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第26話:看破。公爵夫人の反撃
「ほら、坊ちゃん。美味しい美味しいお菓子ですよ。さあ、口を開けて――」
ニヤリと醜悪な笑みを浮かべた第一王子の側近が、毒々しい色をした砂糖菓子をノア様の小さな口元へ強引に押し付けようとした、次の瞬間。
パーンッ!!
私は一切の躊躇いもなく、側近の手ごと、銀の盆を思い切り叩き落とした。
ガシャーン! とけたたましい音を立てて、床に色鮮やかなお菓子が転がる。
「な、何をなさる公爵夫人! 殿下からの下賜品を泥にまみれさせるとは、不敬にも程があるぞ!」
顔を真っ赤にして激昂する側近。
周囲の貴族たちも「なんて野蛮な」「公爵家も終わりね」とヒソヒソと囁き合っている。
「おかあさま……っ」
怒号に驚いたノア様が、私の背中にぴたりと張り付き、その『小さな手』で私のドレスの『服の裾を力強く握り』しめた。
「こわいよぉ……ぼく、おかし、いらない……っ」
怯えきった青い瞳と、震える『舌足らずな言葉』。
私は、今朝ベッドの中で見た彼の『安心しきった無防備な寝顔』を思い出した。あの平和な時間を奪おうとする害虫は、ここで一匹残らず駆除しなければならない。
「大丈夫ですよ、ノア様。あんな汚いものを食べたら、お腹を壊してしまいますからね」
私はノア様に向けて極上の優しい笑みを浮かべた後、ゆっくりと立ち上がり、側近に向かって絶対零度の氷の視線を放った。
「不敬? 笑わせないでくださいませ。そのような、発作を誘発する魔力暴走薬がたっぷりと染み込んだ毒物を、私の愛する息子に食べさせようとした罪。万死に値しますわ」
「なっ……!?」
側近の顔から、一気に血の気が引いた。
「ば、馬鹿なことを! 言いがかりだ! 証拠があるのか!」
「証拠なら、そのお菓子の断面と不自然な匂いが何よりの証明ですわ。……それに」
私は扇子を優雅に広げ、周囲の貴族たち全員に聞こえるように、はっきりと、そして凛とした声で告げた。
「第一王子殿下の派閥が、日頃から王立孤児院の運営資金を不当に搾取し、私腹を肥やしていることは、王都の裏社会では有名な話。……その横領した資金で、随分と高価な違法薬物を仕入れたようですね?」
「――ッ!!」
その瞬間、薔薇園の空気が完全に凍りついた。
貴族たちがざわめき始め、側近の男は尋常ではない量の冷や汗を流して後ずさった。
前世の知識(原作ゲームの設定)と、公爵夫人としての情報網。それらを駆使すれば、彼らの抱える暗部など容易に暴き出すことができる。
「弱い立場の孤児たちからパンを奪い、今度は罪のない三歳の子供を陥れようとする。……あなたたちの血は、一体何色をしているのかしら?」
私の冷徹で理路整然とした糾弾に、側近の男は完全に追い詰められた。
論破され、孤児院からの搾取という致命的な不正を公衆の面前で暴かれた彼は、もはや言い逃れができないと悟ったのだろう。
男の顔が、羞恥と怒りでどす黒く歪んでいく。
そして、狂気に満ちた目で私とノア様を睨みつけ、腰の剣に手をかけた。
「ええい、黙れ黙れ黙れぇっ!! この生意気な魔女め! 殿下の御前を汚す化け物のガキごと、ここで始末してやる!!」
男は完全に理性を失い、周囲に控えていた近衛騎士たちに向かって叫んだ。
「やれ!! この魔女とガキを、今すぐ斬り捨てろぉっ!!」
「はっ!!」
第一王子派閥に買収されている騎士たちが、一斉に剣を抜き、私とノア様に向かって殺意の刃を向けて襲いかかってきた。
「……おかあさまぁっ!」
「ノア様、目を瞑っていて!!」
私はノア様の小さな体を力いっぱい抱きしめ、背中を向けた。
迫り来る凶刃。絶体絶命の窮地。
――だが、私の心に一切の絶望はなかった。
なぜなら、私の愛する夫が、私たちをこのまま放っておくはずがないと、心の底から信じていたからだ。
ズガァァァァァンッ!!!!!
騎士の刃が私に届く直前。
薔薇園へと続く王宮の重厚な鉄格子が、凄まじい爆発音と共に、飴細工のように木端微塵に吹き飛ばされたのだった。
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