【完結】モフモフたちは見てる〜アリスのぬいぐるみ専門店〜

トト

文字の大きさ
27 / 60
第二章

のどかな昼下がり

しおりを挟む
「ところでアリス、さっきハルが見つかったとかいってなかったか」

 突然、山崎が話を違う方向にずらした。

「あぁ、だいたいの見当がついたんだ」

 ふーんと山崎は頷くと、

「いつ回復したんだ」

 と続けた。

「今日だ」
「今日か、ちゃんと学校の授業受けてきたんだろうな、まさか授業中にハルを探していたりしてないよな」

 形勢逆転か、ニヤリと笑うと山崎がそう訊いた。
 ウッと今度はアリスが押し黙った。どうやら痛いところをつかれたらしい。

「授業など聞かなくても、教科書を読めばわかる」
「要するに、授業中にずっとぬいぐるみたちと話していたということだな」

 山崎が呆れたようにため息をつく。
 その様子は我が子の非行を嘆く父親のようだった。

「自分だって仕事サボってるくせに」

 ぼそりと吐き捨てる。
 しかしもうその言葉には先ほどの勢いはない、そんなやりとりとしている間に、閉店時間の二時はまわってしまい、その話はそこで終わりを迎えた。

「ハイ、山崎さん」

 その頃合を見定めていたかのように、真が山崎の前にケーキと紅茶を差し出した。

「あぁ、今日のケーキもなんておいしそうなんだ」

 大の大人、それも普通よりいかつい男が顔の前で手を組み、まるで乙女がやるようにくねくねと体をねじりながら喜ぶ姿ははっきりいって気色悪い。
 でも、恋する男になにをいっても意味はないのだろう。体が勝手に動いてしまっているに違いないのだ。
 圭介はあえて見てみぬ振りをした。

「山崎キモイ」

 しかしアリスは容赦しない。たぶん先ほどの小言の恨みもこもっているのだろう、冷たい眼差しで山崎を見詰めながらはっきりとそう言い切った。

「今日もおいしいよ、マコちゃん最高」

 しかし、慣れているのか、本当に聞こえてないのか。当の山崎はガン無視で一口食べては、真に向かって誉め言葉を投げている。

「ありがとうございます」

 真もそんな山崎を邪険に扱うことなく、うれしそうに微笑んでいる。
 大人なのか、本当に大丈夫なのか。

「さあ真のケーキも食べ終えたことだし、さっそくクーちゃんをハルのところに返しに行く計画を立てよう」

 アリスは見てられないというようにそういうと、支度してくるといって自分の部屋に入っていった。
 さっきまでの自分もあんなふうに周りに見えていたら嫌だなと思いつつ、圭介は少し冷めた紅茶を飲みながら、ちらりと山崎を一瞥した。

「ケーキはやらんぞ」

 圭介の視線をどう解釈したのか、山崎はケーキを隠すような仕草をみせる。

「取りませんよ」

 圭介は軽くため息をつき即答した。
 一時でもこの山崎を田舎の両親と重ね合わせ、頼もしいと思ってしまったのが今は汚点のように圭介の心に広がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】25年の人生に悔いがあるとしたら

緋水晶
恋愛
最長でも25歳までしか生きられないと言われた女性が20歳になって気づいたやり残したこと、それは…。 今回も猫戸針子様に表紙の文字入れのご協力をいただきました! 是非猫戸様の作品も応援よろしくお願いいたします(*ˊᗜˋ) ※イラスト部分はゲームアプリにて作成しております もう一つの参加作品「私、一目惚れされるの死ぬほど嫌いなんです」もよろしくお願いします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

処理中です...