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第3幕 溢れる疑惑
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「佐伯、充電器」
「はいはい。オーナー」
画面を眺めていると、祐一さんは佐伯さんに充電器を持ってくるように指示を出す。二人になると、祐一さんは俺に言った。
「悠斗君と、なにかあったんだよね?」
真っ直ぐに俺を見つめてくる祐一さんの双眸に耐えられず、瞳を逸らし俯く。
「話したくなかったら言わなくてもいいよ? 気が済むまでここに居てくれて構わないから」
ブンブンと首を横に振り、自分だけでは処理できそうにない事態を打開するため、経験豊富な祐一さんから意見を聞くことにした。
「俺、悠斗と恋人になったと思っていたけど……違かったみたいで……」
ここに来るまでの経緯を話すと、黙って聞いてくれていた祐一さんは、穏やかな声で言った。
「悠斗君が瀬菜君以外を好き? どう考えてもそれは絶対あり得ないよ」
「なら、多澤と密会してるのは、どうしてですか? 隠しているってことは、やましいことがあるからですよね⁉︎」
マグカップをギュと握りしめ、瞳を泳がせながら唇を噛み締める。
「それはなにかの間違えじゃないかな? だって悠斗君だよ? 僕は彼がそんな不貞をするとは思えないな。悠斗君に聞いたの?」
「──ッ、そんなの聞けない。それに、家を出る前、多澤に好きって……愛してるからって……はっきりそう言ってッ!」
興奮気味に言う俺に、佐伯さんが控えめな声をかけてくる。
「失礼……話の途中で悪い。祐一、そんな悠斗君から電話が来ているんだが……」
私服に着替えた佐伯さんが祐一さんにスマホを渡す。祐一さんと視線が合い、俺は青ざめた顔で首を左右に何度も振っていた。その様子に祐一さんは一つ頷くと、陽気な声で話し始めた。
「もしも~し、悠斗君? うん……この間? ああいいのいいの! それでね、悠斗君ってぶっちゃけ誰が好きなの?」
祐一さんの放った言葉に、心臓が跳ね上がる。心の準備もまだできていない。目を丸めながら祐一さんの隣に立っている佐伯さんの顔を見ると苦笑いしており、俺ひとりで狼狽えていた。
「……えっ? 瀬菜君? 居るけど? うん……なら、来たときに誰が好きか教えてね! うん、はいはーい」
通話を早々に終了させると、祐一さんはニッコリ笑いかけ伝えてきた。
「悠斗君、三十分ぐらいで来られるって! へへへっ!」
「祐一……お前解決するつもりあるのか? もう少しオブラートに包んだらどうだ」
「失礼だな! だって悠斗君だよ? 彼は賢いんだ。隠したってすぐに瀬菜君がここに居るってバレるよ。それに……あんなに必死ってことは、そういうことでしょ? 細かい話はあとあと!」
他人事にあっけらかんと言う祐一さん。
「……祐一さん……どうして!」
「逃げていてもしょうがないでしょ? 瀬菜君だけの話じゃ問題解決できないし、悠斗君の言い分も聞く必要があると僕は判断した。瀬菜君はこのままでいいの?」
祐一さんが言うことはもっともだ。
「それは……そうですけど……もし俺の思っていた通りだったら……」
「ねぇ、瀬菜君。疑ってばかりじゃなにも始まらない。そうでしょ?」
信頼すること。基本的なこと。
それもできない俺は、恋人として失格なのかもしれない。
そんなことだから悠斗は……。
「……はい……」
渋々と頷く。けれど悠斗を目の前にしてちゃんと話ができるのだろうか。悠斗は本当のことちゃんと話してくれるのか。真実を聞いて自分が保ていられるか、心配ばかりが募っていく。
ソワソワしている自分とは対象的に、祐一さんはお腹をさすりながら佐伯さんにお願いを口にする。
「佐伯ー、お腹減った。なにかおつまみー」
「はいはい……」
「はいはい。オーナー」
画面を眺めていると、祐一さんは佐伯さんに充電器を持ってくるように指示を出す。二人になると、祐一さんは俺に言った。
「悠斗君と、なにかあったんだよね?」
真っ直ぐに俺を見つめてくる祐一さんの双眸に耐えられず、瞳を逸らし俯く。
「話したくなかったら言わなくてもいいよ? 気が済むまでここに居てくれて構わないから」
ブンブンと首を横に振り、自分だけでは処理できそうにない事態を打開するため、経験豊富な祐一さんから意見を聞くことにした。
「俺、悠斗と恋人になったと思っていたけど……違かったみたいで……」
ここに来るまでの経緯を話すと、黙って聞いてくれていた祐一さんは、穏やかな声で言った。
「悠斗君が瀬菜君以外を好き? どう考えてもそれは絶対あり得ないよ」
「なら、多澤と密会してるのは、どうしてですか? 隠しているってことは、やましいことがあるからですよね⁉︎」
マグカップをギュと握りしめ、瞳を泳がせながら唇を噛み締める。
「それはなにかの間違えじゃないかな? だって悠斗君だよ? 僕は彼がそんな不貞をするとは思えないな。悠斗君に聞いたの?」
「──ッ、そんなの聞けない。それに、家を出る前、多澤に好きって……愛してるからって……はっきりそう言ってッ!」
興奮気味に言う俺に、佐伯さんが控えめな声をかけてくる。
「失礼……話の途中で悪い。祐一、そんな悠斗君から電話が来ているんだが……」
私服に着替えた佐伯さんが祐一さんにスマホを渡す。祐一さんと視線が合い、俺は青ざめた顔で首を左右に何度も振っていた。その様子に祐一さんは一つ頷くと、陽気な声で話し始めた。
「もしも~し、悠斗君? うん……この間? ああいいのいいの! それでね、悠斗君ってぶっちゃけ誰が好きなの?」
祐一さんの放った言葉に、心臓が跳ね上がる。心の準備もまだできていない。目を丸めながら祐一さんの隣に立っている佐伯さんの顔を見ると苦笑いしており、俺ひとりで狼狽えていた。
「……えっ? 瀬菜君? 居るけど? うん……なら、来たときに誰が好きか教えてね! うん、はいはーい」
通話を早々に終了させると、祐一さんはニッコリ笑いかけ伝えてきた。
「悠斗君、三十分ぐらいで来られるって! へへへっ!」
「祐一……お前解決するつもりあるのか? もう少しオブラートに包んだらどうだ」
「失礼だな! だって悠斗君だよ? 彼は賢いんだ。隠したってすぐに瀬菜君がここに居るってバレるよ。それに……あんなに必死ってことは、そういうことでしょ? 細かい話はあとあと!」
他人事にあっけらかんと言う祐一さん。
「……祐一さん……どうして!」
「逃げていてもしょうがないでしょ? 瀬菜君だけの話じゃ問題解決できないし、悠斗君の言い分も聞く必要があると僕は判断した。瀬菜君はこのままでいいの?」
祐一さんが言うことはもっともだ。
「それは……そうですけど……もし俺の思っていた通りだったら……」
「ねぇ、瀬菜君。疑ってばかりじゃなにも始まらない。そうでしょ?」
信頼すること。基本的なこと。
それもできない俺は、恋人として失格なのかもしれない。
そんなことだから悠斗は……。
「……はい……」
渋々と頷く。けれど悠斗を目の前にしてちゃんと話ができるのだろうか。悠斗は本当のことちゃんと話してくれるのか。真実を聞いて自分が保ていられるか、心配ばかりが募っていく。
ソワソワしている自分とは対象的に、祐一さんはお腹をさすりながら佐伯さんにお願いを口にする。
「佐伯ー、お腹減った。なにかおつまみー」
「はいはい……」
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