人っ子ひとり寄り付かない場所と言うこともあり、浜辺には沢山の甲殻種の魔物が彷徨く危険な場所でもある。
近くの森から湧き出てくる紅い鎧を身にまとう大きな蟹の群れが彼女の周りを半円形に包囲する。
それぞれバラバラの姿形をした鋏は、差し詰めギロチン台に設けられた鋭利な刃の如く研ぎ澄まされている。
その鋏に挟まれれば人の首など容易くコロリと落ちてしまう程強力な力を持つ。
それらの鋏が月明かりの下、ギラリとした輝きを放っていた。
彼らは獲物にどうするか、我先に食い掛かりたいといった動きをし、互いを鋏で威嚇しあう。
その姿は、完全に美女を下に捉え油断しきったものだった。女は浜辺から出るや否や取り囲む蟹達には見向きもせずに足に纏わりつく砂を払っている。
輪の中にいるであろう獲物に対して無言の警告を発するするよう、蟹達は大きな鋏をジョキリジョキリと空を切り音を鳴らす。
そんな中、ゆっくりと女は顔を上げる。
月光の下、魔物に囲まれた危機的状況にありながら1人の美女は淫靡な笑みを浮かべ、そのまま蟹達の前まで歩く。
「ほぅ、海に生きるものが妾に向かって死線を放つか?」
たまたま女の前にいた蟹が彼女のか細い首元へと鋏を添える。すると―鋏がドサリと地面に落ちた。
「無知で愚かな生物よのう…妾の事が分からんのかの?」
女は呟くと無造作に手を振るった。それにあわせ、次々に蟹達の鋏がいとも簡単に地面に落ちていく。
◇◆◇
ティン国から目と鼻の先ほどの距離に位置する。とある森の中…。
草木を掻き分け疾駆する白狼と黒豹、それは人の背丈ほどの大きさしかないが、犬や猫とはまた違う獰猛さを兼ね備えた生物であった。
彼等は山を越え、谷を越え、海を渡り、大地を走り続けていた。
鼻をクンクンと嗅ぎ分けて、何かに気づき駆け寄る彼等…。スタッと立ち止まり、互いに見つめ合うと鼻筋に皺を浮かべ険しい表情を見せる。
そして、2匹の猛獣は四肢にグッと力を入れて威嚇体勢を取る。彼等の前に立ちはだかるのは、体長3m近いファイヤーグリズリーの群れ。
炎を撒き散らす獰猛な熊である。
白狼は牙を剥き出し、声を荒げる。
「森の熊さん達のお出ましだ。クロネ!どっちが多く倒せるか勝負しねーか?」
黒豹は上目遣いで伸びをしながら応える。
「フニャチンなんかに負けないです。」
「ふ、ふにゃち…んだと?」
二頭の猛獣は四肢に力を込め、大地を蹴りグリズリー達に飛び掛かる。彼等は互いに認め合うように牽制しつつグリズリー達を一網打尽にしていく。
彼等は、ものの数分でグリズリー達を血だらけにして地面に這いつくばらせたのである。
「俺の勝ちだな。15頭だ。」
「私は14頭なのですが、ボルグの殺った15頭の中に私が致命傷を与えた熊が数頭いるのです。よって、私の圧勝なのです。」
「馬鹿かお前!最後にとどめを刺した奴の手柄になんだよ。」
「ふーん。ならそれで構わないのです。キンタマの小さい男なのです。」
「金玉は関係ねーだろ!器だろーが!う、つ、わ!」
白狼は不満な表情を浮かべ、再び走り出した。
それを追うように微かな笑みを浮かべ黒豹も走り出す。
黒と白の猛獣は森の中を稲妻の如く駆け抜けていった。
◆◇◆
怪しい美女と2匹の獣が近づく中、真白達はと言うと…。
さて俺は今、駄馬のスノウと、その執事のユニコを連れ我が家へと帰ってきている。(アビリルの館です。)扉を開けるや否や、駆け寄り抱き付いてくる第1妻。
「おかえりなさいませ…。旦那様!フギュウ。」
「やぁ、クルル、ただ今!あれ?パルメは?」
「それが、まだ帰りません…。あと、桃尻様から言伝てが…。」
館に帰るなり、犬のようにツインテイルの尻尾を振って飛びつき、俺にしがみつくクルルを、ヨシヨシと撫でながら、ペガサスとユニコーンと言う豪華キャスト揃い踏みな2人を紹介する所であった。
「わかった。それは後で聞くよ。それより紹介したい人達が居るんだ。2人とも!入ってくれ!」
2人はコクリとお辞儀をしながら室内を見渡すと互いに目と目を合わせると館へと足を踏み入れた。
パルメもアビリルも、まだ帰宅していないが…先にクルルと2人でスノウの無茶な要求について議論する事となったのである。
「天界と言えば雲の上の世界ですよ?我々、痴女の人間が、ゴホン…間違えました…。我々、地上の人間が行く事なんて可能なんですか?」
そう語るのはクルル。
彼女は翡翠石の様に綺麗な瞳に、驚愕の色を浮かべ話をしている。
「普通の人間には不可能です。」
一本角の女執事が真面目な硬い表情で突き返し、更に彼女は話を続ける。
「そもそも、今の貴方達のレベルでは到底、天界になど辿り着く事は不可能かと思われます。スノウ様は一体なぜ、貴方達を天界に行かせようとするのか?私には全く理解できない。」
ジトリとした目で俺たちを見下すユニコ…。
どうやら彼女は地上に生きる人間に対して排他的な考えて持っているようだが…レベル?レベルと言ったのか?そう言う自分はどうなんだ?見た限りそんなに強い様には思えないが?
……………………覗き!
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名前・ユニコ・ニコル(♀)
LV70 現金690,453,687r
魔法・氷魔法
HP:7450/7450
MP:8661/8661
スキル:【舞踏術lv.70】【氷山の一角lv.70】
【人型lv.70】【シュバルツホーンlv.70】
武器:無し
装備:【聖者の燕尾服】
【聖者のパンツ】【凍土の手袋】
称号:(聖獣ユニコーン)
(不屈流6段)(マナー作法講師)
(料理の鉄人)
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ユニコの秘密
好感度0♡体感度0♡親密度0♡
期待度1♡興奮度0♡
体技2❤︎舌技0❤︎
弱点、尾骶骨、尻尾。
(インキュバスおじさんの心眼)
過去50回に渡り男にやり捨てられている彼女はとことんダメ男を愛し、ダメ男に尽くし、そして最後は捨てられてきた。そんな辛い恋愛ばかりしてきた彼女は氷魔法で自らのハートを凍らしている。もう恋なんてしないと硬く誓ったのである。
下着、ノーパン、オーバック。
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心眼での見極めた真実はかなり重いな…。
だが、非難するだけあって彼女のレベルは相当高かい。それに、スーツの下はオーバックだと?
そんなの履いてる人を始めて見るが…マナー講師の癖に、そんな卑猥な下着を履くのはマナー違反にはならんのだろうか?
「大丈夫よ、天界に今すぐ行こうって訳じゃないの。天使も堕天使も実力的にはそう差はないから、暫くは睨み合いが続くと思うの。」
そう語るのはスノウ。
こいつは馬鹿だが、こと闘いに関してだけは例外無く頭がキレる。持って生まれた闘いの才能とでも言うべきだろうか…。
それに対してクルルが真剣な眼差しで確認を促す。
「成る程、探り合いと言う訳ですか…ベットの上でお互い裸体を晒し、見つめ合う両者…。やがて両者は熱い口づけを交わし…かたや、巧みに操る手でそそり勃つ塔の先端を攻める…かたや、しなやかに動く指で聖水が湧き出す聖なる泉を攻める…そして互いに感じる場所を探り合うように様子を伺っていると言う状態ですね?」
「え?何?塔?聖なる泉?え?話が難しくてついていけないんですけど?」
ハテナマークを撒き散らし頭を抱えるスノウに対し救済の言葉をかける俺。
「あースノウ…クルルの話に耳を傾けなくて良いから!子供にはまだ早い!スルーしてよし!」
「あ!また子供扱いしたあああ!私こう見えても100歳超えてるんですけど?私から見れば貴方達こそ子供よ!もう赤ん坊を通り越して子種よ子種!ふんっ。」
その言葉に反応し、ユニコが割って入る。
「成る程、真白だけに真白な精液とかけた訳ですか!スノウ様!流石です!」
「こらこらユニコまで話に乗らなくて良いから…」
何故いつもこうなる?いつもいつも…必ずと言って良いほど真剣な話が下ネタになる。なぜだ?どう転がれば天使の話から精子の話になると言うんだ。
言葉的には同じく「せいなるもの」を指してはいるが全くの別物だ…。
逸れた話題を修正する為、俺は慌てて話を切り替えた。
「そもそも天使とか堕天使とか言われても話が全く見えないんだが?天使が居るなら神様もいるってのか?」
2人の眼差しは鋭いものへと変わった。
「神はいるわよ。」
「ですが…今は行方不明です。」
神が統治する天界は今、神不在のため混乱を喫している。神の支持無しでは動けない天使達とは逆に神に対して不満を抱く者達、堕天使達が留守を良い事に反逆を始めたのだと言う。
「そこで真白っちに良い提案があるの。」
スノウの提案とは暫く様子を見る間、俺達のレベルを出来るだけ上げるという事だった。
「貴方達はギルドに行ってクエストを万々こなしなさい!」
「「え?ギルド?」」
こうして俺達はギルドに向かう事となったのである。
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