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知らないうちに有名人に

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「大丈夫ですか?」

 人など通ることはないと思っていた罠に、年の頃は二十五歳ぐらいだろうか、見た目麗しい青年がかかっていた。
 一瞬とうとう異世界人と遭遇かと思ったが、その青年はこの先の山の奥の集落から来た者だった。

 どうやら数日前の嵐で村と町を繋いでいた通路が土砂で通行できなくなってしまったらしいのだ。
 そして運の悪いことに、今村人の大半が流行り病におかされていて、青年の妹もそれにかかってしまったらしい。
 村の常備薬もすでになく、物資はいつ届くか分からない、そこで青年は薬や物資を求めて山を下りている最中だったようだ。

 青年から聞いた村人と妹の病状から、早くに薬を飲めばなんてことない病気だが、遅れるとやっかいなことになる病名が浮かんだ。

 そして私は『その治療薬ならここにある材料でできるな』と思ったが、こんな山奥で女一人、原始人のように生活しているどこからどう見ても不審者、いや山姥のたぐいでしかない私の言葉を信じる者がいるとは思えなかった。
 私は説得するより、一刻も早く青年を街まで安全に送り届ける方法を考えた。

 しかし私が口を開きかけた時、青年が突然私の両の手を取って言った。

「──さんですよね」
「……えっ、あ、はい」

 久々に呼ばれた名前に一拍遅れ気味に返事を返す。

「なんで私の名前を……」
「やっぱり!」

 私は戸惑った。山に住み着いた怪しい人物として、警察から指名手配でもされてしまったのだろうか?

 そんなことを考えている私に青年は羨望の眼差しで続けた。

「中学生料理コンテスト創作部門で優勝、高校生剣道関東大会で準優勝、全国弓道大会で優勝──」

 新星を見つけたことや、環境に良い素材の開発にかかわったことなど、自分でも忘れているような出来事を青年は口早に語った。

「なぜ、そんなことまで……」

 自分のいままでの人生を見透かされてるようで、おもわずゾッとする。これはもしかしなくてもやはり青年は異世界人なのではないだろうか、そう思わざるえなかった。

「ノーベル医学生理学賞受賞おめでとうございます。今日本中であなたを探していますよ」
「ノーベル……えっ?」

 どうやら紛争地域でボランティアをしていた時作った薬草が、流行り病になる病気を未然に食い止めたとして、今更ながらノーベル医学生理学賞が決まったとのことだった。

 そしてその知らせを受けた日本政府は、私と連絡を取ろうとしたらしいのだが、務めている会社には出社しておらず、アパートも携帯も解約済み、どうしたものかと途方に暮れているとこを、マスコミがかぎつけたのだ。

 学生時代の華やかな実績。
 いまでこそ有名になった会社の影の立役者。
 今でも続いている、孤児院への寄付などの慈善活動。
 そしてノーベル賞。
 そんな人物が行方不明なのだ。

 テレビや雑誌は毎日のように私のことを取り上げた。
 何か事件に巻き込まれたのではないか?
 いまでも紛争地帯で人知れず活躍してるのではないか?
 いや、本当はそんな人物などいないのではないか?

 宇宙人・天使・異世界人。
 疑惑や憶測が飛び交った。

 それと同時に、いままで私に関わった人や、私に助けられたと名乗る人達の間から、感謝の言葉とともに、私の捜索願いの声が上がったらしい。
 しまいには前の会社の社長が懸賞金を付けて情報集めを始めたという話だった。
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