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第二章
ぬいぐるみショー閉幕 上
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エリザベーラ口がニヤリと笑った気がした。
あまりの光景に残っていたもう一人の子分もとうとう腰を抜かしその場にへたり込んだ。
起き上がろうとしたが足に力がはいらない。
もしこの場が日のさんさんと降り注ぐ太陽の下だったなら、ダンボール箱でなく宝石をちりばめた宝箱だったなら、ぴょんと飛び出てきたのが一匹のウサギのぬいぐるみだったなら、きっとここは楽しくてかわいらしいメルヘンの世界だったに違いない。
しかし今目の前に広がる光景は、まるで地の底から這いだし、自分たちを深い闇に連れて行こうかとするように、這いつくばりながら手を伸ばしてくるウサギのぬいぐるみの群れ。
悪夢のような光景に、三人は言葉を失ってただそれを凝視した。
「近づくんじゃない」
ほとんど半狂乱になって悲鳴をあげながら、腰をぬかしていた子分がエリザベーラに向かって続けざまに発砲する。
だがまるで草原を跳ねるように、エリザベーラはピョンピョンと飛び回り弾丸をよけた。
すでに数えきれないほど膨れ上がっていたウサギのぬいぐるみに、ぐるりと周りを取り囲まれている。その憎悪に燃えたボタンの瞳は、闇の中だというのにまるでそこだけ燃えているように光を放って見えた。
「ヒィ!」
弾が切れたのか銃をエリザベーラに向かって投げつけると、ぬいぐるみの中を走り抜けようと考えたのか、腰を抜かしていた子分がよろめきながら立ち上がり走り出す。しかしエリザベーラが鈴を鳴らすと、一瞬で、その子分もウサギのぬいぐるみの山に埋もれて動かなくなってしまった。
あの鈴がリモコンなのか?
もうそんな次元では説明できない状況だったが、他にどうこの現実を説明できるというのだろうか?
鮫島もなにが起きているか理解はできなかったが、ただ子分二人がやられたことだけはわかった。
「くそ、操っているやついるんだろ! 出て来い!」
ドスの聞いた声で脅す。
そんなことをいって出てくるお人よしの世界で生きてこなかったくせに。
「鮫島、あれはぬいぐるみにやられたわけじゃねぇ」
親分がチラリと倒れている子分の二人を見てそう言った。
鮫島ももう一度じっくり床に転がっている子分を見た。
微かに暗幕からもれる光が、子分の一人に刺さっている何かにきらりと反射する。
「あれはなんです?」
「長い針のようだ」
「くそっ、そういうことか」
鮫島が苦渋に満ちた顔をする。
「麻酔薬かなにか塗ってあるに違いないっ!」
タネがわかればぬいぐるみの群れなのど怖くはない。
どこからか飛んでくるだろう針に神経をとがらしながら、どうにか二階へと続く階段のところまでたどり着いた。
分かったとはいえこの数のぬいぐるみの中を駆け抜ける、奥の非常口に行くより、二階からいったほうが早いと考えたのだ。
それに針を投げている相手も二階にいるに違いない。
きっと相手はこの闇の中でも見えるように暗視ゴーグルかなにかで上から狙っていたのだろう。
階段の手すりを掴んだ瞬間、携帯のフラッシュオンが聞こえた。暗闇に慣れた目が突然の光に逆に闇に閉ざされたような感覚に陥る。
「親分!」
「そこか」
階段の上から襲い掛かって来た何かに向けて、鮫島が一発発砲した。
何かに当たった手ごたえはあった、しかしそれは人を撃ったというより、なにか布団を撃ったようなそんな感触だった。
上に覆いかぶさるように落ちてきたそれを手で払いのける。それは大きなウサギのぬいぐるみだった。
「どこまで人を馬鹿にする気だ」
怒りに唇を震わせながら鮫島が呟いた。
あまりの光景に残っていたもう一人の子分もとうとう腰を抜かしその場にへたり込んだ。
起き上がろうとしたが足に力がはいらない。
もしこの場が日のさんさんと降り注ぐ太陽の下だったなら、ダンボール箱でなく宝石をちりばめた宝箱だったなら、ぴょんと飛び出てきたのが一匹のウサギのぬいぐるみだったなら、きっとここは楽しくてかわいらしいメルヘンの世界だったに違いない。
しかし今目の前に広がる光景は、まるで地の底から這いだし、自分たちを深い闇に連れて行こうかとするように、這いつくばりながら手を伸ばしてくるウサギのぬいぐるみの群れ。
悪夢のような光景に、三人は言葉を失ってただそれを凝視した。
「近づくんじゃない」
ほとんど半狂乱になって悲鳴をあげながら、腰をぬかしていた子分がエリザベーラに向かって続けざまに発砲する。
だがまるで草原を跳ねるように、エリザベーラはピョンピョンと飛び回り弾丸をよけた。
すでに数えきれないほど膨れ上がっていたウサギのぬいぐるみに、ぐるりと周りを取り囲まれている。その憎悪に燃えたボタンの瞳は、闇の中だというのにまるでそこだけ燃えているように光を放って見えた。
「ヒィ!」
弾が切れたのか銃をエリザベーラに向かって投げつけると、ぬいぐるみの中を走り抜けようと考えたのか、腰を抜かしていた子分がよろめきながら立ち上がり走り出す。しかしエリザベーラが鈴を鳴らすと、一瞬で、その子分もウサギのぬいぐるみの山に埋もれて動かなくなってしまった。
あの鈴がリモコンなのか?
もうそんな次元では説明できない状況だったが、他にどうこの現実を説明できるというのだろうか?
鮫島もなにが起きているか理解はできなかったが、ただ子分二人がやられたことだけはわかった。
「くそ、操っているやついるんだろ! 出て来い!」
ドスの聞いた声で脅す。
そんなことをいって出てくるお人よしの世界で生きてこなかったくせに。
「鮫島、あれはぬいぐるみにやられたわけじゃねぇ」
親分がチラリと倒れている子分の二人を見てそう言った。
鮫島ももう一度じっくり床に転がっている子分を見た。
微かに暗幕からもれる光が、子分の一人に刺さっている何かにきらりと反射する。
「あれはなんです?」
「長い針のようだ」
「くそっ、そういうことか」
鮫島が苦渋に満ちた顔をする。
「麻酔薬かなにか塗ってあるに違いないっ!」
タネがわかればぬいぐるみの群れなのど怖くはない。
どこからか飛んでくるだろう針に神経をとがらしながら、どうにか二階へと続く階段のところまでたどり着いた。
分かったとはいえこの数のぬいぐるみの中を駆け抜ける、奥の非常口に行くより、二階からいったほうが早いと考えたのだ。
それに針を投げている相手も二階にいるに違いない。
きっと相手はこの闇の中でも見えるように暗視ゴーグルかなにかで上から狙っていたのだろう。
階段の手すりを掴んだ瞬間、携帯のフラッシュオンが聞こえた。暗闇に慣れた目が突然の光に逆に闇に閉ざされたような感覚に陥る。
「親分!」
「そこか」
階段の上から襲い掛かって来た何かに向けて、鮫島が一発発砲した。
何かに当たった手ごたえはあった、しかしそれは人を撃ったというより、なにか布団を撃ったようなそんな感触だった。
上に覆いかぶさるように落ちてきたそれを手で払いのける。それは大きなウサギのぬいぐるみだった。
「どこまで人を馬鹿にする気だ」
怒りに唇を震わせながら鮫島が呟いた。
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