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第2幕 逃亡劇の果てに
02
しおりを挟む放課後、悠斗が俺の元にやって来て、言いにくそうに謝ってきた。
「ごめん瀬菜、一緒に帰りたかったけど、荷物持ちが足りないらしくて遅くなりそう」
「あー、この前言ってた夕涼み会の? 俺待っているけど?」
「うん、でもどれぐらい時間かかるか分からないから……」
悠斗はそう言うと、この世の終わりだとでもいうほどに落ち込みを見せていた。そんなに嫌なら断ればいいものを、悠斗は困った人を見捨てられないところがある。今週末に行われる夕涼み会は、悠斗は役員ではないが、クラスの女子に困ったときお願いをされていたのだ。
「もうすぐ本番だしな。男手も欲しいんだろ。俺は村上達と帰るし、悠斗は頑張れ」
「うん、瀬菜は気をつけて帰るんだよ? なにかあったら連絡ちょうだい?」
ポンポンと頭を撫で微笑む悠斗の顔は少し寂しそうだ。
うしろ姿を見送るが、その背中もどこか哀愁が漂っている。
「本当に、お人好しだよな……」
たまにこんな風に一緒に帰れないことがあるが、その度に俺に謝罪をわざわざ伝えに来る。電話やメールで済むというのにマメな性格である。
「菜っちゃんが王子と一緒じゃないって、なんか違和感だよねー」
「確かに、やなっちゃんは王子とワンセットでシックリするよね」
「柳ちゃん、王子に捨てられても、俺らが居るからね~♪」
三馬鹿トリオに揶揄われながら帰宅する。
「……お前らって、俺らのことなんだと思ってんだよ! 悠斗は幼馴染みだし、たまたま家が隣で、俺ほとんど家じゃひとりだから、家族ぐるみで仲良いっつーか……まぁ、兄ちゃんみたいな感じ? 俺のが生まれたの早いけど……」
ぷすんと唇を尖らせながら、一括りにされたことに抗議の声をあげる。
「ふーん。でも王子ってさ、あんなモテるのに彼女作らないよね~」
俺の言い分に興味なさげに村上が言うと、悠斗に彼女が居ないことを不思議そうにしていた。辻も、奥井もそれに同調する。
「俺もそれ思った!」
「柳ちゃんと王子って、そーゆー話とかしないの?」
「しないってか……結構一緒に居るけど、最近じゃ見たことない気がする」
「昔は居たってこと?」
「そりゃあのルックスじゃん。居るときもあっただろ。あれでできなきゃ、俺ら一生できねぇ」
「ハハッ、確かに! あーあ、俺も彼女欲しいーー!」
口々に悠斗の話から、自分に彼女が欲しいと話題が切り替わっていく。
皆そういう年頃だ。
彼女かぁー……。
悠斗って俺が頼りないから世話焼いちゃうんだろうし、それどころじゃないんだろうな。
もし俺に彼女ができれば、あいつもひとりや二人、できるんだろうな……。
「そういえば、今度一緒に遊ぼうってS女の子と連絡交換したんだ。今週の休み、向こうの予定が空いていたらプチ合コンしね?」
村上の提案に辻と奥井が目の色を変えて色めき立つ。
行動的だなーと、俺は他人事のように上の空で聞いていた。
「なにそれ、行く行く! 死んでも行く!」
「馬鹿お前、死んだら行けねぇだろ⁉︎ 夏休み前に彼女できたらイベント盛り沢山だし!」
「だよね~♪ 死なずに来いよ? 柳ちゃんはどうする? たまには気分転換がてら来てみたら?」
村上が俺に視線を向け誘ってくる。
「へっ? ……俺もいいの?」
「うんうん。当たり前じゃん。てかなんなら王子も一緒でいいよ! そのほうが女の子集まりそうだし!」
悠斗呼んだら、女子全員悠斗に流れると思うけど……。
分かってんのかな……。
まぁ、そこそこみんなイケメンだけどさ……。
「行くか分からないけど、悠斗にも一応聞いてみる。日程決まったら教えて?」
約束に盛り上がりをみせると、また明日とみんなと別れ帰宅する。
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