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第6章 積もる砂糖は雪のよう88%
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眠りたくても中々寝付けない。
郁哉は何度も寝返りを打っていた。眠ろうと思えば思うほど、眠りは訪れないものだ。
(もう寝ないで起きていようかな)
一日二日寝なくともなんとかなる。けれど行きのように爆睡では七瀬に申し訳が立たない。
天井を見上げ溜息を吐くと、ぼんやりと橙色の豆電球を見つめる。
小さな灯りが陰るのを不思議に思い、もしや眠りが訪れたのでは? と……一瞬考えるが、パチパチと瞬きを繰り返すと影が呟いた。
「起きていたの?」
「──えっ……なっ──ふぐっ!」
「こら、大声出さない」
口を尾鷹の掌が覆い叫ばずに済んだが、どうして自分の部屋に居るのか聞かずにはいられない。襖が開く音はおろか、足音さえ聞こえなかったのだ。
息苦しさにパンパンと尾鷹の腕をを叩くと、掌を外し「寒っ」と言いながら、ちゃっかり布団の中に入り込んでくる。
郁哉を湯たんぽのように背後からすっぽり抱え込むのは、もはや日常的な光景だ。
「気配消すなよ。びっくりするじゃんか。で、どうしたの?」
「透のいびきが酷いんだ。眠れないから避難」
「それなら布団出すよ。狭いだろ?」
「これでいい……郁哉温かいし」
「うわっ! 那津凄え足冷たっ!」
「でしょ? だから郁哉が必要。ほら手も……」
「ヒイィッ~~!」
あまりの冷たさに身体が跳ね上がる。腹の辺りを彷徨う尾鷹の掌が素肌に触れたからだ。
奪われた体温が尾鷹の掌と馴染み出し、やがて冷たさはなくなっていく。
「体温泥棒だ」
「体温だけで済むんだから可愛いでしょ」
「なにそれ。全然可愛くないけど」
「そう? でも安心して。奪うのは体温だけ」
そう言いながら尾鷹はうなじにキスを落とす。それだけで郁哉は身体が火照り出すから質が悪い。
掌が腹から胸に回り小さな尖りに触れてくる。
「──う……っ、ん……馬鹿っ」
「ん? 体温奪ってるだけなのにエッチな声出さないでよ」
「なら、胸はやめろッ」
「はいはい。やめますよ」
そう言うなり尾鷹は悪戯を終わらせ郁哉をギュッと抱き締めた。寒かったはずの布団は二人の体温ですぐに温かくなっていく。
密着することには慣れてきた郁哉だが、ここが実家だからか妙に落ち着かない。シーンと静まり返る室内に古い壁掛け時計の秒針の音と、心音だけが響いている。
「ねぇ……郁哉……」
「んー?」
「俺は郁哉を友達だとは思っていない……」
不意に首筋に投げられた言葉に、郁哉は目を見開いて固まってしまう。ドクドクと脈打っていた心音が、パタリと止まったような気がした。
続きを待てど尾鷹が声を発することはなかった。ただ規則正しい寝息が首を擽るだけだ。
(…………那津さん……続きは? 焦らしプレイですか? やっぱりセフレなんですか? 俺打たれ強いと思わない? 全くさ意地が悪いよ……でもさ……)
『す』『き』と唇を開閉する。それを尾鷹に届ける度胸など今の郁哉は持ち合わせていない。
はぁ……と憂鬱そうに溜息を吐き出すと、そっと瞼を閉じる。
今日は本気で眠れそうにない。そう思いながらも温かい体温に包まれていると、意識は自然に遠のいていくのだった──。
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