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レイクガーデンの攻防5
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「……え、ええ! あの舞踏会では仲睦まじいご様子だったのに、今日はどうされたのか心配になったのです! もしかして……あなたのような可憐なお嬢さんが捨てられたのかと思うと胸が張り裂けそうで」
(来たわね、今日の本題。これが言いたくて近づいてきたんでしょうけれど)
「捨てられたもなにも、私と彼はそういった関係ではございませんの。先日は舞踏会に不慣れな私をエスコートしてくださっただけですわ。彼は心配性なようですね。あなたもハウンド様にエスコートされることがあればおわかりになると思います」
そんな機会はないでしょうけど、とにっこりと特大の笑顔で応じる。
セシリアは後ろで満足そうに微笑み、クローイの取り巻きは冷や汗をかいておろおろとしている。
どちらが勝者なのかはっきりしているからだ。
ステラはかつてセシリアはやハウンドに教えられた社交界を生き抜くコツを思い出していた。
(積極的に敵を作る必要はないけれど、舐めた態度を取る相手はきっちりとやり返させてもらうわ)
クローイはもはや扇が折れるのではないかというほど握り締め、顔を真っ赤にしてステラを睨みつけていた。
「落ち目のグレアム家のくせに……!」
そう捨て台詞を吐くとクローイは取り巻きを連れて去っていった。
後ろで肩を震わせていたセシリアが我慢できないというように声を出して笑う。
「あははっ! ああいった人間がやり返されるのを見るのはいい気味だと思うわね。さすがよステラ。お茶会の時も思ったけれど、基本的に物怖じしないのね。貴族として大事な資質だわ」
「ありがとうセシリア。あんな風に言えたのはあなたがいてくれたからよ」
「私はなにもしてないわ。むしろなにかしたかったのに出る幕なかったわね。あなたの力よ」
セシリアがいてくれて本当によかったとステラは思う。
婚約者探しに希望が見えず落ち込んでいたところにクローイが来ていたらどうなっていたか分からない。
「あら? クローイ様あそこに突っ込んでいくのかしら」
セシリアの声につられてクローイの後ろ姿を追う。
彼女はハウンドを中心とした人だかりに一直線に進んでいた。
遠くてよく分からないものの、クローイはおそらくハウンドらしい男になにかを訴えているようだった。
(私の悪口でも言っているのかも)
彼女はどうやら身振り手振りで先ほどのことを報告しているらしい。
集団の視線が一気にステラに向けられた。
隣のセシリアが嫌悪感を隠さず眉をひそめる。
ステラの予想は当たっていたらしい。
「なんだかみなさんのお邪魔をしてしまったみたい。私、帰るわね」
あなたが遠慮することないのにとセシリアは言ってくれるが、こんな形で注目集めてしまってはもう出来ることがないことは二人とも理解していた。
(彼女から話を聞いたのなら、きっと私はひどい女って思っているはずだもの)
わざわざ彼に泣きつくということはそういうことだ。
ステラが折れなかったから、直接目的を果たしにいったのだろう。
ハウンドとは多少交流があるので全面的にクローイの言い分を信じるとは思っていないが、疑われるのもなんとなく嫌だった。
だから会ってしまう前に帰ろうと思ったのだ。
「あら、ちょっと遅かったみたいね」
(来たわね、今日の本題。これが言いたくて近づいてきたんでしょうけれど)
「捨てられたもなにも、私と彼はそういった関係ではございませんの。先日は舞踏会に不慣れな私をエスコートしてくださっただけですわ。彼は心配性なようですね。あなたもハウンド様にエスコートされることがあればおわかりになると思います」
そんな機会はないでしょうけど、とにっこりと特大の笑顔で応じる。
セシリアは後ろで満足そうに微笑み、クローイの取り巻きは冷や汗をかいておろおろとしている。
どちらが勝者なのかはっきりしているからだ。
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そう捨て台詞を吐くとクローイは取り巻きを連れて去っていった。
後ろで肩を震わせていたセシリアが我慢できないというように声を出して笑う。
「あははっ! ああいった人間がやり返されるのを見るのはいい気味だと思うわね。さすがよステラ。お茶会の時も思ったけれど、基本的に物怖じしないのね。貴族として大事な資質だわ」
「ありがとうセシリア。あんな風に言えたのはあなたがいてくれたからよ」
「私はなにもしてないわ。むしろなにかしたかったのに出る幕なかったわね。あなたの力よ」
セシリアがいてくれて本当によかったとステラは思う。
婚約者探しに希望が見えず落ち込んでいたところにクローイが来ていたらどうなっていたか分からない。
「あら? クローイ様あそこに突っ込んでいくのかしら」
セシリアの声につられてクローイの後ろ姿を追う。
彼女はハウンドを中心とした人だかりに一直線に進んでいた。
遠くてよく分からないものの、クローイはおそらくハウンドらしい男になにかを訴えているようだった。
(私の悪口でも言っているのかも)
彼女はどうやら身振り手振りで先ほどのことを報告しているらしい。
集団の視線が一気にステラに向けられた。
隣のセシリアが嫌悪感を隠さず眉をひそめる。
ステラの予想は当たっていたらしい。
「なんだかみなさんのお邪魔をしてしまったみたい。私、帰るわね」
あなたが遠慮することないのにとセシリアは言ってくれるが、こんな形で注目集めてしまってはもう出来ることがないことは二人とも理解していた。
(彼女から話を聞いたのなら、きっと私はひどい女って思っているはずだもの)
わざわざ彼に泣きつくということはそういうことだ。
ステラが折れなかったから、直接目的を果たしにいったのだろう。
ハウンドとは多少交流があるので全面的にクローイの言い分を信じるとは思っていないが、疑われるのもなんとなく嫌だった。
だから会ってしまう前に帰ろうと思ったのだ。
「あら、ちょっと遅かったみたいね」
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