君と初恋をもう一度

さとのいなほ

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悩み

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 朝陽は悶々とした日々を送っていた。原因は分かりきっている。

「朝陽、そこ間違えてる」

 隣で勉強を教えてくれている瑞月だ。朝陽と瑞月ははれて恋人となったのだが、あの自然公園以降、瑞月の距離が以前にも増して近い。今もぴったりと肩を寄せて密着している。

「瑞月、近い……」
「え? ああごめん」

 それは無自覚なようで朝陽に指摘されると顔を赤くして離れていく。そしてまた時間が経つとすすす、とよって来るのだ。

「瑞月」
「え? あ……だ、だめ!」

 そういう雰囲気だと思って朝陽からアプローチをかけると瑞月は茹でダコのようになり、逃げてしまうのだ。

「じ、じゃあまた分からないところ合ったら呼んで。 部屋にいるから」
「待っ……!」

 脱兎のごとく朝陽の部屋から出ていってしまい、また逃げられたと肩を落とす朝陽だけが残された。

「お前マジか!」

 ゲラゲラと笑う洋介を恨めしげに睨む。

「お前は茉莉に告白できなかったくせに」
「そ、れは……言うな……」

 机に顔を突っ伏す洋介を見下ろしてふん、と鼻を鳴らした。放課後、茉莉だけがミスコンの件で後藤に呼び出されたため朝陽と洋介は学校近くのファーストフード店に来ていた。瑞月のことを相談できるのが洋介しかいないから朝陽から誘ったのだが早々に後悔していた。

「お前はいいよなあ……瑞月さんと付き合えてさあ……」

 洋介が不貞腐れたように言う。茉莉と二人で出かけた時、洋介はヘタレて告白ができなかったらしい。フラれたら友達ですらいられないという理由らしいが、二人が両片思いをしていることを知っている朝陽からすればもどかしい。

「付き合えても避けられてるんじゃな」

 溜め息をつく朝陽に洋介がポテトを突きつけて言う。

「焦りすぎなんじゃねえの?」
「そうなのか……?」
「そうだね。 付き合ってすぐに手を出すなんてありえない! ってクラスの女子が話してたぜ」
「じゃあ聞くぞ。 茉莉とお前が付き合ってるとしてだ。 部屋で二人きりの時、密着してくる茉莉に手を出さない自信はあるか? GOサインだと勘違いしないか?」
「それは……難しいな……てかなに、瑞月さんってそんな感じ?」
「まあ……」

 余計なことまで話してしまったと思ったが、だがここまで言わなければ朝陽の状態は分かってもらえないだろう。

「それがほぼ毎日だ。 流石にな」
「お、おおう……キツいな」
「だろう」

 告白された日以降、瑞月との距離は近いのにキスもできていない。あの時は瑞月からしてきたくせに朝陽からしようとすると逃げる。

「うーん、瑞月さんも恥ずかしいんじゃないか? よく分からんけど」
「そうなのか……?」
「まあ焦らず相手に身を委ねるのだ朝陽よ」
「何目線だ」
「そういえば今日は瑞月さんと買い物行かねえの?」
「今日大学の人達と飲み会なんだと」

 作り置きがあるからそれを温めて食べるよう朝のうちに言われていたのだ。

「ああ、なるほど。 酒って美味いのかな」
「さあ……でも父さんは飲む度に酒は飲むもんじゃ無いって言ってる」
「飲む度に言ってんのか」
「結局飲んでるんだよな。 まあ、だから美味いんじゃないか?」
「そっか。 ああ、そうだ。 また勉強会やろうぜ。 今度は俺んちで」
「いいけど。 いつもうちだったのに珍しいな」
「お前と瑞月さんがいちゃつくとこ見たくないんだよ」


 
 その日の夜。朝陽は瑞月が用意してくれていた夕飯を父親と食べて、部屋ではなくリビングで勉強をしていた。瑞月の帰りを待つためだ。時間は22時を回っている。テレビを見ていた父親も部屋へ戻り就寝した。朝陽も少し眠くなってきた。眠気覚ましにインスタントコーヒーを淹れる。
 22時半を過ぎ、鍵を開ける音と共に瑞月の声が響いた。

「ただいまーーー!」
 どん、という音が響いて何事かと玄関へ行くと瑞月が靴を脱ごうとして尻餅をついたらしい。きょとんとしている瑞月が振り返り、朝陽に気がつく。

「朝陽、ただいま!」

 酔っ払っているんだろう、見たことがないくらい顔を赤くした瑞月がへらへらと笑って手を振っている。

「どんだけ飲んだんだ」
「わかんない。 ねえ靴脱がして」

 言われるがまま、朝陽は瑞月の靴を脱がしてやる。すると今度は抱きつかれてそのまま床に押し倒された。

「ふふ、いい子……ねえチューしよ?」
「酒臭……待て、ここ玄関」
「ねえほら、チュー」
「瑞月……んん、んぅ!?」

 ぷんぷんと酒の臭いを放つ瑞月が唇を無理矢理合わせてくる。そしてあろうことか舌を朝陽の口の中に入れ込んできた。

「んん、んぅ……ふぅ……」

 息を漏らしながら瑞月は朝陽の口の中を舐め回す。瑞月の舌は熱く、唾液でドロドロとしていておかしな気分になりそうだった。

「んー……苦い……朝陽、コーヒー飲んだ?」
「ぷは……飲んだよ」
「俺も飲む」

 口を離した瑞月は朝陽を置いてフラフラとした足取りでリビングへ行く。自分用のマグカップを持った瑞月は追ってきた朝陽にん、と差し出した。

「あ?」
「淹れて?」

 小首を傾げて上目遣いでお願いをされる。

「自分でやればいいだろ」
「やだ。 朝陽が淹れたのが飲みたい」
「……分かった」

 瑞月をソファに座らせてコーヒーを淹れてやる。お湯は朝陽が沸かしたものの残りだから少しぬるくなっている。コーヒーの入ったマグカップを渡すと瑞月は喜んで飲んだ。だが酔いのせいか口元が緩くなっていてぼたぼたと唇の端からこぼしてシャツとズボンを汚してしまった。

「汚れちゃった……」
「ああ、何してんだ」

 瑞月からマグカップを取り上げる。拭くものが欲しいとティッシュを持ってくると瑞月がその場で服を脱ぎ始めていた。

「瑞月何してんだ」
「汚れちゃったから……寒い……」
「は? もう、今お前の服持ってくるからじっとしてろ」
「大丈夫……」

 瑞月はそう言うと洗面室に脱いだ服を放り投げて二階に上がった。相変わらず足元が覚束ないから朝陽も着いていく。
 これで自分の部屋に戻って寝てくれたらいい、そう思っていたが瑞月は朝陽の部屋に入った。下着だけの姿で瑞月は朝陽のベッドに潜り込んで、朝陽に手招きする。

「一緒に寝たらあったかいよ?」
「……お前、いい加減にしろ」
「朝陽?」

 朝陽の中でぶつんと何かが切れた。布団を剥ぎ取って瑞月の上に跨る。

「今まで散々人のこと避けてたくせになんなんだよ」
「朝陽……」
「俺のベッドに下着だけで寝て何も無いなんて考えてないよな?」
「……うん」

 瑞月はきゅっと手を握って顔を横に向けて、視線だけ朝陽によこす。

「……酔ってないと恥ずかしいから……ねえ朝陽いいよ。 エッチ、しよ?」
「…………ッ!」
「朝陽……ん、んぅ……ぁ、んんぅ」

 瑞月の顎を掴んでこちらを向かせて唇を重ねる。先程瑞月がしたように舌を差し込んで瑞月の口の中を撫で回す。上顎を擽ぐると気持ちいいようで、小刻みに瑞月の体が震えた。ねっとりとしたアルコール臭で朝陽も酔ってしまいそうだ。

(コイツ、今酔ってるんだよな……)

 口を離すととろんとした瞳で瑞月が朝陽を見つめる。

「朝陽?」
「やめだ」

放り投げた布団を拾って瑞月に被せ、自分も瑞月に背を向けるようにベッドに入る。

「瑞月が酔ってない時じゃ無いとダメだろ」
「朝陽……ごめんね、ありがと……」

 そう言って瑞月は寝てしまった。すうすうと規則正しい寝息が聞こえてきて、朝陽は大きく息を吐いた。格好つけたはいいが下着姿の瑞月が隣にいる状況で寝ていられる程、朝陽は図太くはなかった。リビングのソファで寝よう。そう決めてベッドから出ようとするとスウェットが引っ張られて動けなかった。見ると瑞月が掴んで寝てしまっていた。

「勘弁してくれ……」

 結局ここにいるしかなく、朝陽は寝不足のまま朝を迎えることになった。
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