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アリナ、存在改変危機を感じる1
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「どうやら、うまくお母様を騙せているようね」
「騙すって……」
部屋の中に二人っきりになると、ローラが満足げにそんなことを言う。
エルモレンコ公爵夫人のやさしい顔が頭に浮かび、アリナはギュッと胸の前で手を握った。
「そんな言い方しないでよ──」
騙してることには変わりないが、不満げに言い返しかけたその時、再び扉がノックされた。
「ローラお嬢様、お茶をお持ちしました」
「は──」
本物のローラが返事をしそうになり、慌てて自分の口を手で塞ぐ。
「入りなさい」
アリナがゴホンと咳ばらいをしながら、言葉を引き継ぐ。
テーブルに紅茶とケーキやクッキーが並ぶと、メイドは部屋を出ていった。
「はぁ。いまのでどっと疲れたわ」
冷や汗をぬぐうアリナの横で、ローラが昨日と同じように部屋に盗み聞ぎ防止魔法をかける。
「まあ盗み聞ぎするようなものはこの屋敷にはいないけど、念には念を入れて」
ベッドに突っ伏すアリナに、ローラが笑顔を向ける。
「あと今の話し方はなかなか良かったわ。でもまだまだね。明後日にはあなたは私として学園に登校するのだから、今日は私の真似を特訓するわよ」
「それはいいんだけど──」
「ん?」
「さっきのあれはなんなの」
「あれとは?」
「さっきのエルモレンコ公爵夫人に対する態度よ」
「なにかおかしかった」
「おかしいわよ。私あんな風に話したことないわよ」
あんな、一瞬で女性を口説き落とすようなテクニックは持っていない。
「お母様の信頼を勝ち取るには、あれぐらいのパフォーマンスはしないと」
悪びれた様子もなくローラに言い返される。
「でも、あんな……、まさか今日学園でもあんな感じでみんなに接してきたの」
サッと青ざめながら、嘘だと言ってというように首を振る。
「そんなわけないじゃない。ちゃんとあなたのイメージが壊れないように」
ホッと胸を撫でおろす。
「『いままで皇太子妃候補としての自覚が足りず、皆さんとの交流を避けてきてしまいましたが、これからは人の話に耳を傾け、皇太子妃候補として皆さんとも仲良くしたいと思います。なにとぞよろしくお願いします』ってちゃんと挨拶してきたわよ」
アリナの声にならない叫びは、しかし防音のしっかりした部屋から漏れることは決してなかった。
「騙すって……」
部屋の中に二人っきりになると、ローラが満足げにそんなことを言う。
エルモレンコ公爵夫人のやさしい顔が頭に浮かび、アリナはギュッと胸の前で手を握った。
「そんな言い方しないでよ──」
騙してることには変わりないが、不満げに言い返しかけたその時、再び扉がノックされた。
「ローラお嬢様、お茶をお持ちしました」
「は──」
本物のローラが返事をしそうになり、慌てて自分の口を手で塞ぐ。
「入りなさい」
アリナがゴホンと咳ばらいをしながら、言葉を引き継ぐ。
テーブルに紅茶とケーキやクッキーが並ぶと、メイドは部屋を出ていった。
「はぁ。いまのでどっと疲れたわ」
冷や汗をぬぐうアリナの横で、ローラが昨日と同じように部屋に盗み聞ぎ防止魔法をかける。
「まあ盗み聞ぎするようなものはこの屋敷にはいないけど、念には念を入れて」
ベッドに突っ伏すアリナに、ローラが笑顔を向ける。
「あと今の話し方はなかなか良かったわ。でもまだまだね。明後日にはあなたは私として学園に登校するのだから、今日は私の真似を特訓するわよ」
「それはいいんだけど──」
「ん?」
「さっきのあれはなんなの」
「あれとは?」
「さっきのエルモレンコ公爵夫人に対する態度よ」
「なにかおかしかった」
「おかしいわよ。私あんな風に話したことないわよ」
あんな、一瞬で女性を口説き落とすようなテクニックは持っていない。
「お母様の信頼を勝ち取るには、あれぐらいのパフォーマンスはしないと」
悪びれた様子もなくローラに言い返される。
「でも、あんな……、まさか今日学園でもあんな感じでみんなに接してきたの」
サッと青ざめながら、嘘だと言ってというように首を振る。
「そんなわけないじゃない。ちゃんとあなたのイメージが壊れないように」
ホッと胸を撫でおろす。
「『いままで皇太子妃候補としての自覚が足りず、皆さんとの交流を避けてきてしまいましたが、これからは人の話に耳を傾け、皇太子妃候補として皆さんとも仲良くしたいと思います。なにとぞよろしくお願いします』ってちゃんと挨拶してきたわよ」
アリナの声にならない叫びは、しかし防音のしっかりした部屋から漏れることは決してなかった。
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