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そこにいたのは美しい少女だった。
ブライアンは見惚れて動きを止まってしまった。
「ブライアン?」
「あっ、ああ。ちゃんと着付けできてる」
「良かったわ」
そうしておかしい所がない事を確かめた彼女はややためらうような、恥じらうような態度で精霊の王を呼ぶ。
「あの、エレス。どう……かしら」
リリアが語りかけると空気を揺らして精霊王が現れた。
精霊王はあらゆる生物が見惚れるであろう笑顔を、ただ一人の乙女に向ける。
「その姿も愛らしいな、リリア。確かに人の技は良いものだ」
精霊王はブライアン自身は気に入らなくともその技術に関しては区別しないようだ。
精霊王が簡単に人の制作物を褒めるのはやめた方が良いのではないか、とブライアンは思う。
大精霊や精霊王でなくとも、一般的な精霊に愛された職人の大体は王宮お抱え技術者として生きた国宝扱いを受ける。
敬意をこめて「精霊の兄弟(フラーテル)」とも呼ばれる存在は、全職人の憧れであり到達点なのだ。
だから、精霊王が褒めるとまでいかずとも制作物を認めるだけでその職人は国を挙げての重用になるだろう。
辺鄙な片田舎の、一人前でもなくまだまだ見習いのがリメイクしただけのドレスであっても、だ。
しかし精霊王は人間側の都合などどうでもよいのだろう。
実際褒めているのはドレスではなく「ドレスを着たリリア」なのだから、ブライアンは聞かなかった事にする事にした。
(そしていつか何も知らない人間の前で賞賛を口にして、困ってしまえばいい)
精霊王に対するちょっとした嫌がらせの気持ちから口を噤んだブライアンは、徐々に図太くなってきているなと自分でも感じていた。
ともかく今はリリアの仕上げをしなければならない。
「後ろ向いて動かないでくれよ。今から帽子とレースを整えるから」
ブライアンはドレスと同じ色合いの、腰まで垂れた布が揺れるブーゲルフードでリリアの髪を隠す。
器用に前髪を帽子の下にしまい込んで、薄いレースを目元側に垂らし、フードに縫い付けた。
リリアの視界は若干悪い。
だが他人からレース越しに見るリリアの瞳は黒というより濃い色の瞳という印象だ。
赤い紅を引けば白い肌と桃色のドレスが奇妙な一体感を見せ、不思議と目を離せない。
その完成度に呆けていると精霊王が口を出す。
「隠すのか? 勿体ないな」
「エレス……。ありがとう。その言葉だけで十分よ」
この髪も瞳も忌むべきものだと信じて疑わなかった。
精霊が王に気を利かせた結果の人間と精霊の価値観のすれ違いだっとしても、真っすぐに褒められるとやはり嬉しく、照れてしまう。
「ブライアン?」
そこに、高い声が店の奥から響く。いきなりの事にリリアは体を硬直させ、エレスはリリアの肩に手をおいたまま姿を消す。
見えずともその温もりはリリアを落ち着かせるのに役に立った。
ややもしてブライアンとよく似た金髪の結い上げた女性が顔を出す。
多少年月は感じたが、まだ精霊の事も知らないほど幼い頃、村の子供たちと遊んでいた時に見たブライアンの母親だ。
ブライアンの母親は基本的に店番をしているようで、リリアはあまり会ったことがない。
リリアの記憶の中では表立って嫌な顔もしなかったと思うが、いい顔もしてない人だった。
「誰かいるの?」
「……友達の準備を手伝ってたんだよ」
「あんたが? 珍しいわね」
ブライアンの母は着飾り髪と目を隠したリリアを見止め、そこでははーんとしたり顔になる。
「……あ、そういう事ね。時間はあるのに手伝いを前倒しで終わらせて変だと思ったら。ま、楽しんでいらっしゃい、お嬢さん」
にこっと笑って手を振る。
「別にそういうんじゃねーよ!」
「はいはい。そんな事言ったら女の子が悲しんじゃうわよ」
「え、っと」
「ほら、祭りに行くんだろ」
ブライアンに押し出されるような形で戸惑うリリアは店を出た。
そのまま店の影になる場所で一度止まる。
いつの間にか日は昇っていたようで、浮足立ったような人の声や気配もしていた。
「周り見てみろよ」
「え? わ……っ」
ブライアンは見惚れて動きを止まってしまった。
「ブライアン?」
「あっ、ああ。ちゃんと着付けできてる」
「良かったわ」
そうしておかしい所がない事を確かめた彼女はややためらうような、恥じらうような態度で精霊の王を呼ぶ。
「あの、エレス。どう……かしら」
リリアが語りかけると空気を揺らして精霊王が現れた。
精霊王はあらゆる生物が見惚れるであろう笑顔を、ただ一人の乙女に向ける。
「その姿も愛らしいな、リリア。確かに人の技は良いものだ」
精霊王はブライアン自身は気に入らなくともその技術に関しては区別しないようだ。
精霊王が簡単に人の制作物を褒めるのはやめた方が良いのではないか、とブライアンは思う。
大精霊や精霊王でなくとも、一般的な精霊に愛された職人の大体は王宮お抱え技術者として生きた国宝扱いを受ける。
敬意をこめて「精霊の兄弟(フラーテル)」とも呼ばれる存在は、全職人の憧れであり到達点なのだ。
だから、精霊王が褒めるとまでいかずとも制作物を認めるだけでその職人は国を挙げての重用になるだろう。
辺鄙な片田舎の、一人前でもなくまだまだ見習いのがリメイクしただけのドレスであっても、だ。
しかし精霊王は人間側の都合などどうでもよいのだろう。
実際褒めているのはドレスではなく「ドレスを着たリリア」なのだから、ブライアンは聞かなかった事にする事にした。
(そしていつか何も知らない人間の前で賞賛を口にして、困ってしまえばいい)
精霊王に対するちょっとした嫌がらせの気持ちから口を噤んだブライアンは、徐々に図太くなってきているなと自分でも感じていた。
ともかく今はリリアの仕上げをしなければならない。
「後ろ向いて動かないでくれよ。今から帽子とレースを整えるから」
ブライアンはドレスと同じ色合いの、腰まで垂れた布が揺れるブーゲルフードでリリアの髪を隠す。
器用に前髪を帽子の下にしまい込んで、薄いレースを目元側に垂らし、フードに縫い付けた。
リリアの視界は若干悪い。
だが他人からレース越しに見るリリアの瞳は黒というより濃い色の瞳という印象だ。
赤い紅を引けば白い肌と桃色のドレスが奇妙な一体感を見せ、不思議と目を離せない。
その完成度に呆けていると精霊王が口を出す。
「隠すのか? 勿体ないな」
「エレス……。ありがとう。その言葉だけで十分よ」
この髪も瞳も忌むべきものだと信じて疑わなかった。
精霊が王に気を利かせた結果の人間と精霊の価値観のすれ違いだっとしても、真っすぐに褒められるとやはり嬉しく、照れてしまう。
「ブライアン?」
そこに、高い声が店の奥から響く。いきなりの事にリリアは体を硬直させ、エレスはリリアの肩に手をおいたまま姿を消す。
見えずともその温もりはリリアを落ち着かせるのに役に立った。
ややもしてブライアンとよく似た金髪の結い上げた女性が顔を出す。
多少年月は感じたが、まだ精霊の事も知らないほど幼い頃、村の子供たちと遊んでいた時に見たブライアンの母親だ。
ブライアンの母親は基本的に店番をしているようで、リリアはあまり会ったことがない。
リリアの記憶の中では表立って嫌な顔もしなかったと思うが、いい顔もしてない人だった。
「誰かいるの?」
「……友達の準備を手伝ってたんだよ」
「あんたが? 珍しいわね」
ブライアンの母は着飾り髪と目を隠したリリアを見止め、そこでははーんとしたり顔になる。
「……あ、そういう事ね。時間はあるのに手伝いを前倒しで終わらせて変だと思ったら。ま、楽しんでいらっしゃい、お嬢さん」
にこっと笑って手を振る。
「別にそういうんじゃねーよ!」
「はいはい。そんな事言ったら女の子が悲しんじゃうわよ」
「え、っと」
「ほら、祭りに行くんだろ」
ブライアンに押し出されるような形で戸惑うリリアは店を出た。
そのまま店の影になる場所で一度止まる。
いつの間にか日は昇っていたようで、浮足立ったような人の声や気配もしていた。
「周り見てみろよ」
「え? わ……っ」
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