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第二章
ぬいぐるみショー上演 下
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誰もいないと思われた闇の先、いや正確には下というべきか、だんだん暗闇に慣れてきた目に、ぼんやりと何かの影がうごめいているのが分かった。しかしそれは人間の視線よりはるか下、もし相手が人間ならば、ほとんど床にはいつくばっている状態だっただろう。
そしてそれは大きさ的にも、厚み的にも、人間のそれとは違っていた。
思わず情けない声を上げてしまった子分が、そのうごめいている者たちの先を見るどうやら先ほど倒れた段ボールの中からそれらは這い出てきたようだった。
自分たちが麻薬を運ぶのに使っている、ぬいぐるみが詰められた段ボールから。
チリン
チリン
何処からともなく再び鳴り響いた鈴の音に。待っていたかのようにいままで床を這っていた何かがむくりとその体を起こした気配がした。
チリン
チリン
だんだん暗闇に目が慣れてくる。
段ボールの上に、ぼんやりと白い影が浮かび上がる。それが先ほどの緑色の目をしたエリザベーラだということはなんとなく分かった。そしてその手に持つのは金色の小さな鈴。この音はそこから響いているようだった。
チリン
チリン
むくりと起き上がった者の顔が一斉に、四人に向けられる。
真っ赤な赤いボタンの目をつけたウサギのぬいぐるみたちが、闇の中で四人をじっと見据えている。
チリン
チリン
「うわー!」
バン! バン! バン!
声にならない言葉を発したまま、横にいた子分が発砲する。
「やたらに撃つんじゃねぇ!」
「でも、ぬいぐるみがっ!」
それが合図のように一斉にウサギのぬいぐるみが四人に襲い掛かる。
銃を撃った子分にウサギのぬいぐるみが次々飛びかかる、はがしてもはがしても、ぬいぐるみは次々段ボールから這い出てくるようだった。
とうとうぬいぐるみにたかられていた子分の一人がどさりと倒れた。そしてウサギのぬいぐるみに埋もれて見えなくなった。
「うぅ」
恐怖のあまり、もう一人の子分が段ボールの山に向けて発砲する。
「馬鹿やろう、弾を無駄にするんじゃない。どこかでこれを操ってる奴がいるはずだ」
足元のウサギのぬいぐるみを蹴り飛ばしながら叫ぶ。
「どこのどいつか知らねえが。ぬいぐるみ使って、人を馬鹿にするのもいいかげんしろ!」
怒声はしかし虚しく倉庫に響くだけ。
「こんな子供だまし!」
こちらの様子を見ているとすれば、やはり初めの緑の瞳のウサギのぬいぐるみ。
「エリザベーラ!」
段ボールの上で鈴を鳴らしているエリザベーラに狙いを定める。
しかし鮫島の引き金を引く指が次の瞬間恐怖で凍り付いた。
段ボールにはところどころ穴があいていて、そこからまるで助けを求めるように沢山のウサギの手足が飛び出し動いているのが見えた。
何も動いていない穴の先には、色とりどりのボタンの瞳がじっとこっちを見ている。
鮫島には慣れ親しんだ視線だった。怒りと憎悪、でもいつもはそれらは自分がいたぶってきた人間からおくられるものだった、しかい今回それはぬいぐるみたちから向けられていることをはっきりと肌で感じた。
チリン
チリン
いつの間に移動してきたのか、エリザベーラが三人の足元に立っていた。
その不気味さに、思わず鮫島だけでなく親分も一歩後ずさった。
鈴持った手を振る。
チリン
チリン
小さな鈴の音が倉庫の中で鳴り響く。
そしてそれは大きさ的にも、厚み的にも、人間のそれとは違っていた。
思わず情けない声を上げてしまった子分が、そのうごめいている者たちの先を見るどうやら先ほど倒れた段ボールの中からそれらは這い出てきたようだった。
自分たちが麻薬を運ぶのに使っている、ぬいぐるみが詰められた段ボールから。
チリン
チリン
何処からともなく再び鳴り響いた鈴の音に。待っていたかのようにいままで床を這っていた何かがむくりとその体を起こした気配がした。
チリン
チリン
だんだん暗闇に目が慣れてくる。
段ボールの上に、ぼんやりと白い影が浮かび上がる。それが先ほどの緑色の目をしたエリザベーラだということはなんとなく分かった。そしてその手に持つのは金色の小さな鈴。この音はそこから響いているようだった。
チリン
チリン
むくりと起き上がった者の顔が一斉に、四人に向けられる。
真っ赤な赤いボタンの目をつけたウサギのぬいぐるみたちが、闇の中で四人をじっと見据えている。
チリン
チリン
「うわー!」
バン! バン! バン!
声にならない言葉を発したまま、横にいた子分が発砲する。
「やたらに撃つんじゃねぇ!」
「でも、ぬいぐるみがっ!」
それが合図のように一斉にウサギのぬいぐるみが四人に襲い掛かる。
銃を撃った子分にウサギのぬいぐるみが次々飛びかかる、はがしてもはがしても、ぬいぐるみは次々段ボールから這い出てくるようだった。
とうとうぬいぐるみにたかられていた子分の一人がどさりと倒れた。そしてウサギのぬいぐるみに埋もれて見えなくなった。
「うぅ」
恐怖のあまり、もう一人の子分が段ボールの山に向けて発砲する。
「馬鹿やろう、弾を無駄にするんじゃない。どこかでこれを操ってる奴がいるはずだ」
足元のウサギのぬいぐるみを蹴り飛ばしながら叫ぶ。
「どこのどいつか知らねえが。ぬいぐるみ使って、人を馬鹿にするのもいいかげんしろ!」
怒声はしかし虚しく倉庫に響くだけ。
「こんな子供だまし!」
こちらの様子を見ているとすれば、やはり初めの緑の瞳のウサギのぬいぐるみ。
「エリザベーラ!」
段ボールの上で鈴を鳴らしているエリザベーラに狙いを定める。
しかし鮫島の引き金を引く指が次の瞬間恐怖で凍り付いた。
段ボールにはところどころ穴があいていて、そこからまるで助けを求めるように沢山のウサギの手足が飛び出し動いているのが見えた。
何も動いていない穴の先には、色とりどりのボタンの瞳がじっとこっちを見ている。
鮫島には慣れ親しんだ視線だった。怒りと憎悪、でもいつもはそれらは自分がいたぶってきた人間からおくられるものだった、しかい今回それはぬいぐるみたちから向けられていることをはっきりと肌で感じた。
チリン
チリン
いつの間に移動してきたのか、エリザベーラが三人の足元に立っていた。
その不気味さに、思わず鮫島だけでなく親分も一歩後ずさった。
鈴持った手を振る。
チリン
チリン
小さな鈴の音が倉庫の中で鳴り響く。
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