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「……君……具合でも悪いの?」
通り過ぎるのをじっと待つつもりの俺に、心配そうな柔らかな男の声が掛けられた。
顔バレしたくない一心でブンブンと首を横に振るが、一向に去ろうとしてくれない。見ず知らずの相手に対して、なんとお人好しなのだろうか。
「もう、森永君! その人、大丈夫って言ってるよ」
俺はなにも言ってはいない。
そして元彼に対して、その人扱いはいかがなのだろうか。
男が誰なのかを知ると余計に俺は居心地が悪くなり、お願いだから優等生よろしくいい人しないでくれと心の中で呟く。けれど優等生はどう転んでも優等生なのだ。窺うように屈み込み俺の肩にそっと手を置いてきた。
「無理しないほうがいいよ? 遠慮しないで」
吐き気を催している訳でもないが、背中を甲斐甲斐しく撫でてくる森永。そんな態度に芹香はいらただしげだ。
「ねぇ~、行こうよ~」
「芹香ちゃんって冷たいね。大丈夫って言ってる人の方が大丈夫じゃないんだよ。僕は彼を保健室連れて行くから、先に帰りなよ。話はまた今度ゆっくりね?」
「ふんっ、いいわよ。森永君の意地悪! 絶対よ? 今度ゆっくりだからね!」
今まで聞いたことのない芹香の甘える声と、優しさのない言葉に知らない人物ではないかと啞然とする。もっとしとやかで柔らかい印象だったはずだ。
パタパタと小走りに遠のく足音にホッとする。森永も同じようにホッとした様子で、深いため息を吐いていた。
「……立てる?」
「──あのさ……具合、本当に悪くないんだ。できれば放置して欲しいところなんですが……」
尖った声でボソリと呟くと、ピタリと背中に回されていた手が止まる。
「そうなの? ひと言も喋らないから、結構重症なのかなって思ったんだけど」
「……重症。まぁ、ある意味重症だけど……なぁ、彼女追い掛けなくていいのかよ」
「彼女って、さっきの子のこと? 違うんだ……あの子はなんというか……」
芹香との付き合いを隠そうとしているのか、歯切れの悪い優等生に思わずカッとなり大きな声が中庭に響いた。
「芹香と付き合ってんだろ!? しらばっくれるなよッ!」
「えっ? いや、彼女じゃないよ。……もしかして君──棉紅利君?」
躊躇うようにそう言われ咄嗟に顔を上げると、目の前には爽やかイケメンのドアップ。
距離の近さに思わず目を拡げガチガチに固まる俺に、森永も驚愕の表情で視線を合わせていた。
「なっ、なんで俺のこと知って……」
「ああ、ほら芹香ちゃん。君、彼女と付き合っていたんだよね? 彼女から色々相談されていたから」
「相談だって?」
別れるための打算を二人でイチャイチャしながらしていたということなのか。
悪気もなくそう言う森永に、怒りが沸々と湧いてくる。
「──くッ、ああそうだよ。お前に横から掻っ攫われたけどな!」
通り過ぎるのをじっと待つつもりの俺に、心配そうな柔らかな男の声が掛けられた。
顔バレしたくない一心でブンブンと首を横に振るが、一向に去ろうとしてくれない。見ず知らずの相手に対して、なんとお人好しなのだろうか。
「もう、森永君! その人、大丈夫って言ってるよ」
俺はなにも言ってはいない。
そして元彼に対して、その人扱いはいかがなのだろうか。
男が誰なのかを知ると余計に俺は居心地が悪くなり、お願いだから優等生よろしくいい人しないでくれと心の中で呟く。けれど優等生はどう転んでも優等生なのだ。窺うように屈み込み俺の肩にそっと手を置いてきた。
「無理しないほうがいいよ? 遠慮しないで」
吐き気を催している訳でもないが、背中を甲斐甲斐しく撫でてくる森永。そんな態度に芹香はいらただしげだ。
「ねぇ~、行こうよ~」
「芹香ちゃんって冷たいね。大丈夫って言ってる人の方が大丈夫じゃないんだよ。僕は彼を保健室連れて行くから、先に帰りなよ。話はまた今度ゆっくりね?」
「ふんっ、いいわよ。森永君の意地悪! 絶対よ? 今度ゆっくりだからね!」
今まで聞いたことのない芹香の甘える声と、優しさのない言葉に知らない人物ではないかと啞然とする。もっとしとやかで柔らかい印象だったはずだ。
パタパタと小走りに遠のく足音にホッとする。森永も同じようにホッとした様子で、深いため息を吐いていた。
「……立てる?」
「──あのさ……具合、本当に悪くないんだ。できれば放置して欲しいところなんですが……」
尖った声でボソリと呟くと、ピタリと背中に回されていた手が止まる。
「そうなの? ひと言も喋らないから、結構重症なのかなって思ったんだけど」
「……重症。まぁ、ある意味重症だけど……なぁ、彼女追い掛けなくていいのかよ」
「彼女って、さっきの子のこと? 違うんだ……あの子はなんというか……」
芹香との付き合いを隠そうとしているのか、歯切れの悪い優等生に思わずカッとなり大きな声が中庭に響いた。
「芹香と付き合ってんだろ!? しらばっくれるなよッ!」
「えっ? いや、彼女じゃないよ。……もしかして君──棉紅利君?」
躊躇うようにそう言われ咄嗟に顔を上げると、目の前には爽やかイケメンのドアップ。
距離の近さに思わず目を拡げガチガチに固まる俺に、森永も驚愕の表情で視線を合わせていた。
「なっ、なんで俺のこと知って……」
「ああ、ほら芹香ちゃん。君、彼女と付き合っていたんだよね? 彼女から色々相談されていたから」
「相談だって?」
別れるための打算を二人でイチャイチャしながらしていたということなのか。
悪気もなくそう言う森永に、怒りが沸々と湧いてくる。
「──くッ、ああそうだよ。お前に横から掻っ攫われたけどな!」
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