王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
509 / 716
第16幕 新たな決意

08

しおりを挟む
***


 春休みに突入して早々、悠斗から『助けて』と、可愛らしい泣き顔ワンコスタンプでメッセージが送られてきた。
 休み初日は惰眠を貪ろうと計画していたが、メッセージを見るなり飛び起き、寝癖がついたまま俺はお隣へと駆け込んだ。

「早朝からごめん、瀬菜。起こしちゃったよね」
「うん、平気だ」

 若干フラフラする俺の頭に悠斗の視線が留まる。

「寝癖……凄いね? ……可愛いけど」

 歩くたびに揺れるアホ毛のどこが可愛いのやら。
 悠斗と二階に向かい、一つの扉を開けて俺は足を留めた。というより、前に進むことができなかったと言ったほうがいいかもしれない。
 そんな俺に、か細く今にも泣きそうな声がかかった。

「せっちゃん、いつもはこうじゃないのよ? ちょっと収集付かなくて。本当に朝早くから呼び出してごめんなさい……」
「そ、そうなんだ……ははは、全然平気。俺、暇だし。それよか美久さん体調悪いんだよね?」
「そうなの。つわりがこんなに大変だとは思わなかった……」

 元々細身の美久さんは、ご飯もあまり食べられていないようで、以前よりさらに痩せてしまっていた。そんな訳で暇人の俺が召集されたのである。
 おじさんは仕事で、男手が足りないと来たはいいが、俺に重い物など持てるはずもなく、結局大きな家具は義信さんと悠斗が移動していた。
 仕方なく俺はおばさんと二人で、細かい作業をすることになった。義信さんの荷物は少いが、美久さんの荷物が鬼のようで、片付けても片付けても次から次へと溢れてくる。片付けついでに、要らない物を選別するのに時間を食った。
 床が見えはじめた頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。

「はぁ~~……」
「ご苦労さま。疲れたよね」

 悠斗が作ってくれたかけ蕎麦をみんなで食べると、あとは自分達で対応すると、義信さんに何度もお礼を言われた。だしの効いた温かい蕎麦が身体に染み込み、疲れが一瞬吹き飛んだ。
 それでも悠斗の部屋で寛ぎながら落ち着くと、筋肉が悲鳴をあげ、あちこちが筋肉痛になっていた。

「ん~身体中痛い……」
「俺も。それに、埃っぽいよね」
「だな」
「一緒にシャワー浴びる?」

 パッと悠斗に視線を向けると、なんとも嘘くさい笑顔。一瞬肯定しそうになるが、危険を感じゴクンと唾を飲み込み抑え込む。

「……い、や、だ」
「そっか。じゃ行こう」
「なぁ、人の話し聞いてる?」
「うん。ほら、これじゃベッドに入れないでしょ? 瀬菜、寝癖ついたままだし」
「寝癖はもういいだろ⁉ どうせすぐに寝るんだから」
「休みだし、瀬菜夜更かしするでしょ?」
「家出ないから寝癖関係ねぇーし‼」
「俺が気になるから。はい、行くよー」

 悠斗の特技の一つ。既読スルーならぬ既言スルーだ。ズルズルと嫌がる俺を引きずり、浴室へと強制送還される俺でした……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

教育実習生

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:47

つがいの薔薇 オメガは傲慢伯爵の溺愛に濡れる

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,115

裏切りの蜜は甘く 【完結】

BL / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:415

ヘタレαにつかまりまして

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,745

【短編まとめ】おっさん+男前+逞しい受詰め合わせ

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:160

不倫相手は妻の弟

BL / 連載中 24h.ポイント:2,919pt お気に入り:67

恋は熱量

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:87

ハートの瞳が止まらない

BL / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:48

処理中です...