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運命の始まり5
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「私からも一つお話をよろしいですか?」
床に転がった二人を気にするでもなく、もともとそういったパーティーの進行だったとでも言わんばかりにのほほんとしている。
腰を抜かしでへたり込んだグレアム家当主を立たせるでもなく、ただ見下ろして、微笑む。
異常な態度をとっているが、もはやこの空間がずっと異常なので注意しようと思う者もいなかった。
「お嬢様との婚約を了承してください」
「……は?」
さすがの父親も思考停止してしまった。
いや、ステラとハウンドが来てからずっとだ。
次から次へと理解不能なことが起きて、まったく処理しきれていない。
それはこの場の主役以外の誰もが同じだった。
「いえいえ、難しい事はお分かりでないでしょうから、頷いてくださるだけで大丈夫ですよ」
機能を止めた脳に、ハウンドの言葉はするりと入り込む。
グレアム家当主は操られたように思わずこくりと頷いた。
それを見て、ステラは思わずため息をついた。
ハウンドが何者なのか、両親は知らない。
(素性の分からない男が娘を嫁に迎えようとしているのに、放心状態とはいえ何も言わないどころか了承するなんて。殺そうとしたんだから、もういないのと同じってことなのでしょうね)
今いるステラは彼らにとっては真実亡霊でしかないのだ。
「って婚約!?」
「はい」
主人に名前を呼ばれた犬のような笑顔のハウンド。
しかし、聞き捨てならない。
「今日は私が生きてるって、それで私は私で自由に生きていくって報告をするんじゃなかったの!?」
「ええ。ステラ様が生きていらっしゃることはこの場の全員が目撃していますし、ステラ様はステラ様らしく私の妻になっていただければ」
「聞いてないわよ!」
「言ってませんでしたからね。まあ、一応ご両親だった方々の了承はいただきましたのであとは我々で考えていきましょう」
慌てるステラをよそに、ハウンドは相変わらずお姫様のようにエスコートする。
なぜ妹の方と? さっき当主への態度はなんだ? といった周囲の視線などまったく気にしていない。
そして注目を集めるだけ集めると、たっぷり沈黙を待ってから
「私ハウンド・アロガンスハートはステラ様を伴侶に迎えるつもりです。ステラ様の許しさえあれば」
何の音もない一瞬の静寂の後、一斉にどよめきが走る。
この場に集められた者はブリジットとハウンドの婚約発表だと思っていた、というのもある。
しかしどよめきの大部分はハウンドの家名だ。
アロガンスハート。
どういうことだと皆が顔を見合わせる。
「アロガンスハートってことはハウンド殿が、あの?」
「アロガンスハート一度落ちぶれたアロガンスハート侯爵家を立て直した天才、アロガンスハートの嫡子だろう」
「まあ、あの方が……」
アロガンスハート家は辺境守備を主とする、建国当初から王家とつながりのある由緒正しい侯爵家だ。
元々貴族としての付き合いはほぼなく、かつてステラとハウンドが出会ったバーンズ家のパーティー以降社交界には全く顔を出していない。
だから、みんな忘れていた。
アロガンスハート家に子供がいたことを。
正確には知っている人も覚えている人もいたのだが、バーンズ家で見た子供が今のハウンドに全く結びつかなかったのだ。
アロガンスハートは領民優先の気質故に長らくかなり慎ましい生活をしており、話題に上ることもなかった。
ただ、ここ数年跡取り息子が商才を発揮してかなり羽振りがいいと噂はあった。
落ちぶれた貴族……グレアム家のような家にとっては、靴を舐めてでも取り入りたい家である。
床に転がった二人を気にするでもなく、もともとそういったパーティーの進行だったとでも言わんばかりにのほほんとしている。
腰を抜かしでへたり込んだグレアム家当主を立たせるでもなく、ただ見下ろして、微笑む。
異常な態度をとっているが、もはやこの空間がずっと異常なので注意しようと思う者もいなかった。
「お嬢様との婚約を了承してください」
「……は?」
さすがの父親も思考停止してしまった。
いや、ステラとハウンドが来てからずっとだ。
次から次へと理解不能なことが起きて、まったく処理しきれていない。
それはこの場の主役以外の誰もが同じだった。
「いえいえ、難しい事はお分かりでないでしょうから、頷いてくださるだけで大丈夫ですよ」
機能を止めた脳に、ハウンドの言葉はするりと入り込む。
グレアム家当主は操られたように思わずこくりと頷いた。
それを見て、ステラは思わずため息をついた。
ハウンドが何者なのか、両親は知らない。
(素性の分からない男が娘を嫁に迎えようとしているのに、放心状態とはいえ何も言わないどころか了承するなんて。殺そうとしたんだから、もういないのと同じってことなのでしょうね)
今いるステラは彼らにとっては真実亡霊でしかないのだ。
「って婚約!?」
「はい」
主人に名前を呼ばれた犬のような笑顔のハウンド。
しかし、聞き捨てならない。
「今日は私が生きてるって、それで私は私で自由に生きていくって報告をするんじゃなかったの!?」
「ええ。ステラ様が生きていらっしゃることはこの場の全員が目撃していますし、ステラ様はステラ様らしく私の妻になっていただければ」
「聞いてないわよ!」
「言ってませんでしたからね。まあ、一応ご両親だった方々の了承はいただきましたのであとは我々で考えていきましょう」
慌てるステラをよそに、ハウンドは相変わらずお姫様のようにエスコートする。
なぜ妹の方と? さっき当主への態度はなんだ? といった周囲の視線などまったく気にしていない。
そして注目を集めるだけ集めると、たっぷり沈黙を待ってから
「私ハウンド・アロガンスハートはステラ様を伴侶に迎えるつもりです。ステラ様の許しさえあれば」
何の音もない一瞬の静寂の後、一斉にどよめきが走る。
この場に集められた者はブリジットとハウンドの婚約発表だと思っていた、というのもある。
しかしどよめきの大部分はハウンドの家名だ。
アロガンスハート。
どういうことだと皆が顔を見合わせる。
「アロガンスハートってことはハウンド殿が、あの?」
「アロガンスハート一度落ちぶれたアロガンスハート侯爵家を立て直した天才、アロガンスハートの嫡子だろう」
「まあ、あの方が……」
アロガンスハート家は辺境守備を主とする、建国当初から王家とつながりのある由緒正しい侯爵家だ。
元々貴族としての付き合いはほぼなく、かつてステラとハウンドが出会ったバーンズ家のパーティー以降社交界には全く顔を出していない。
だから、みんな忘れていた。
アロガンスハート家に子供がいたことを。
正確には知っている人も覚えている人もいたのだが、バーンズ家で見た子供が今のハウンドに全く結びつかなかったのだ。
アロガンスハートは領民優先の気質故に長らくかなり慎ましい生活をしており、話題に上ることもなかった。
ただ、ここ数年跡取り息子が商才を発揮してかなり羽振りがいいと噂はあった。
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