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第16幕 新たな決意
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二人の甘い空気の中に、遠慮した控え目な咳払いが聞こえてきた。
「──う、ううんッ! えっと……そろそろ入っていい?」
ビクンッと肩を跳ねさせ声のほうへと顔を向けると、俺達の様子を見ていたらしい実千流と環樹先輩が、教室の入り口に立っていた。
気配を殺していた二人に、悠斗も俺も全く気付いておらず、いつからそこに居たのだと焦ってしまう。
「──よっ、よう! 以外に早かったな!」
しどろもどろに矢継ぎ早にそう言うと、実千流が顔を真っ赤にしながら上擦った声をあげる。
「……はっ早い⁉ 変な言い方しないでよ!」
「先輩って早いんですか?」
「やめて~王子。早くないよ!」
どの辺りから見られてたのやら。
お互いに気まずい空気だ。
「荷物取りに来ただけだよ」
「そっか。俺達もそろそろ帰るとこ」
聞きたいことは山ほどあるが、二人が一緒ということは、丸く修まったのだろう。実千流も涙を収め、顔付きは恥じらいながらも嬉しそうである。
実千流が帰り支度をしている間、先ほどぞんざいに扱い過ぎた俺達は先輩をもてなしていた。
「先輩、卒業しても学校に来そうだよな」
「まぁ、たまには来ないと心配だからね~♪」
「心配なのは生徒会が……って訳じゃなさそうですけど」
悠斗が皮肉交じりに言うと、先輩はカラカラと笑う。
「そういう言い方する~? ……あいつのこと頼んだよ。騒がしいけど、頑固で頑張り屋だからね」
「それ、分かります。瀬菜に似てるところあるし」
「そっかなー。似てるかな? 俺、実千流みたいに頭いいのも似たら良かったなー」
「ははっ……でも、姫乃ちゃん最近成績良くなったよね~。期末は一気に点数上がったんでしょ?」
「うん……まぁ、俺も先輩が行く大学受けるつもりだからさ。頑張らないと……」
「おお、なら大学でも後輩になるのか。それは今から楽しみだね~。三年なんてあっという間だぞ? 大いに高校生活楽しみたまえよ~」
環樹先輩は大きく伸びをすると、「制服着てまた学校来よ~♪」など、ありえそうなことを言う。そんな先輩に実千流は不貞腐れた様子で言った。
「俺には女装するなとか言うのに、卒業しても制服着るとかあり得ない」
「え~、女装と制服コス一緒にしないでよ~」
いつも通りの二人の掛け合い。毎日見ていた風景も、見納めだと思うとやっぱり寂しい。
「先輩……。二年間、いっぱい助けてくれてありがとう!」
俺の言葉に先輩はキョトンとすると、笑顔を返してくれた。それは、心から溢れるような自然なもので……。
「姫乃ちゃんと王子には捲き込まれてばかりだったけど、楽しかったよ。また事件が起きたら呼んでよね♪」
「……事件と言えば……先輩って、瀬菜のこと結局す──」
悠斗が言い終わる前に、先輩は慌てて口を塞いだ。
「王子~♪ それは今言うことじゃないよ~。まぁ……あれは、王子をからかってただけじゃん? 余裕ぶってて余裕ない王子って、な~んかキュンキュンするんだよね~♪」
「……相変わらず最低でキモイですね」
「なに? 瀬菜と環樹って、なにかあったの?」
「……いや、なにも……実千流が気にすることじゃない」
三人でごまかすと、実千流は頬を膨らませる。
「えーー、怪しいんだけど! 白状してよー!」
「こらっ! 引っつくな! もう、帰るぞ!」
環樹先輩の真意は謎だが、キスされたこともあったし、付き合おうとも言われた。俺や悠斗をからかっていたにせよ、実千流には内緒にしていたほうが良さそうだ。
聞くまで離さない素振りを見せる実千流を、環樹先輩に押しつけて学校をあとにした。
「──う、ううんッ! えっと……そろそろ入っていい?」
ビクンッと肩を跳ねさせ声のほうへと顔を向けると、俺達の様子を見ていたらしい実千流と環樹先輩が、教室の入り口に立っていた。
気配を殺していた二人に、悠斗も俺も全く気付いておらず、いつからそこに居たのだと焦ってしまう。
「──よっ、よう! 以外に早かったな!」
しどろもどろに矢継ぎ早にそう言うと、実千流が顔を真っ赤にしながら上擦った声をあげる。
「……はっ早い⁉ 変な言い方しないでよ!」
「先輩って早いんですか?」
「やめて~王子。早くないよ!」
どの辺りから見られてたのやら。
お互いに気まずい空気だ。
「荷物取りに来ただけだよ」
「そっか。俺達もそろそろ帰るとこ」
聞きたいことは山ほどあるが、二人が一緒ということは、丸く修まったのだろう。実千流も涙を収め、顔付きは恥じらいながらも嬉しそうである。
実千流が帰り支度をしている間、先ほどぞんざいに扱い過ぎた俺達は先輩をもてなしていた。
「先輩、卒業しても学校に来そうだよな」
「まぁ、たまには来ないと心配だからね~♪」
「心配なのは生徒会が……って訳じゃなさそうですけど」
悠斗が皮肉交じりに言うと、先輩はカラカラと笑う。
「そういう言い方する~? ……あいつのこと頼んだよ。騒がしいけど、頑固で頑張り屋だからね」
「それ、分かります。瀬菜に似てるところあるし」
「そっかなー。似てるかな? 俺、実千流みたいに頭いいのも似たら良かったなー」
「ははっ……でも、姫乃ちゃん最近成績良くなったよね~。期末は一気に点数上がったんでしょ?」
「うん……まぁ、俺も先輩が行く大学受けるつもりだからさ。頑張らないと……」
「おお、なら大学でも後輩になるのか。それは今から楽しみだね~。三年なんてあっという間だぞ? 大いに高校生活楽しみたまえよ~」
環樹先輩は大きく伸びをすると、「制服着てまた学校来よ~♪」など、ありえそうなことを言う。そんな先輩に実千流は不貞腐れた様子で言った。
「俺には女装するなとか言うのに、卒業しても制服着るとかあり得ない」
「え~、女装と制服コス一緒にしないでよ~」
いつも通りの二人の掛け合い。毎日見ていた風景も、見納めだと思うとやっぱり寂しい。
「先輩……。二年間、いっぱい助けてくれてありがとう!」
俺の言葉に先輩はキョトンとすると、笑顔を返してくれた。それは、心から溢れるような自然なもので……。
「姫乃ちゃんと王子には捲き込まれてばかりだったけど、楽しかったよ。また事件が起きたら呼んでよね♪」
「……事件と言えば……先輩って、瀬菜のこと結局す──」
悠斗が言い終わる前に、先輩は慌てて口を塞いだ。
「王子~♪ それは今言うことじゃないよ~。まぁ……あれは、王子をからかってただけじゃん? 余裕ぶってて余裕ない王子って、な~んかキュンキュンするんだよね~♪」
「……相変わらず最低でキモイですね」
「なに? 瀬菜と環樹って、なにかあったの?」
「……いや、なにも……実千流が気にすることじゃない」
三人でごまかすと、実千流は頬を膨らませる。
「えーー、怪しいんだけど! 白状してよー!」
「こらっ! 引っつくな! もう、帰るぞ!」
環樹先輩の真意は謎だが、キスされたこともあったし、付き合おうとも言われた。俺や悠斗をからかっていたにせよ、実千流には内緒にしていたほうが良さそうだ。
聞くまで離さない素振りを見せる実千流を、環樹先輩に押しつけて学校をあとにした。
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