婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない～なんで溺愛されてるの！？～

レイクガーデンの逢瀬

　セシリアの声を受けて視線の先を見ると、ハウンドがこちらに向かって大股でずんずん近づいてきていた。
　失望したとか、もう会うことはないとか言われるのだろうかと緊張する。
　遠く取り残された人々はぽかんとハウンドを見つめて気まずそうである。

「ハウンドはあなたと話があるみたいだし、今日はアーノルドと一緒に帰るわね」

「えっセシリア、まって」

「向こうのギャラリーたちは任せておいて」

　呼びかけてもセシリアはひらひらと手を振るだけで、ハウンドとすれ違うように帰っていく。
　横を通り過ぎるセシリアにハウンドは一瞥もしない。
　遠くからずっと、まっすぐにステラだけを見つめている。

「ステラ様！　ステラ様もいらっしゃっていたのですね。もしかしてもうお帰りになるのですか？」

「え、ええ。今日はもう……」

　けっこうな距離から大声で呼びかけられて帰るタイミングを完全に逃してしまった。
　今のところは、彼の態度に特段変わりがないように思える。
　しかしハウンドは興味を無くした存在にどこまでも冷たい一面がある。
　ステラだって、この間の舞踏会でそれを見たのだ。

(いまさらあんな瞳を向けられたら……)

　今だってハウンドが自分を利用しているだけだと分かっていても、彼の薔薇色の瞳が冷たい色を宿すが怖かった。
　だから、何かを言われるまえに傷つかないように先に口を開く。

「私みたいなのに構ってももうあなたの得にはならないわよ。私ももう帰るし……クローイ様にはあとでちゃんと謝罪するから」

　ハウンドは何も言わない。
　こわごわと顔を見ると、不思議そうにしていた。

「なぜステラ様が謝罪を？」

「えっ。だって、彼女はなにか私のことをその……私になにかされたとか言ってなかった？」

「言ってましたね。ほら、あそこで泣いていらっしゃるのが見えますか？」

　ハウンドが背後に視線をやると、たしかに黒髪の女性がうずくまっている。
　周囲の人々が困ったようにハウンドを見ながら黒髪の女性を介抱しているようだった。

(さすがに泣くほどのことは言っていないし、さっきだってイラついていらっしゃったけど泣くような感じは……)

　そこでステラはピンときた。
　じっとハウンドを見つめる。

「ハウンド、あなた何をしたの」

「悪意のある嘘には報いが必要でしょう」

　穏やかにほほ笑むハウンドは、すでにクローイに興味がなさそうだ。
　この様子だと舞踏会の時と同じように、もしかしたらそれ以上に辛辣な言葉を彼女に返した可能性が高い。

　ハウンドの変わらない態度に身体の力を抜く。
　楽になったことでステラは体が強張っていたことにきづいた

(私、ハウンド相手に緊張していたのね。変なの。彼に誤解されることを怖がるなんて)

　そして、その時遠くから凄まじい殺気を感じた。
　出所を探ろうと周囲を見渡すまでもなく、それはクローイの横に立つブリジットからのものだった。
　ブリジットもおそらく、クローイの言葉は彼女に都合のいいものだと理解しているのだろう。
　そしてハウンドがクローイを信じずやり込めたものだから、ステラを恨んでいるのだ。

　ステラがハウンドに愛されているのだと誤解して。

「……社交界で敵を作るのは得策ではないわ。そんなこと、私が言ずともあなたなら知っているでしょう」

「一般的にはそうかもしれませんね。ですが慣れ合って迎合するより重要なことがあるのです」

「女の子をいじめるより重要なものってなんなのよ」